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【アジア四方山話:第1回】中国では“情緒映画”が流行?「横道世之介」豪華版BDの秘話も

読者の皆様、こんにちは。

映画.com編集部の岡田と申します。

映画.com本体の方では、映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さん「どうなってるの? 中国映画市場」の編集を担当しております。

同コラムでは、タイトル通り、徐さんに中国映画市場のアレコレについて書いてもらったり、中国映画人のインタビューを依頼しています。是非読んでみてください。

さて、ここからが本記事の制作経緯となります。

僕と徐さんは「コラム会議」と称して「次回のコラムネタはどうするか」ということを常々話し合っているんです。難航することもありますが、時にはすんなり決まってしまうことも。そんな時は、どうしているか――ひたすら“映画について駄弁る”んです。

その内容は基本的に記事にはすることなく、その場限りで消費されていました。

でも、振り返ってみると「メチャクチャ面白い話ばっかりだったな」と感じることもあるんです。

だったら「その“駄弁り”を公開しちゃおう」と。

脱線することも多々ございますが、ご容赦くださいませ(笑)。

今回の内容は、2021年2月26日に行った“駄弁り”でございます。お楽しみください!

■中国の元旦休暇について――実写版「コナン」みたいな映画とは…?

岡田 さて、次回コラムのネタもまとまりましたし……、駄弁りましょうか(笑)。まずは中国映画市場について話を聞きたいんですけど、2021年1月のトピックスってありますか?

 やっぱり元旦休暇の成績ですね。これで中国のマーケットが“完全復活”したんです。元旦休暇前の20年12月31日は、累計興行収入が約5億3600万元(約85億8000万円)。この数字は18年12月31日の約5億1600万元(約82億6000万円)を超えて、同日の歴代最高記録になりました。でも、良い話ばかりじゃないんです。この休暇後、興収が期待できるような作品が控えていなかった。1月10日付近のマーケットは瀕死状態でした。かなりの旧作が継続上映されていましたよ。これ、中国国内からするとかなり異例なんです。

岡田 どういうことです?

 中国では、大体2週間程度で上映が終わるんですよ。アンディ・ラウ主演の「Shock Wave2(英題)」なんて2カ月くらい上映されていました。

岡田 なるほど……。新作がないから“上映せざるを得ない”状態だったんですね。

 そう、期待できる作品が全然なかったんです。改めて、洋画の重要性というものも感じましたね。20年12月25日から公開された「ソウルフル・ワールド」なんて、海賊版も出回ったのに、今の時点で興収60億円超えましたから。そういえば「ゴジラvsコング」は、米公開が3月31日。中国は3月26日に封切りなんですけど、理由分かりますか?

岡田 え? どんな理由なんです?

 米公開時には「HBO Max」で同時配信がスタートしますよね? ということは海賊版が出回っちゃうんですよ……。

岡田 あー、なるほど……。そしたら、今後も「HBO Max」の同時配信案件って、中国では先行、もしくは同時公開になる可能性大ってことですよね?

 そういうことです。「ワンダーウーマン 1984」も先行公開でしたから。

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「Shock Wave2(英題)」

岡田 ちなみに、さっき話に出た「Shock Wave2(英題)」って見たんですか?

 見ましたよ。「劇場版名探偵コナン」の実写版みたいな感じ(笑)。

岡田 どういうこと(笑)!

 最初から最後までテンションの高い香港映画でした。こういう香港作品は久々かもしれません。

岡田 前作「SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班」は、 日本でも18年8月に公開されていたみたいですね。前作との繋がりって、どんな感じなんですか?

 全然関係ないんです。

岡田 衝撃の事実(笑)。

 香港映画、よくこういう描き方をするんですよ。“続編”って書いてありますけどね(笑)。前作同様、アンディ・ラウが出てますけど、そもそも演じている役が違うんです。テーマが同じというだけ。ちなみに、大陸で上映された香港映画という括りでは、歴代1位の興収を更新したんです。こういうテイストの香港映画は、大陸ではかなり健闘していますね。そういえば、香港の映画館は、20年の12月前半から2月中旬まで営業停止していたんです。それまでランキング1位の座に君臨していたのが「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」ですよ。

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「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

岡田 「鬼滅」って、香港ではかなり早く上映されたんでしたっけ?

