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岡田准一以上の適任者はいない、その“生き様” 【次に観るなら、この映画】10月9日編

 毎週土曜日にオススメ映画3本をレビュー。

①岡田准一が主演し、新選組副長・土方歳三の生涯を描いた「燃えよ剣」(10月15日から映画館で公開)

②「007」シリーズ25作目で大ヒット中の「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」(公開中)

③世界中で恐ろしいほどの絶賛を浴びているSF大作「DUNE デューン 砂の惑星」(10月15日から映画館で公開)

 劇場へ足を運ぶ際は、体調管理・感染予防を万全にしたうえでご鑑賞ください!

◇岡田准一以上の適任者はいないと感じさせる土方歳三の生き様(文:映画.com副編集長 大塚史貴)

「燃えよ剣」(10月15日から映画館で公開)

 激動の幕末で、たった6年間しか存在しなかった「新選組」がどのような末路をたどったのか、歴史ファンならずとも多くの人が知っているはずだ。司馬遼太郎の傑作小説を原田眞人監督のメガホンで映画化する「燃えよ剣」は、徳川幕府が大政奉還により朝廷へ政権を移譲するなか、最強の剣客集団を作り上げ、最後まで戦い抜いた新選組副長・土方歳三の生き様を描いているが、一貫しているのはバラガキ(ならず者)と呼ばれていた頃から、「剣に生きる」ことに対してどこまでも誠実であり続けたということだ。

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 これまでに、土方を演じてきた俳優は数多くいる。栗塚旭(「燃えよ剣」1966年の映画版と70年のドラマ版)を筆頭に、ビートたけし、山本耕史、渡哲也、地井武男、近藤正臣、中井貴一、役所広司……。それぞれの作品で多くのファンを唸らせ、楽しませてきたが、今作で土方に息吹を注いだ岡田准一は次元の異なる高みへ到達したのではないだろうか。

 武州多摩の農家出身だった土方は、バラガキと呼ばれながら武士になることを夢見て剣の道を追い求め、武士よりも武士らしく筋を通す生き方を貫いた。洗練とはかけ離れた足運び、身の丈に合わない刀を欲して姉夫婦に資金をねだる言わば覚醒前の「トシ」時代から、戦いに疲れ、虚しさを感じながら我が身を奮い立たせ、箱館で壮絶な死を遂げるまでを見るにつけ、土方を生き切ることが出来るのは、原田監督に「超一流の武芸者が俳優のふりをしているような人」と言わしめた岡田以上の適任者はいないとすら感じさせる。それほどまでに、剣技の構築と指導も担った岡田の役割は大きく、原田監督が求めるものを具現化してみせたと言っていい。

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 原作の愛読者であれば、新選組内に漂う男色の気配が後に内部崩壊を招いていくさまが余すところなく描かれていることこそ「是」とするかもしれない。その実、大島渚監督は司馬の短編集「新選組血風録」収録の「前髪の惣三郎」と「三条磧乱刃」を原作に映画化した遺作「御法度」では、男色の視点で艶やかに描いている。

 だが原田監督は今作ではその要素を極力排除し、土方を介して「剣に生きる」という眼差しを注ぐことで、「生き抜く誠」を表現してみせた。観る者も、そんなことは些末な問題だということをスクリーン全体から浴びるように感じ取ることになるだろう。

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 それもこれも、岡田をはじめとするキャスト陣が役を生き切ったからこそだが、なかでも伊藤英明が芹沢鴨を魅惑的に体現している。劇中のセリフ「俺は桜田門外で死ぬはずだった」が印象的で、死にきれなかったからこそ酒と女性に逃げ、ついに訪れた儚さが滲む散り際は見事で、爛々と輝いてさえ見えた。

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◇ダニエル・クレイグ最後のボンド作品は多様性あふれるアクション・メロドラマ(文:映画.com外部スタッフ 本田敬)

「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」(公開中)

 6代目を15年にわたり演じてきたダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドが、5作目にして卒業を迎える。まさに「スター・ウォーズ」か「ゴッドファーザー」か、ボンドの血脈にまつわる壮大な物語がついに幕を下ろす。前作「スペクター」で、孤児のジェームズと兄弟として育てられた男が黒幕だったことが判明したが、そこに殺人ウィルスを操る新たなる敵サフィンとの因縁も絡みあい、予想不可能な結末を迎える。

 既報通りシリーズで唯一ボンドが結婚する過去作「女王陛下の007」を色濃く反映、恋人マドレーヌの陰惨な過去、彼女がボンドと育む愛の形が描かれる。冒頭に「カジノ・ロワイヤル」で死んだ恋人ヴェスパーの墓参りシーン(「ユア・アイズ・オンリー」のオマージュか)を入れるなど、メロドラマの要素も強く多義性に富んでいる。

