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#113【パッセンジャー】ep.1「無機質と有機質」
※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#113にあたる内容を再編集したものです。
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【パッセンジャーについて】
2016年公開(日本2017年公開)
監督:モルテン・ティルドゥム
音楽:トーマス・ニューマン
サウンドトラック
Passengers (Original Motion Picture Soundtrack)
作曲家紹介
トーマス・ニューマンさんはニューマン一族という劇伴作家として有名な一族の次男にあたる人物です。
父であるアルフレッド・ニューマンさんを筆頭に、兄のデイビット・ニューマンさんや従兄のランディ・ニューマンさんと一族皆、数えきれない程の作品を手がけています。
そんなトーマス・ニューマンさんの音楽性は、ヒューマンドラマでその力を遺憾なく発揮します。
このポッドキャストでもマイ・エレメントやショーシャンクの空に、ファインディング・ニモでみてきました。
詳しいトーマスニューマンさんの作家紹介はS2#43ショーシャンクの空にの回でやっているので、ご興味のある方はそちらも聴いてみてください。
作曲家作品
ザ・プレイヤー
ショーシャンクの空に
ジョー・ブラックをよろしく
モンタナの風に抱かれて
アメリカン・ビューティー
グリーンマイル
エリン・ブロコビッチ
ペイ・フォワード 可能の王国
ファインディング・ニモ
ファインディング・ドリー
レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語
ウォーリー
007 スカイフォール
007 スペクター
パッセンジャー
1917 命をかけた伝令
オットーという男
マイ・エレメント
登場人物
ジム・プレストン:
宇宙船『アヴァロン号』でコールドスリープから目覚める。
オーロラ・レーン:
アヴァロン号の乗客。
ガス・マンキューゾ:
アヴァロン号の甲板長。
アーサー:
アンドロイドのバーテンダー。
あらすじ
大型宇宙船のアヴァロン号は、移住のために人類を乗せ、新たな惑星を目指し旅をしていました。
乗客は冬眠状態で、120年後に目的地へ到達すると同時に目覚める手はずでした。
ですが宇宙船が旅立ってから30年後、冬眠ポッドの故障により、ジムさんは宇宙船でたった一人目を覚ましてしまいます。
船内のコンピューターに現状を確認するジムさん。
それによると、もう一度冬眠することは不可能で、地球への連絡には数十年もかかるというありさまでした。
目的地まで90年、ジムさんはこうしてたった一人過ごすことになりました。
絶望的な状況に、自暴自棄な生活を送るジムさんでしたが、ある時彼は他のポッドで眠る一人の女性に目を引かれます。
船内の情報によると彼女はオーロラさんという名で、美しく、知的な女性でした。
彼女に対し、次第に興味を持ち始め、想いをつのらせていくジムさん。
やがて彼はポッドを強制解除させ、オーロラさんを目覚めさせる方法を発見しますが、それは彼女の人生を奪うことを意味していました。
【はじめに】
この映画は100回記念のときに凛ちゃんに紹介してもらった作品なのですが、凛ちゃんの説明の時点でだいぶ面白そうだったので、今回は取り上げることにしました。
思った通り面白かったですね。
内容は冬眠ポッドが不慮の事故で開いてしまって、120年冬眠するつもりが、30年後に起きてしまうというね。
とんでもないことです。
その冬眠ポッドは一度空いたら、また冬眠することがどうもできないみたいなんですよね。
そんな主人公は1年は一人で生活していたのですが、どうしても耐えられず一目惚れした女性を冬眠から起こしてしまうわけです。
これが話の根幹でもあります。
一緒に90年宇宙船の中だけで生きようってことですからね。
ある意味で殺人かもしれないですよね。
まあでも主人公の気持ちもわかります。
一人だけで宇宙船に乗っているのは、やはり耐えられないと思います。
そんな主人公はオーロラさんという女性を起こしてから、色々と話は進むのですが、これが意外とSFパニック要素もあって、ロマンスあり、ヒューマンドラマあり、SFパニックありと、欲張りコースなんですよ。
しかしその要素はうまく絡み合って、笑いあり涙ありの映画でした。
