#38【ソーシャル・ネットワーク】ep.2「サスペンス音楽と電子楽器の演出方法について」
※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#38にあたる内容を再編集したものです。
下記のアドレスでは投書も受け付けております。
■info@eiganimimittake.com
twitterでも配信情報を随時更新中です。
■https://twitter.com/mimittake
【ソーシャル・ネットワークについて】
2010年公開
監督:デヴィッド・フィンチャー
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
登場人物
マーク・ザッカーバーグ:
ハーバード大学の学生。在学中にFacebookを立ち上げる。
エドゥアルド・サベリン:
マーク・ザッカーバーグの友人。FacebookのCFO(最高財務責任者)を務める。
ショーン・パーカー:
Napsterの設立者。FacebookのCEOに就任する。
キャメロン&タイラー・ウィンクルボス:
ハーバード大学の学生。「ハーバード・コネクション」を構想する。
ディヴィヤ・ナレンドラ:
ウィンクルボスとともに「ハーバード・コネクション」を思いつく。
エリカ・オルブライト:
マーク・ザッカーバーグの元恋人。
【前回の振り返り】
前回はソーシャルネットワークに登場したピアノが主体の楽曲をみてきました。
(演奏)
この映画のピアノ曲は音数が少ないのに、感じ取れる情報がとても多いという、一番かっこいいパターンのやつでした。
映画も非常に面白く、サクセスストーリーというよりは、人間模様の描き方がとても繊細でヒューマンドラマとしての価値が非常に高いと感じました。
【映画のサスペンスフルな要素】
この映画の半分はFacebookの作成に関する場面で、もう半分が弁護士を立てた話し合いの場面です。
その場面は制作時の行き違いや、話し合いの中での回想シーンで構築されていて、その中でマークさんの人柄やFacebookができるまでの道筋が描かれた映画とも言えます。
結果マークさんは多額の慰謝料を支払う形で収束するのですが、それはマークさんの発言によるものと、弁護側の弁が大きく関わっています。
そして弁護士を立てた話し合いは、エドゥアルドさんとウィンクルボス兄弟達の2組とのやりとりになります。
ざっくりいうとエドゥアルドさんはFacebookを追い出されたことに対しての訴訟で、ウィンクルボス兄弟はアイデアの盗用が訴訟の内容です。
この話合いに関しては、音楽が多く用意されていません。
その要因は重要な会話が多い点、それとリアリティにあるととることができます。
過去の話を見ながら現在の話合いのシーンが交互にくるため、観客に混乱を招かないようにという点もあると思います。
音楽がないシーンでは、細かな音の違いを要所に配置することで、リアリティを出すようにしているようですね。
例えばウィンクルボス兄弟との話し合いのシーンと、エドゥアルドさんとの話し合いシーンでは、空調のような「ゴー」というノイズの音が違います。
もちろん両方ノイズを極力小さくすることも可能であると思うのですが、この映画ではそのような細かな環境音をわざと大きくしているようにすら感じます。
その理由はやはり、現実味にあると思います。
他のシーンでも、初めてウィンクルボス兄弟達にハーバードコネクションの話を持ちかけられた時に、雑踏や車の音、人々の会話のようなノイズを多く取り入れています。
これは他のシーンでも同じように取り入れています。
会話の邪魔にならず、ソースミュージックを使用しているシーンでも聞こえる程度に取り入れているので、意識的であり空気感を伝えるのに一役買っています。
しかしシーンによって同じ量のノイズが入っているかというと、違います。
大事なセリフや、話し合いに熱が入るとノイズの量は若干減ります。
そして今回話したいのは、サスペンスフルな要素についてです。
前に話した通り、この映画はかなりシンセサイザーが使われています。
考えられる理由は、映画自体がWebサイトを軸にした話であることと、時折顔を出すサスペンスフルな要素です。
もちろん他にも理由はあるとして、前者のWebサイトに関しては近未来的な表現の一端ですが、使われているシンセサイザーの音色が少し前の音色であることと逆に音圧がとてもモダンであることが、この映画に置いてもとてもいい意味を与えています。
ちょっと説明が難しいのですが、シンセサイザーの音が古すぎると、若干古風な印象を与えてしまい、テクノロジーを感じさせるのとは逆のイメージを与えてしまいます。
しかしその古い音を使いながら、現代的な(モダンな)音作りをすることで、古い音が一気に新しく聴こえる効果を与えています。
それが今回の映画に見事マッチしています。
