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とんでもない衝撃的日本映画「さがす」がついに公開されたのでレビューしました 【次に観るならこの映画】1月22日編
毎週土曜日にオススメ映画をレビュー。今週は3本ご紹介します。
①「連続殺人犯を見つけた」と言って姿を消した父親と、必死に父を捜す娘の姿を描いたヒューマンサスペンス「さがす」(1月21日から映画館で公開)
②旅客機墜落事故の真相究明にあたる音声分析官が、航空機業界の闇を暴くサスペンススリラー「ブラックボックス 音声分析捜査」(1月21日から映画館で公開)
③家族の中でただ1人の健聴者である少女の勇気が、家族やさまざまな問題を力に変えていく姿を描いたヒューマンドラマ「コーダ あいのうた」(1月21日から映画館で公開)
劇場へ足を運ぶ際は、体調管理・感染予防を万全にしたうえでご鑑賞ください!
「さがす」(1月21日から映画館で公開)
◇もっとも見てほしい佐藤二朗がここにいる 予想外の終点へと誘われる“さがす”物語(文:映画.com編集部 岡田寛司)
片山慎三監督の新作――待ちわびていた1本だ。初手となった「岬の兄妹」で重い一発をくらい、実在の事件をフィクションへと鮮やかに落とし込んだ「そこにいた男」に唸り、WOWOW版「さまよう刃」によって暗澹たる気持ちにさせられた。
毎度毎度、心がしんどくなるのだ(それが心地よい)。唯一無二の衝撃作と銘打たれた「さがす」。同作もまた、平静を保つことが難しかった。
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発想の源となったのは、片山監督の父親の実体験。「大阪で指名手配犯を見かけた」。そんな非日常の出来事から、独創的な物語が立ち上がっていく。実際に起こった数々の事件の要素を織り交ぜつつ、不穏な言葉を残して姿を消した父、中学生の娘、指名手配中の連続殺人犯の行動と決断を“三本柱”として、予測不能のストーリーが進行していく。
商業デビュー作でシリアスな演技を見せてほしい――佐藤二朗は、片山監督たっての希望で主演を託された。人として生きることの苦悩と矛盾を体現し、真相が明らかになるまで「一体、何を考えているのか判然としない」という不穏さを身に宿す。この底知れぬ凄みたるや……。パブリックな「笑い」というイメージだけでとらえるのは勿体ない。今、もっとも見てほしい「俳優・佐藤二朗」が、ここに映し出されている。
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さて、佐藤は主演という立場上出ずっぱりかと思いきや、序盤で早々に姿を消してしまう。私たちはタイトル通り、登場人物たちと共に、彼を“さがす”ことになるのだ。この行為を表したシンプルなタイトルが秀逸。額面通りにとらえれば「父を“さがす”」ということになる。
しかし、これはあくまで「娘の視点」。物語は次第に「殺人鬼の視点」「父の視点」へと切り替わる。そして、各パートにおいて“さがす”という言葉の意味合いが増えていく。それぞれが何をさがしているのか――これが作品のキモとなっているのだ。
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“さがす”という行為は、目的の存在に対して、直線的に進むことの方が稀だろう。蛇行し、道を誤ることもあれば、引き返すことだってある。
片山監督は、その過程に仕掛けを忍ばせる。それが終点へと辿り着くまでに「見たくないもの」「気づきたくないもの」を認知させるというもの。これらの積み重ねによって、キャラクター(と観客)は始点からは想像だにしない結末へと誘われてしまう。
佐藤だけでなく、伊東蒼、清水尋也、森田望智らの存在感も◎。全員怪演といっても差し支えない。目を背けたくなるような描写、ヘビーなエッセンスをはらんだ内容ではある。しかし、ち密に構築された脚本、片山監督らしいユーモラスな描写が強みとなり、エンタメ性に富む仕上がりになっている点が、とにかく素晴らしい。
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「ブラックボックス 音声分析捜査」(1月21日から映画館で公開)
◇素晴らしい音響編集が効果を発揮 予想より壮大で邪悪なテーマを描いている(文:映画.com DanKnighton)
「ブラックボックス 音声分析捜査」は、陰謀説も根強い2014年のマレーシア航空370便墜落事故や2015年のジャーマンウイングス9525便のパイロットによるフランスアルプスへの自爆急降下、2018年のライオン航空610便、2019年のエチオピア航空302便の致命的なコンピューター不具合を複合した、謎の飛行機事故を描くフランスの新作テックスリラー。
上空を飛行中の機内を映し出す長回しのオープニングは、飛行機恐怖症の人なら誰でも不安になるような緊張感を効果的に演出している。残骸から発掘されたフライトレコーダー(通称「ブラックボックス」)を航空専門家が分解するシーンは、不気味であると同時に魅力的だ。