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 「スカイフォール」からのテーマ、スパイ諜報戦を手がけるMI6部門が時代遅れという議論は、同ジャンルの傑作「裏切りのサーカス」の原作で知られるル・カレのスマイリーものが出版された70年代から題材とされてきたが、本作ではそれをより進展。新エージェントとのジェンダーレス、エイジレスなチームプレイを実現、時代に合わせた試みを模索した脚本チームの技に唸る。

 ボンドと新007のギャップあるバディ感、MI6とCIAのコラボと探り合い。前作で初対面のマドレーヌを即座に仏人だと見破った慧眼の士Qのキャラを立たせ、イジられ要素含め活躍させたりと遊びや仕掛け満載ながら、コンプライアンス、ボーダレス時代に命懸けで国益を守るスパイの存在意義という矛盾も同時に浮かび上がる。

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 原作ボンドの条件、身長180cm超、面長、黒髪、灰色の瞳に合致せず(クレイグは178cm、金髪、青い瞳)、「カジノ・ロワイヤル」の襲名イベントでは安全ベルト付でボートに乗り登場、会見では緊張からの無口が災いし、メディアは落胆、アンチの発生で大炎上したクレイグも遠い昔、今ではタフで寡黙な佇まいと大怪我も厭わないスタントが評価され、歴代最高ボンドのリブートに成功した。

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 「ロード・トゥ・パーディション」で組んだサム・メンデスを推薦、英国の陰影にこだわる「スカイフォール」を創り上げたクレイグだったが、今回は次世代ボンド作品の候補になっていたところ、降板したダニー・ボイルの代打として急きょ打席に立った初の米人監督キャリー・フクナガをパートナーに、リアル路線踏襲と伏線回収に加え、有終の美を飾るという難事業に挑んだ。

 多言語話者で移民視点を持ち、日系人役で俳優経験もあるフクナガは、多様性ある物語を163分にバランスよく収め、泣けるボンド映画に仕上げた。これきっかけで映画館通い再開の人も多いと思うが、人間関係で混乱しない様に「スペクター」の事前鑑賞を推奨します。

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◇SFジャンルとの連戦を布石に、ビルヌーヴはエピックの難山を制す!(文:映画評論家 尾崎一男)

「DUNE デューン 砂の惑星」(10月15日から映画館で公開)

 「ブレードランナー 2049」(17)で偉大なカルトSFを拡張させた監督ドゥニ・ビルヌーブの新作は、大河SF小説の古典として誉れ高き「砂の惑星」の再映画化。1984年にデビッド・リンチによって実写大作となったが、5時間近い粗編集を半分に削られて物語に一貫性を欠き、自らも映画化を志したアレハンドロ・ホドロフスキーいわく「失敗作だ!!」と落胆(狂喜)させる結果となった。

 恒星間航行をも可能にする生命維持香料「メランジ」の産出地である、砂漠の惑星アラキス。そこは残忍なハルコンネン家が支配していた。だが皇帝はアトレイデス家を新たな統治者となるよう指図し、両勢力の紛争をくわだてる。物語は特殊能力を操る女性教団ベネ・ゲセリットの血を引き、やがて宇宙に調和をもたらすとされるアトレイデス家の子息ポール(ティモシー・シャラメ)が、己れの使命に目覚めていくまでを描く。

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 ビルヌーヴ版はリンチ版のネガティブ要素を踏まえ、原作の前半部をすくい取り作品を構成している(そのため冒頭に出るタイトルは“DUNE PART ONE”)。だが驚異的なことに、登場人物それぞれの役割と世界観の詳述にほぼ全編を費やし、そのような半身の状態にありながらも、今回のバージョンは息を飲むほどの出来に仕上がっているのだ。

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 プロダクションデザインも予告編からはリンチ版と代わり映えしない印象を受けたものの、本編を通じて明らかになっていくそれは、哨戒船からコスチュームまで機能的かつパワフルな牽引力を有し、ひとつの空想世界を見事なまでに創造・可視化している。キャストもただ巨額の大作であることに比して豪華スターを並べたものではなく、各キャラの性格づけや容姿を的確に再現。これらがひいては映画が持つ、とてつもない説得性へとつながっていく。

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 なにより要となる砂漠のイメージは、かの「アラビアのロレンス」(63)を連想させ、ステラン・スカルスガルドのカーツ大佐(「地獄の黙示録」(79))を思わすハルコンネン男爵の役作りからは、本作が巨大イベント映画としてあらんとするテンプレが顕著に感じられる。新型コロナウイルス感染拡大の影響から、本作も配信による公開が検討されたが、あくまで劇場での上映にこだわった監督の意図と成果がここにある。

 妥協により意訳化されたリンチ版と違い、本作はまぎれもない「砂の惑星」として成立しているといっていい。「ブレラン2049」そして「メッセージ」(16)に次ぎ、ドゥニはまたひとつ、SFジャンルにおいて大きな爪痕を刻みつけ、エピックの難山を制したのだ。

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