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BOOK REVIEW『UFO手帖7.0』フォーティアンでいこう! チャールズ・フォートの奇妙で貴重な仕事と『マグノリア』
年に1冊、濃厚極まりない特集で読者を驚かせるZINE『UFO手帖』。今年はなんと超常現象蒐集家チャールズ・ホイ・フォートが巻頭を飾る大特集だ。
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フォートには4冊の著作があるが、日本語に翻訳されたものはない。そこで著作権フリーになった原著を取り寄せ、ありとあらゆる手段をもって翻訳し、フォートの風変わりな仕事、そして彼の人生をまとめていく。尋常ならざるを得ない努力が結実している。何しろ某出版社がフォートの本を出すと一度は予告したものの、その悪文ゆえに(コリン・ウィルソンによる評)未だ刊行されないほどの代物だからだ。
そんな事情もあってフォートの名前はまだ日本でも知る人ぞ知る存在だ。フォートの影響がある映画はポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』。映画の冒頭に掲げられた奇妙な話もそうだが、丁寧に演出された群像劇が一気に吹っ飛ぶあのクライマックス……カエルの雨が突然降ってくるシーンこそ、フォートが著書で紹介しているファフロツキーズ現象だ。カエルに限らず、魚など異物が突然空から降ってくるファフロツキーズ現象は、雑な懐疑派の弁では遠方の地で竜巻などの天候の変化によって空に巻き上げられた異物が落ちてくると、これは粗っぽいまとめだが、そのように解釈されているが、その実態は未だに謎だ。フォートは日がな一日図書館にこもり、こうした不思議な現象を集めていた。カエルの雨をはじめとするファフロツキーズ現象について、フォートは「スーパーサルガッソ海」説を唱える。地球上で失われた物が集まる空の海のようなものがあり、そこからカエルや魚が時々降ってくるというのだ(P 31)。
フォートはファフロツキーズ現象のみならず、人体発火、未知動物、人語を喋る動物、そしてテレポーテーション(この言葉はフォートが作った)など、超常現象の基礎を書物として初めてまとめた男である。その作業を知る友人たちの提案により、奇妙な現象を集めるフォーティアン協会が結成されるが、フォートは会長の座につくことはなかった。権威に抗う反骨の人だったのだ。その姿勢は科学への盲目的な傾倒の拒否、そして自分が新聞から集めた奇妙な話を鵜呑みにしない反ビリーバー的な立場だった。フォートの仕事を継承した1冊『フェノメナ—怪奇現象博物館』を参照に、本書においてはフォートの姿勢を、
・どんな現象も容認する。
・どんな現象も完全には信じない。
・どんな現象も完全な説明が必要であるとしない。
の3つにまとめている。これは『UFO手帖』のこれまでの編集方針にも通じるものだ。志を同じくするイギリスの雑誌『フォーティアン・タイムズ』(古き良き90年代、渋谷のタワーレコードの洋書売場が充実していた頃、定期的に購入できた)の日本特派員だった『映画の生体解剖』著者・稲生平太郎による同誌の翻訳記事も5本収録され、サブテキストも充実している。映画に寄せて書けば、『マグノリア』にももちろんページを割き、そのフォーティアン度をパーセンテージで分析、とてつもない数字を叩き出している(P73)。
『UFO手帖』ではこれまでジャック・ヴァレ、ジョン・キールといった、一筋縄ではいかない研究者の世界を特集してきたが(その前身である『Spレビュー』では『何かが空を飛んでいる』ファンブックとして稲生平太郎もフィーチャー)、チャールズ・フォートをテーマにしたことで、UFOに対する距離の取り方をより鮮明に打ち出している。頑固なビリーバーでも冷笑的なスケプティクでもない、空飛ぶ円盤にまつわる様々なことを容認し、愛でる、その姿勢はラディカルだ。文学フリマで限定配布された帯にあるように1秒先が見えない世界において、「自由」で「贅沢」だ。
フォーティアン特集に続く読み物記事も相変わらず濃厚で、特に興味をひいたのが、『未知との遭遇』公開時に配給のコロムビアが自作した社内資料。アメリカの男性誌に掲載された本作のアドヴァイザー、J・アレン・ハイネックのインタビューを完全翻訳して冊子にしたもので、よくこんなものが入手できたものだと驚かされる。またNHK-BSの優良オカルト番組『ダークサイド・ミステリー』でも取り上げられ、UFOナレーションの第一人者・矢島正明が絶好調で宇宙人の言葉を吹き替えした、イタリアのチェンニーナ事件のその後の検証などなど、全ページが圧倒的なUFO愛に溢れている。このZINEを読んでフォーティアンになろう!
文学フリマでの販売後、現在はBASEオンラインSHOP、spfile.thebase.inで購入できます。1200円。(編集部・田野辺)
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