 最初は台湾、次に香港。そこから韓国、タイでも。ちなみに、台湾では歴代10位の興収記録です。

岡田 いやー、凄い……。全世界興収で換算すると、とんでもないことになりそう。

 現時点だと、4億ドルを超えています。これ「TENET テネット」超えていますからね。話を戻しますが、中国マーケットの大きな課題が見えたんです。それはハリウッド映画を抜きにして生存していけるかということ。これ、今の段階では難しいんですよね。

■中国の旧正月について――映画館で鑑賞料金値上げ!?

岡田 旧正月(=春節)の大型連休(2月11~17日)の成績も発表されましたよね。累計興行収入が78億2200万元(約1282億円)って……。正直、意味が分からん数字ですよ(笑)。この結果を見ると、安泰なのかなって思っちゃうんですけど。

 旧正月期間のポイントは「普段は映画を見ない人が、見に行っている」というものなんです。中国の伝統行事になりつつありますね。紅白歌合戦のような総合エンタテインメント番組があるんです。「春晩」って言うんですけど、どんどんつまらなくなってきているんです(笑)。北部に住んでいる方は「この番組を見ないと、1年を終えられない」という感じですが、南では真逆なんです。私も子どもの頃、「春晩」を見ることに抵抗感があったんです。中学生の頃なんて「おまえ、こんな番組見るの?」って感じ(笑)。

岡田 「おまえ、まだこんなの見てんのかよ、古くせーよ!」って感じ(笑)?

 そうそう。それで経済が発展して、人々が豊かになっていくと「じゃあ、旧正月って他に何ができる?」となったんです。確か5、6年前だったと思いますが、急に「皆で映画を見に行きましょう」という流れになったんですよ。その後、旧正月は、大型映画の重要な上映期間になったんです。

岡田 今回は話題作7本上映されましたよね。

 色々な記録を更新しましたね。いわば「映画鑑賞=イベント」のような感じ。だから、家族で見に行くんです。田舎の映画館の興収って、年間の3割を旧正月期間で稼ぐんですよ。だから、チケットも値上げする。

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岡田 え? 値上げするんですか?

 値段を調整できるんです。地方都市のチケットは、上海より高いですよ。

岡田 へー、不思議ですね。日本であれば、地方に行けば行くほど、その地域の方々を優遇するようなイメージあるんですけど。

 爆発的に儲けられる機会ですから。「唯一の娯楽」と言ってもいいかもしれない。

岡田 だから、皆値上げしても来るのか……。

 内陸部だと、冬の場合、どこに遊びに行けばいいのかという問題があるんです。映画館以外だと、ボウリング、ビリヤード、ダーツくらいかな……?

岡田 そもそも娯楽が少ないんですね。

 少ないですね。北部の方なんて、めちゃくちゃ寒い。マイナス20度とか普通ですから、外にいたら危険でしょ(笑)。

岡田 じゃあ、日本に来て、娯楽の豊富さを実感しました?

 そうですね。冬でも、色々な場所に旅行できますから。中国だと、冬は……、温泉がないのが辛いんですよ。あとは食べるくらいしか……。

岡田 温泉ないんですか?

 ありますけど……、あれって、温泉って言っていいのかな。水着で入るようなところなんです。

岡田 それはちょっと温泉のイメージとは違うかもしれない(笑)。さっきチケットの値上げ話が出ましたけど、どのくらいの値段感なんですか?

 場所によって異なりますけど、倍の値段をとることもありますよ。

岡田 倍! 普段はいくらくらいなんですか?

 地方だと400円くらいかな? 上海、北京だと大体700円、800円とか。旧正月期間は、地方だと1500円になることも。でも、皆見に行きますよ。年に1回のことだから。

■「唐人街探案3」の評価と逸話

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「唐人街探案3(原題)」

岡田 旧正月映画で気になったのは、妻夫木聡さん長澤まさみさん浅野忠信さんたちが参加した人気シリーズ第3作「唐人街探案3(原題)」なんですよ。2020年1月25日の公開延期から、丸々1年も宣伝して、ようやく封切りという感じでしたね。

 ネットでは、もちろんトレンド入りです。予約の段階で歴代記録をいくつも更新しましたけど――最も驚いたのは、公開初日で興収10億4200万元(約170億円)。

岡田 というか、そもそもチケットの値段が安いんですよね? ということは、かなりの人数が行かないと、この数字にはなりませんよね。

 動員は1億6000万人ですよ。日本の国民が全員見ているというレベル(笑)。ただ、中国らしいなぁと思う展開もあったんです。公開初日で一番重要なのは、ソーシャル・カルチャー・サイト「Douban」なんです。今回、旧正月で上映された作品には、事前に点数が付けられていませんでした。

岡田 それは“あえて”?

