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BOOK REVIEW 文学フリマ編その2 空飛ぶ円盤が宇宙人の乗り物でないとしたら? 様々な仮説をまとめた『UFO手帖』09号
1年に1冊、「UFO=宇宙人の乗り物」というオカルト雑誌の定説をこえて、UFOについての奇妙な事案、不思議なことに熱中する奇妙な人の生涯など、自由闊達に特集する同人誌『UFO手帖』。今回で9冊目。1冊目が出たとき(2016年)当時、中野の特殊書店タコシェの店長をしていた伊東美和さんから「面白い本が入りましたよ」と連絡を受け、さっそく購入して以来、毎年ネット通信販売で購入、遂にそれではいかんと文学フリマで最新号が発売されると購入しに行って、『映画秘宝』で紹介記事を書いた。それが縁でSpファイル友の会のナカネさんとSNSでつながり、最新号ができるとお知らせいただくようになった(『映画の整体解剖』の共著者・稲生平太郎先生も参加していたりする)。
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それで12月1日の文学フリマに、『映画秘宝』校了中の隙を狙って伺ったところ、今年の最新号をご恵贈いただいた。ナカネさんや編集長にご挨拶することもできた。例によって造本はA5版のハイセンスなデザイン、文学フリマでの特典で帯付きになっている。さらには以前の通販で買い逃していたジャック・バレ『マゴニアへのパスポート』が数冊出ていたので迷わず購入だ。
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特集は「真夜中の円盤仮説」。UFOは宇宙人のヴィークルではない。だとしたら何か? というテーマを様々な人が語っている。UFOの不思議さがこの1冊によって加速する。若くして亡くなったマック・コニーズが残した円盤仮説についてまえがきで記した後はUFOのイマジネーションが一気に爆発する。
UFOとは何かを論じている仮説の世界は様々だ。今回の特集では、最初に「円盤生物」説からスタートする。乱暴にまとめると不定形の巨大なクラゲのような生物が目撃されるとUFOになるという仮説。執筆したペンパル募集氏は2004年にメキシコ沖で複数の謎の飛行物体が群れのような集団を作り、急降下したりする様子を目撃、戦闘機が出撃し「まるでUFOの雨だった」とコメントが残された「宇宙から来たチクタク」事件のことを知り、「UFO=未確認生物」論の世界を調べていく。そこで登場するのが「クリッター」だ。『グレムリン』のドジョウ映画ではない。それは『宇宙大怪獣ドゴラ』(1964年)やジョーダン・ピールの『NOPE/ノープ』(2022年)に登場するようなもの(ただ映画のような凶暴な生き物ではない)で、古くはコナン・ドイルが書いた短編に登場し、不思議記録人チャールズ・フォートが様々な事案を集めて自分の書籍に入れている。この当時はまだUFO=宇宙船という考えはなかったが、空飛ぶ円盤は実は未確認生物なのではないか? という仮説を立てて研究する人たちが現れる。クリッターは日本でも80年代に出された未確認動物本に写真が出ていたので、ご存じの方もいると思う。
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さらに紹介されていく仮説はユングの精神投影説やUFO研究者の中で宇宙人の乗り物とされる考えは少数になりつつあるという衝撃的な書き出しに始まるスペインの研究者ホセ・アントニオ・カラバカの大論文、秘密兵器、電磁波まで紹介されていき、円盤仮説について書かれた本のカタログも入っている。
また読み物記事も例によって充実している。1970年代にたくさん発行されていた男性誌(今の出版不況で『週刊プレイボーイ』を除いてほぼ全滅した雑誌群)でUFOはどのように伝えられたか? と調べる記事は労作だった(大宅図書館だけではすまないであろうジャンルだ)。また「UFOと映画」では『ブルークリスマス』(1978年)と一緒に今年の大問題作『宇宙探索編集部』が取り上げているのがさすがだ。『西遊記』をベースにフォーティアン編集長の生き様(それは『未知との遭遇』のようなハッピーエンドではない)を描いた奇妙な中国映画だ。この映画にロマンを探るのではなく、1本の映画としてきちんとレビューされている。この不思議なことはあるかもしれない、でもそれに溺れないという『UFO手帖』の編集スタンスがしっかりと通されている。
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原稿執筆中にどうしても思い出せない日本での宇宙人遭遇事件の名前が出てこず、「タコもどきの異星人」との遭遇話の内容がとんでもないことを記したコラムも面白い。「介良事件」「甲府事件」と並ぶ日本UFO三大事件とは、「仁頃事件」のことだ。この事件はなぜか振り返られることがなく、知る人ぞのみ知る幻の事件になってしまった。
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『UFO手帖』はこうしてUFOへの記憶と探求意識を目覚めさせる効能もある1冊だ。内容の紹介、まだまだ色々あるのだが、やはり実物を手に取ってもらうのが一番。
『UFO手帖9.0@真夜中の仮説』は現在、BASEショップで購入可能。価格1300円。在庫僅かなので興味のある方は急いで。