現代的であることとテクノロジーを感じさせるバランス感覚は完璧です。
ピアノ曲に使われているシンセサイザーの音は割とモダンであったりするのですが。
話はそれましたが、後者のサスペンスフルな要素についてです。
これは主に弁護士との話し合いで使われています。
サスペンス音楽については#5のバックトゥザ フューチャーの回で詳しくやっているので、興味のある方は聴いてみてください。
映画のサスペンスフルな要素 シーン1
1つめは前回も登場した
30:13
ウィンブル兄弟とディヴィヤ・ナレンドラさんに起訴され話し合いのシーンです。
このシーンの詳細は前回にやっているので、割愛しますがサスペンスフルな要素として重要なのは、初めのシーンです。
相手の弁護士が証拠を示す供述をする時にサスペンスフルな楽曲が使用されます。
しかしこのシーンは途中で、フェニックスのシーンに移ったりと様々な場面展開をします。
その時にピアノやギターが追加されることで、サスペンスフルな要素は少しづつ薄れる仕様になっています。
ここでのサスペンスフルな要素を大きく担っているのはやはりSqu系のシンセサイザーでしょう。
推進力もあり緊張感もあります。
それらがサスペンスフルさを加速させていますね。
映画のサスペンスフルな要素 シーン2
2つめは
42:40
やはりウィンクルボス兄弟たちとの話し合いのシーンです。
相手の弁護士から、訴えを起こしたウィンクルボス兄弟やディヴィヤ・ナレンドラさんの家柄が資産家であるか知っているか問われます。
それは製作費の1000ドルをなぜ彼らに頼まず、エドゥアルドさんに頼んだのか問うためですね。
そのことから、初めからウィンクルボス兄弟達を裏切る算段があったのではないかという意味での質問だと思います。
まるで推理小説のようですよね。
ここでサンペンス音楽ですね。
犯人を追い詰める刑事さながらの弁を披露していますね。
主人公にとっては敵なんですけどね。
このウィンクルボス兄弟達の弁護士はやり手なのか、このようにマークさんをじわじわ追い詰め、結果的に6500万ドル勝ち取ったようですね。
ちなみにウィンクルボス兄弟は、ボートの選手で北京オリンピックで6位だったそうですね。
映画のサスペンスフルな要素 まとめ
というわけで、シンセサイザーの使われている理由とたまにみせるサスペンスフルな要素についてでした。
もちろん、トレント・レズナーさんとアッティカス・ロスさんが電子楽器に特に精通しているという点もシンセサイザーが使われてた大きな理由の一つだと思います。
音楽から読み取れる点も多く、音楽賞こそ取れなかったものの現代的な映画音楽の指標を作ったように感じる素晴らしい作品でした。
【シンセサイザーの多様性】
前回この映画は、純粋ではないけれどピアノが主体の楽曲、電子楽器主体の楽曲、ソースミュージックが全体を占めているという話をしました。
割合も、映画内で演奏される回数は31回で、そのうち純粋ではないけれどピアノが主体の楽曲は4回、電子楽器とピアノの割合が半々くらいの楽曲は6回、電子楽器主体の楽曲7回、ソースミュージックが13回という割合になります。
あとの1曲は原曲のある楽曲をリアレンジしている楽曲でした。
こうみるとソースミュージックが非常に多いですね。
やはり、伝記映画ということもあって、リアリティを出す目的が大きいと思います。
ピアノ主体の楽曲は前回これでもかというほどやったので、今回は電子楽器のみの楽曲が、どのような機会で演奏され、どのような効果をもたらしているかを見ていこうと思います。
シンセサイザーの多様性 シーン1
電子楽器主体の楽曲は7回演奏される機会があります。
まずは
9:16
彼女に振られた後、フェイスマッシュというFacebookの前身となったWebサイトを作っているときのシーンです。
このシーンではマーク・ザッカーバーグさんがWebサイトを作る場面と、 フェニックスというエリートしか入れないサークルの場面がまるで対比的に描かれているようなシーンですね。
アップルミュージック ザ ソーシャルネットワーク サウンドトラック フロム ザ モーション ピクチャー 2曲目に収録されている、「イン モーション」という楽曲です。
四つ打ちというビートでダンサブルではありますが、ここは準備シーンのようなアッパー過ぎない楽曲ですね。
そして四つ打ちのビートとはこのようなビートでしたね。
(演奏)
そして、マーク・ザッカーバーグさんの友人であるエドゥアルド・サベリンさんが彼女と別れたことを心配して、会いにきてくれたシーンで演奏は止まります。
このリズムが強調された楽曲は、マークさんがWebサイトのアイデアがどんどん湧き出て完成していく、前進していくような推進力を与えています。
なにかに没頭していて、他のことが頭に入ってこないような状態って、現実にもありますよね。
そんな状態を感じさせる、非常に表現力の高いシーンですね。