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マチューは音声分析の第一人者だが、捜査を進めていく中で国際航空局の幹部や航空機メーカーの大物たちの妨害に遭う。彼は、ブラックボックスに保存された音声ファイルを分析する鋭い探偵の耳を持っている。
この映画では、ヘッドホンを装着することで神秘的な領域に深く入り込むシーンもあり、「サウンド・オブ・メタル」に匹敵する素晴らしい音響編集が効果を発揮している。また、事故機の残骸を集めた格納庫で瞑想するシーンでは、映画では滅多に見ることのできない科学捜査の描写が心に残る。
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この映画は最終的に、前半で予想されたよりもはるかに壮大で邪悪なテーマへと導かれる。それは、「ターミネーター」で予言され、最近では一般大衆の間でも大きな関心事となっているかもしれないもの、すなわち我々が依存する機械による反乱への恐怖である。映画は後半からトム・クランシー級のサスペンス・アクションに変身し、マチューはロマン・ポランスキー監督の「ゴーストライター」の複雑なプロットを思わせるほど周到に仕掛けられた謎に正面から挑んでいく。
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前半の不気味さに比べれば、この変化は笑い話として片付けたくなる。必ずしも悪いわけではなく、ただ馴染んでいるだけなのだ。どちらかというと、もう少し短い方が、より強いパンチがあったかもしれない。
それでも、この映画は、今世紀の第2クオーターを目前にした世界の苦悩を示すものとして、新鮮な印象を与えてくれる。
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「コーダ あいのうた」(1月21日から映画館で公開)
◇障がい者を描きながらも従来イメージのアップデートに挑戦した感動作(文:映画.com外部スタッフ 本田敬)
昨年4月のサンダンス映画祭で観客賞など4部門を受賞、同映画祭史上最高の26億円でAppleが配給権を獲得した注目作。障がいを持つ家族と暮らす少女の夢と青春を描く、2014年のフランス映画「エール!」のハリウッド・リメイク。タイトルのコーダは「Child of Deaf Adults」(ろうあの親を持つ子供)の意味。
マサチューセッツ州の港町グロウスターで漁師をして暮らすロッシ家。豪快な性格の父フランク(トロイ・コッツァー)、美魔女な母ジャッキー(マーリー・マトリン)、ハンサムな兄レオ(ダニエル・デュラント)はともに聴覚障害者で、唯一の健聴者で音楽好きの娘ルビー(エミリア・ジョーンズ)はいつも家族の耳となって、仕事や身の回りのことを一手にサポートしていた。
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彼女はある日、ふとしたキッカケから入った高校のコーラス部で、歌の才能を認められる。努力すれば州都ボストンのバークリー音大への進学も夢ではないと、顧問の教師は興奮を隠せない。しかし、家を離れることは、家族が社会とのコミュニケーション手段を損ねることを意味していた。レッスンを受け開花するルビーと、戸惑う家族たち。そして彼らが選んだ決断とは…。
元になったフランス映画「エール!」でも共通しているのが障がい者の描かれ方。性に対してあけすけで、無理を承知で主張を押し通し、Fワードも使えばナンパもする、見栄を張って自分を盛ってみせるなど、これまでにはなかった自由で個性的な人物たちが魅力的だ。障がいの有無に関わらず、みんな違って当たり前なのだと今更ながら気付かされた。
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監督は前作「タルーラ 彼女たちの事情」よりもこなれた演出で、重いテーマに正面から挑んでいる。ちなみに「エール!」は一家が田舎で酪農を営み、父親が村長選挙に立候補したり、弟が姉の親友に手を出したり、セクシャルな課題曲ばかり選ぶ音楽教師が超毒舌だったりと、コメディ色が強くサラリとして上映時間もコンパクトにまとまっている。
日本でも約60年前に、CODAをテーマにした「名もなく貧しく美しく」という名作がある。終戦直後の新橋で靴磨きをしていた、実在のろうあの夫婦を描いた作品で、演じた高峰秀子と小林桂樹は、役作りのため街角で靴を磨き、当時は珍しい手話を交えた演出が話題になった。
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そのなかで彼らに子供が出来て健聴者だと判明したとき、喜びの余り毎日ラッパを鳴らして赤ん坊の反応を見る、というくだりがある。だが本作ではルビーが「聞こえる」と分かった時の母ジャッキーは「分かり合えないと思い悲しくなった」と告白する場面がある。この差は時代か、国の違いか、今回改めて考えさせられた。もし機会があればこちらもぜひ見て頂きたい。
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