最後がハッピーエンドかバッドってほどではないですが、バッドエンドかは、ひとりひとりの意見がありそうですね。
しかし端々に人間が抱える問題であったり、人類の課題点の要素もあって、意外と考えさせられる映画でした。
ということで、そんなパッセンジャーですが、今回話す内容はヒューマンドラマでありながらサスペンスフルな世界観の考え方について見ていこうと思います。
【ヒューマンドラマでありながらサスペンスフルな世界観の考え方】
この映画はヒューマンドラマであったり、ロマンスがあったりしますが、これが意外とSFパニックの要素もあります。
というのも、冬眠ポッドというのが登場するのですが、乗客や乗組員といった宇宙船に乗っている人ですね、全員がこの冬眠ポッドで120年間寝ることで、120年後にたどり着く移住先の惑星に歳を取らずに辿り着けるわけです。
しかし不慮の事故で、主人公のポッドだけ30年経った時に開いてしまうところから物語はスタートします。
移住先の惑星に着くのは残り90年です。
まあ生きている間には辿り着けないですよね。
生まれたばかりの赤ちゃんですら到着した頃には90歳ですもんね。
ということで、ここから話は大きく3つの道筋をたどります。
1つめは90年後惑星にたどり着くには、どうするか。
もしくは90年宇宙船内で過ごし、惑星にたどり着くことを諦めるか。
などなど主人公に突きつけられた、到着まで残り90年という状況の落とし所がひとつ。
2つめは、冬眠ポッドで寝ている一目惚れした女性を起こしてしまうことです。
これはとんでもないことですよね。
ここで起こされた人はたまったもんじゃないですよね。
今後一生を宇宙船でだけ過ごすことになるので、惑星には辿り着けないわけですから。
そして3つめは、なぜ主人公のポッドが不具合で30年後に開いてしまったのかです。
映画冒頭に隕石がぶつかったことで、主人公のポッドが起動してしまうような演出なのですが、観ていると結構な違和感があります。
というのも、物理的に物がぶつかって起きるといった感じではなく、コンピュータ制御された状態、正当な手順を踏んだ上で起こされています。
それが、コンピュータの誤作動のように見えるわけですね。
ということは、隕石がぶつかったことで、何かしらのコンピュータの誤作動やバグが発生して起きたと言うことになります。
その後も映画が進むにつれて宇宙船内のコンピュータの誤作動に気づき始める、といった事態が起きていくわけです。
ということで、起きた問題は、120年寝ているはずが30年で起こされてしまったこと。
誤作動が起きていない冬眠中の人を起こしてしまうこと。
それと船内でおきている誤作動です。
これを音楽に当てはめていくとどうなるかで、ヒューマンドラマでありながらサスペンスフルな世界観の考え方を知ろう、という算段ですね。
冬眠中の人を起こしてしまうこと
ということで、順番が前後してしまいますが、2つめの誤作動が起きていない冬眠中の人を起こしてしまうことをみていきます。
ここは複雑な人間の感情が関わってきますし、この映画の中でもかなりの部分を占めています。
まずは、一目惚れするシーンでは、アップルミュージック パッセンジャー OMPST 8曲目に収録されている「Aurora」という楽曲が演奏されます。
概要欄にアップルミュージックのURLを貼っておきますので、聴ける方はチェックしてみてください。
この時はまだ、冬眠ポッドから起こしちゃおうなんて考えてすらいない時ですね。
ただ、主人公は誰もいない船内で1年以上も生活をしていて、正直辟易していた時でもあります。
この時に演奏されている「Aurora」という楽曲、シンセサイザーの音も入っているのですが、その演奏のメインはピアノで演奏されています。
これがトーマスニューマンさんのとても上手で、感動してしまうところなんです。
ここから重要です。
これまでの楽曲はシンセサイザーがメインなんです。
そのおかげで、宇宙空間であることや、周りにあるすべてのものが無機質であるように感じさせるよう、うまく聴覚的に誘導しています。
ということは、完全な孤立を感じさせますよね。
シンセサイザーをメインの楽器にすることで、映画がはじまってから、起こすまでの間は主人公は宇宙空間に一人だけ取り残されて、今後90年近く一人で生きていかなくてはならない、ということを強く感じさせる演出になっています。
しかし、起こしてしまおうとした時に演奏されている楽曲はアコースティックピアノです。
生楽器なんですよね。