シンセサイザーの多様性 シーン2
次は
12:45
エドゥアルド・サベリンさんが、フェイスマッシュのアルゴリズムを考えて完成させるシーンです。
先ほどよりもリズムのパターンは遅く、制作している時ほどの推進力はないものの、推進力を失ったわけではありません。
1つ前と同様フェニックスとのシーンが対照的に描かれていますね。
アップルミュージック ザ ソーシャルネットワーク サウンドトラック フロム ザ モーション ピクチャー 3曲目に収録されている「ア ファミリア テイスト」という楽曲です。
この一連の出来事がきっかけで、マークさんは停学処分を受けるのですが、どこか誇らしげな表情で演奏は止まります。
この楽曲にはどこか不安感や緊張感があります。
その理由はこのフェイスマッシュの作成動機が関わってくるように感じます。
それは、彼女への反骨心のような復讐心のようなものが、このWebサイトを作った動機となっているように考えられます。
そして、このWebサイトはハーバード内で爆発的にアクセスされ、結果サーバーをダウンさせるに至ります。
この出来事で、マークさんは非常にポジティブな達成感があったとは思いますが、他の学生から、特に女子生徒や元彼女からは確実に白い目で見られることになります。
この内的な視線と外的な視線に差が生まれるシーンでもあります。
そこが描かれているということが、この緊張感や不安感を感じる楽曲が使われている理由にも感じます。
シンセサイザーの多様性 シーン3
次は
35:21
友人との会話の中からFacebookの決定的なアイデアが思い浮かび作業をするシーンです。
その後、Webサイトとしてリリースするシーンで演奏は止まります。
アップルミュージック ザ ソーシャルネットワーク サウンドトラック フロム ザ モーション ピクチャー 6曲目に収録されている「ペインテッド サン イン アブストラクト」という楽曲です。
前者の2曲に比べると、リズム楽器がありません。
正確にいうと、ドラムマシーンがないんですね。
今までは、ドラムマシーンの音があることで、リズミックな要素に特化していてどんどん進んでいくような推進力を感じさせます。
しかし今回はSqu系のシンセサイザーが音としてのリズムの要素を与えているものの、ドラムマシーンがないため先ほどより推進力が出ないような構成になっています。
というのも今回は、決め手にかけることでリリースまで踏み出せなかった訳なので、大きな一歩ではあるのですが、どんどん進んでいくような推進力というのは必要ないということですね。
このあたりが非常に上品ですね。
映画の内容としては、一歩ではあるものの大きすぎる一歩なので、ヒロイックな楽曲を演奏する場合も想定できます。
しかしここでは、派手にはせず、あくまでも日常の一旦のような楽曲に落とし込むことはやろうと思ってできることではありません。
かっこいいですね。
シンセサイザーの多様性 シーン4
次は
39:10
ディヴィヤ・ナレンドラさんがFacebookの存在に気づき、ウィンクルボス兄弟へと伝えにいくシーンです。
この楽曲はOSTになく、非常に短い楽曲です。
いわばこの発覚が元で訴訟を起こすことになるのですから、重要なシーンです。
この時の楽曲は非常に暗く、どんよりと重たい作曲がされています。
まさにといった感じですね。
もしここで、テンポの早いコミカルな楽曲なら完全にコメディ映画になってしまいますね。
シンセサイザーの多様性 シーン5
次は
56:26
ウィンクルボス兄弟達が、訴えを聞き入れないマークさんに手を焼いて、ハーバード大学の学長に直々に話に行く計画を立てるシーンです。
次のショーン・パーカーさんのシーンに変わる時に演奏は止まります。
しかしOSTに収録されている楽曲は4分3秒の長さに対して、実際映像に使われたのは34秒程度です。
アップルミュージック ザ ソーシャルネットワーク サウンドトラック フロム ザ モーション ピクチャー 7曲目に収録されている「3:14 エブリィ ナイト」という楽曲です。
非常に重たい低音と、何かが蠢くような音が不安感を高めます。
展開は1:48あたりからメロディともとれるような、音が入ってきます。
おそらくはほぼシンセサイザーで、蠢く音の正体もシンセサイザーか、ミュートしたギターか、なんとも微妙な音の正体を隠しているような不思議な楽曲です。
2:47あたりからピアノでフレーズが演奏されます。
実際は映画内では楽曲の冒頭から34秒程度なので、ここまで聞く場合はOSTに限られます。
楽曲のどれもこれも全てがネガティブな印象を受けるものばかりです。
映像としても、訴えを起こす話ばかりで、険悪なイメージの中、学生倫理規定を破ったことを学長に言いに行くシーンとなります。
とても正気の沙汰とは思えないような行動をとるくらい、彼らが張り詰めていることもわかり、そこでこの楽曲ですからとても怖いシーンに仕上がっています。