 そう。点数が出ちゃうと、宣伝に影響しちゃいますから。「Douban」は、中国のどのメディアよりも影響力が大きいんです。これは間違いありません。「Douban」に出る“最初の点数”で、その映画の流れがなんとなくわかるんです。「唐人街探案3(原題)」は、確か最初は7点(10点満点)くらい。この点数は、そんなに高くないんです。

岡田 公開前に点数を出さないと判断したのは「Douban」サイドなんですか?

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(C)「唐人街探案3」万達影視伝媒有限公司/北京壹同伝奇影視文化有限公司/中国電影股[イ分]有限公司

 そう。混乱しちゃうからね。公開初日の午後3時くらいから、ひとつずつ点数を解禁していったんです。そう言えば「唐人街探案3(原題)」の製作がきっかけで、栃木・足利に渋谷のスクランブル交差点(オープンセット)が作られたことって知ってますか?

岡田 はい。以前ちょろっと聞きましたね。「本物のスクランブル交差点で撮影がしたい→無理→じゃあ、作ってしまえ」という流れですよね。すげー流れだ(笑)。

 「今際の国のアリス」チームも出資していますね。エキストラも大勢いて、新宿から足利までバスで輸送。現地参加の方々も含めると、4、5000人位いたようです。秋葉原でも撮影しているんですよ。その時、台風が来ていたんですけど、監督は「それでもやりましょう」って……(笑)。

岡田 マジですか。昨今では「現場を守るため、ルールを徹底していく」という流れにあると思うんですけど……。

 中国は、資本主義だからね。全て“資本”を基に話すんです。“資本”を持っている人が全てです。撮影が早めに終われば、その日はすぐに解散ということもある。予定時刻を過ぎても「やれ」と言われることもある。でも、皆ちゃんとお金がもらえるから反対しないんですよね。「アメリカン・ファクトリー」を見たらわかりますよ。中国人&アメリカ人の考え方と価値観がモロに出ていますから。

岡田 見てみます! 他に注目した作品はありました?

■中国映画界を席巻する“情緒映画”

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「Hi、Mom」​

 業界では「Hi、Mom」という映画が話題になっていました。「唐人街探案3(原題)」を超えて、おそらく興収は800億円くらいになるはず(※4月上旬時点では、900億円突破)。製作費自体は「唐人街探案3(原題)」の10分の1くらいですね。お母さんをテーマにした感動系の作品なんです。これは旧正月期間に向いている。ただ「これは映画なのか?」という意見も結構出ていたんです。

岡田 なんでそんな意見が出たんですか?

 前提として、こんな話があるんです。それは「中国映画界の興行収入の限界は、どこになるのか?」というもの。10年くらい前に「アバター」が上映されたんですが、その時の興収は12億元。約200億円弱です。「アバター」が上映された時、「この記録を抜くのは『アバター2』だろう」なんて言われていたんですが、それは間違いだったんです。歴代1位となったのは「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」。興収は56億元。では「アバター2」が、今後中国で上映されたとしたら――ここ数年の傾向を見てみると、40億元に届くかどうかということになっています。結論を言えば、最近では「映画を見に行かない人たちに向けた作品」を作れば、興収増加に結びつくということになっているんです。

岡田 あ、なるほど!

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「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」

(C)Beijing Dengfeng International Culture Communication Co., Ltd. All Rights Reserved.

 「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」もプロパガンダ映画なので、愛国心を持っている人たちに響きました。映画を見るというよりも、イベントに参加するといった方がいいのかな。「Hi、Mom」も、そういう感じに似ているんです。カンヌ国際映画祭批評家週間の審査委員も経験した方が、「Hi、Mom」のことを“情緒映画”と称してました。

岡田 “情緒映画”? どういう意味なんですか?

 つまり、感情を誘発させる映画ですね。そういう映画の方が稼げるんです。実はこの流れ、韓国も同じなんですよ。韓国の歴代興収1位は、「エクストリーム・ジョブ」に抜かれるまで愛国映画だったんです。名前、なんだったかな……、チェ・ミンシクが出ているやつ。

岡田 「バトル・オーシャン 海上決戦」ですかね?