これがとても重要で、ヒロインであるオーロラさんにアコースティックを感じてしまったというか、有機質なものを感じ取ったというシーンになります。
これまでの無機質なものではないものに、気づいてしまったことで、生きる意味をそこに見出してしまったということを、音から感じさせているわけですね。
これはすごいですね。
楽器の使い分けで、映画のプロットをかき分けているということになります。
結果的に、この生きる意味を感じる有機質から冬眠ポッドを起こしてしまったことで、主人公は無機質と向き合っている時とは違う喜びとか罪悪感といった、さまざまな感情が生まれてくるわけです。
ということで、残り90年どうしようということとは別で、人と触れ合ったことで感情が生まれてきました。
一人で生きている分には、どんどん失われていくであろう感情が、呼び起こされることで90年は無理でも、ここで生きていく希望を見つけることになります。
音楽的な情報でここまで感じさせるのは本当にさすがですね。
30年で起こされてしまったこと
ということで、順番は前後してしまいましたが、1つめの、120年寝ているはずが30年で起こされてしまったことをみていきます。
これは映画の始まりにもあたるプロットです。
起きた当初、主人公はもちろん120年経ったから起こされたと思っています。
しかし様子がおかしいことにすぐに気づきます。
というのも、船内に自分しかいないからですね。
ですので、ここではサスペンス音楽が演奏されています。
しかし、映画としてはもう一つすぐに伝えなければならない情報があります。
それは宇宙船であることです。
そのため、サスペンスフルな音楽には、シンセサイザーやドローンなサウンドを使うことで、宇宙であることを表現しています。
非常に効果的ですね。
どのようなシンセサイザーの音だったか、イメージですが、音を作ってみるとこのような感じです。
(演奏)
こういった音を用いることで聴覚的にもSFであることや、宇宙空間であることを伝えています。
この映画は宇宙空間に一人取り残されるという、完全な孤立を感じさせる必要があるので、とても効果的に機能していますね。
ですので、楽曲はシンセサイザーをメインとした、オーケストラとシンセサイザーを合わせた演奏になっています。
OST 3曲目に収録されている「Command Ring」という楽曲は船内に自分しかいないという異変に主人公が気づいた時に演奏されている楽曲です。
この「Command Ring」という楽曲では、民族的な木管楽器のような音も入っていますが、オーケストラ楽器に加えシンセサイザーの音が多く使われています。
主人公が徐々に、コトの重大さというか、置かれている状況がいかに絶望的かに気づくことがサスペンスフルで、どこかホラーのような印象を与える楽曲で表現されているわけですね。
ここも、のちに登場するオーロラさんを起こした後の有機質な楽器と無機質な楽器のギャップにもなっていますね。
ですので、ここでシンセサイザーの音をメインで演奏する意味にもなっているというわけですね。
船内でおきている誤作動
そして3つめは船内でおきている誤作動ですね。
この誤作動は、一気に見つかるのではなく、徐々に誤作動が起きていることに気づくと言うのがポイントですね。
ここも音楽はサスペンスなのですが、誤作動が一気に見つかるか、徐々に見つかるかで音楽も大きく変わります。
起きている問題がちょっとずつあらわになることで、サスペンス音楽が中心になっているというわけですね。
というのも、原因も誤作動が起きていることも明確にされないことで、観客はどことない違和感を覚えます。
その違和感やなにか明確な提示がない状態に、観客にはどことない不安感や疑念が生まれます。
その時こそサスペンス音楽が演奏されるわけです。
一方、ここで誤作動が一気に起きて、早く原因を突き止めないといけない場合は、アクション音楽になります。
それは、不安感が強く、危機的状況にあることを理解できるからです。
まだ疑念であることで、サスペンス音楽になっているわけですね。
ですので、映画後半で危機的状況に陥った場面では、しっかりアクション音楽が演奏されています。
これは映画のプロットで徐々に誤作動に気づく仕組みになっていますね。
ではなぜ、わざわざ徐々に誤作動が見つかるようなプロットになったかは、オーロラさんの存在ですね。
オーロラさんとの関係性を描く上で、いきなり誤作動が起きてしまうと、二人の距離感がめちゃめちゃになってしまいます。
オーロラさんは主人公の手によって、冬眠ポッドから無理やり起こされたことを、起きてすぐには知りません。