シンセサイザーの多様性 シーン6
1:33:17
エドゥアルド・サベリンさんが、Facebookの制作に使用していた口座を凍結し、Facebookに出資する会社が見つかったシーンです。
そして出資先の人が「エドゥアルド・サベリンって誰だ」という台詞で演奏は止まります。
アップルミュージック ザ ソーシャルネットワーク サウンドトラック フロム ザ モーション ピクチャー 15曲目に収録されている「オルモスト ホーム」という楽曲です。
基本リズムが主体の楽曲ですが、ここでもどこか不安感が募る作曲がされています。
低音のピアノがD(レ)を一定間隔で弾き、ドラムマシーンと細かいサイン波、クリックのような音ですね、が一定のリズムを刻みます。
その後、一定の間隔で変化するシンセサイザーが登場したり、歪んだギターのような音が現れたりと、決して明るいイメージは受けない楽曲になっています。
このシーンでは口座の凍結と出資する会社が見つかるという両極端の話が出てきます。
口座の凍結はネガティブなシーン、出資する会社が見つかったシーンはポジティブなシーン、主人公であるマークさんからするとそうとれるシーンですが、このシーンの主役はエドゥアルド・サベリンさんです。
エドゥアルドさんからするとこの二つはある意味でネガティブ、もしくはマークさんとは真逆の口座凍結がポジティブで、出資する会社が見つかったことはネガティブととることもできます。
非常に崩れやすい若者ならではの現象とも言えますね。
エドゥアルドさんはFacebookがうまく行くことを願っているような、そうなった時自分に価値がないと判断されてしまうかもという感情とで冷静とは 取れない判断をしているようにも見えます。
その感情を表現しているような、そんな楽曲に聴こえます。
シンセサイザーの多様性 シーン7
最後に
1:34:30
エドゥアルド・サベリンさんが部屋で寝てると、鍵をガチャガチャされドアが開くと彼女が入ってくるシーンです。
言葉にするととてもロマンチックに聞こえなくもないですが、ここでは彼女は別れを告げにくるシーンですので、ネガティブな印象ですね。
そしてこのシーンは先ほども登場した「3:14 エブリィ ナイト」の冒頭が使われているのではないかと思います。
確定ではないのですが、音程、音色をとってもほぼ一緒ですね。
このシーンでも演奏は短く、20秒程度で演奏は止まります。
暗い部屋で、鍵をガチャガチャされ、この音楽が流れたらそれはほぼホラーですね。
というのもここでのエドゥアルドさんは、かなり参ってたように感じます。
先ほどの口座凍結の後なので、気分的にもかなり落ちた感じで、彼女が来た演出なのにとても怖がっているというわけですね。
ここは短いけれども、端的にエドゥアルドさんの心情も描いてくれているので、音楽の演出がとてもわかりやすいシーンですね。
シンセサイザーの多様性 まとめ
電子楽器主体の楽曲を見てきたのですが、前進しているような推進力のある楽曲と、暗く不安感や緊張感のあるネガティブな印象の楽曲が多かったですね。
この二つの示す先が破滅のように感じさせるのも狙いなのか、話も含めた上での物語性なのかはわかりませんが、とても興味深い作りですよね。
実際に映画内で使われていない楽曲も多く、OSTを聴くと非常に聴きごたえがあるのですが、映像にはその一部しか使わないといった、言い方を変えれば贅沢な使われ方がされていました。
もちろんシーンに合うように切り取られているのですが、OSTがそれ単体で作品性が高いので、名盤といってもいいかもしれません。
OSTを聴いている印象、トレント・レズナーさんとアッティカス・ロスさんも全部使うつもりで作っていないようにどこか感じます。
これは感じるだけなので、そんなことないかもしれませんが。
【エンディング】
2回に渡って、「ソーシャルネットワーク 」について見てきました。
本当に作曲の細やかさであったり、音作りの大胆さに耳を惹かれましたね。
ピアノ曲の繊細な作りは音程の数は少ないにも関わらず、推進力があったり、逆に静まりかえった水面のような表現が本当に際立っていました。
電子楽器を使った作曲でも、音色と音作りの組み合わせによって、モダンで新しい音を作っていたりと、どこを聴いても耳が楽しい、そんな楽曲の数々でした。
ちなみに、「すばらしき映画音楽たち」でもメインテーマのような「ハンド カバーズ ブルズ」について少し触れているのを見ることができます。
その「ハンド カバーズ ブルズ」はサブスクリプションで詳しくやっているので、興味のある方は初月無料ですのでぜひ聴いてみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
ではまた!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?