その後徐々に二人は仲良くなり、よい関係を築くのですが、口止めしていたAIにバラされてしまって、二人の距離は遠のきます。
それはそうですよね。
オーロラさんからしたら、寝てれば移住先に着いたはずなのに、途中で起こされてもう冬眠できないとなれば、宇宙船の中で一生を過ごさなきゃならなくなったわけですから。
ある意味で殺人にも近い行いです。
そのことで主人公とオーロラさんの間に大きな溝が生まれるわけですが、その溝を埋めたのが先ほどの誤作動です。
この映画のほとんどが主人公とオーロラさんのやりとりなのですが、この映画にはもう一人登場人物がいます。
それはこの宇宙船の甲板長であるガスさんという人物で、彼も誤作動で起きます。
このガスさんのおかげで、宇宙船にとんでもないことが起きていることが解って、冬眠システムの不具合からガスさんはその後息を引き取り、二人で乗客含めた5000人の命を助けるべく、宇宙船の誤作動を解決するため奮闘します。
ここがアクション音楽が演奏されていた場面ですね。
この誤作動の解決が結果的に二人の距離を、今まで以上に近づけたことになります。
この一連の流れにおいて、誤作動と二人の関係性はうまくリンクしていたわけですね。
ちょっと余談ですが、AIのバーテンダーのアーサーさんが唯一の話相手だった主人公は、オーロラさんを起こすか起こさないかの相談をずっとしていました。
そこ後起こすことを決意するのですが、主人公はオーロラさんを起こしたことをアーサーさんに黙っているように伝えています。
しかしアーサーさんはうっかり口を滑らし、オーロラさんを起こしたのが主人公であることを伝えてしまいます。
このシーン、少しだけ違和感を覚えるんですよね。
AIが言ってはいけないと言われたことを、言うなんてことありえないと感じるんですね。
ではなぜあの時アーサーさんは二人の秘密を話してしまったかですが、2つ考えられます。
ひとつはオーロラさんが「二人の間に秘密はない」というワードに反応して、秘密にしていた起こしたことを話してしまったということ。
もうひとつは宇宙船の抱える誤作動の一種です。
前者の「二人の間に秘密はない」というワードに引っかかって、その後主人公は「レディがそう言っている」とフォローを入れるのですが、AIはそのニュアンスを受け取りきれず、話してしまったと考えるのが普通かもしれません。
まあどうして話してしまったかは明確に描かれていないので、わからないのですが、誤作動によって話してしまったと考えると少し面白い感じになります。
誤作動によってアーサーさんは、秘密を話してしまい、まあ状況はとんでもないことになるのですが、この誤作動がすべての引き金になっているとすると、主人公が30年で起きてしまったことも誤作動ですし、主人公がオーロラさんを起こしてしまうことも、人間の誤作動と取ることができます。
そして、主人公の手でオーロラさんが起こされたことを知ってしまったことも誤作動と言えて、二人の距離がまた縮まる宇宙船の問題も誤作動と言えるので、全ての原因と映画で描かれた結果は、偶然起きた誤作動によって起きたことになるわけです。
これはあくまで推測でしかないのですが、こう考えるととてもすっきりしてうまくできてるなあと思いました。
と脱線しましたが、それぞれの誤作動に相応しい音楽が演奏されることで、全く意味の違う誤作動を見せることに成功しているのは、とてもすごいですよね。
気にしてみると気づく、ほんの小さな積み重ねによって、大きな効果を得ているパッセンジャーの音楽で、ヒューマンドラマでありながらサスペンスフルな世界観の考え方でした。
【エンディング】
ということで、今回はヒューマンドラマでありながらサスペンスフルな世界観の考え方についてみてきました。
音楽を話す上で、映画のプロットに多く触れましたが、この映画の世界観と物語がそれだけ音楽と密接に関係していたこともわかりましたね。
ということで次回もパッセンジャーをやって、サブスクリプションでは「グリーンマイル」から一曲に絞ってやっていこうと思います。
サブスクリプションでは過去の特別エピソードも聴き放題で初月無料、月額300円で聴くことができますので、少しでも興味があるタイトルがあれば登録お願い致します。
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あと映画にみみったけでは、お便りも募集しています。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
ではまた!