 そう! それです。ちなみに大谷亮平さんも出ているんですよ。で、この“情緒映画”が中心となるとすれば、どうなるのか。「技術の進歩もいらなくなるんじゃない?」って話になるわけですよ。「どんなに撮影技術&CGを磨いても仕方ないのでは?」となるんです。

岡田 「唐人街探案3(原題)」は、世界で4番目に「全編IMAX撮影」を実現させた作品ですよね。「Hi、Mom」、それを超えちゃったのか……。となると、今後は海外発信を重視するような作品というより、自国民の感情を誘発するための作品が増えていくんですかね?

 ビジネスという観点では、反対しないんですけどね。全部が全部そうなってしまうと、それはどうなんだろうって思います。

岡田 アート映画の監督たち、余計に苦しくなりますよね……。

 アート系の監督だけじゃなく、大作を作っている監督たちも厳しくなるのかも。ちょっと怖い状況なんですよね。

■韓国&台湾映画界の注目トピックス

岡田 悩ましい……。あ、韓国映画界の話でもします? 最近何かありました?

 韓国Netflixのラインナップ発表会があったんですけど、あれは凄かったですね。2021年は、韓国に5億ドル投資するみたいです。アジア全体では10億ドルなので、韓国に半分を投資した形ですね。ゾンビ時代劇「キングダム」の脚本家が面白いこと言っていましたよ。「Netflixは脚本に口出ししない。お金を出すだけ」だって。

岡田 それって以前からなんですかね。

 最初は意見することもあったそうですけどね。

岡田 じゃあ、もう土壌が整ったということなのかなぁ。

 Netflixは、今後も韓国を拠点にして色々な作品を製作するみたいです。「キングダム」シーズン2で、チョン・ジヒョンの出演が明らかになったじゃないですか。彼女を主演にして特別編を作りますよ。それとユ・アイン主演のドラマ「地獄」という作品が、韓国Netflixの一押しになるみたいです。

岡田 へー! しかも、監督が「新感染」シリーズのヨン・サンホじゃないですか!

 そうなんです。多分、映画規模のレべルで作るんでしょうね。一方で、Netflixがこういう規模感で作品を作ると、韓国映画界はどうなっちゃうのかなと心配になります。そうそう、青龍映画賞も発表されましたね。グランプリは「KCIA 南山の部長たち」。主演男優賞と新人監督賞を獲った「音もなく(原題)」は結構話題になった作品です。

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「KCIA 南山の部長たち」

(C)2020 SHOWBOX, HIVE MEDIA CORP AND GEMSTONE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

岡田 受賞結果から何か見えてくるものはあります?

 うーん、いつも通りのセレクションだなって思います。監督賞を獲得した「ユンヒへ」は、岩井俊二監督作品にオマージュを捧げていますね。「Love Letter」を意識して、小樽まで撮影に行っています。LGBTQ+の要素もある、とても美しい作品ですね。でも、やはりコロナの影響なんでしょうか。話題作が少ないという印象でした。

岡田 前回は「パラサイト 半地下の家族」がありましたもんね。

 韓国はメジャー作品は似たような傾向になってきていると思っているんですが、一方でインディペンデント映画ではさまざまな才能が出てきている感じですね。例えば「チャンシルさんには福が多いね」「夏時間」。80、90年代生まれの監督陣が、是枝裕和監督の影響を受けているんです。ホウ・シャオシェンエドワード・ヤン、もちろん“大先輩”である小津安二郎からもね。東洋の文脈を継承して頑張っているんです。「春江水暖 しゅんこうすいだん」グー・シャオガン監督も、彼らに影響を受けたひとり。東洋らしさというのが重要になってくると思います。

岡田 「春江水暖 しゅんこうすいだん」は“THE東洋”ですもんね(笑)。

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「春江水暖 しゅんこうすいだん」

(C)2019 Factory Gate Films All Rights Reserved

 そう、あれは西洋でウケますよ。誰もが簡単にはホン・サンスのようにはなれないんだから……、地道に何をしていくべきなのか。西川美和さん「すばらしき世界」でも感じましたが、やっぱり“脚本力”だと思うんです。演出は、監督の個性を発揮するもの。でも、その前に、まずは脚本がしっかりしていないと……、演出も上手くいかないんです。

岡田 中国では、脚本家の地位ってどうなんですか?

 高いですよ。あと、中国では大体、監督が自分で書いちゃいますね。特に新人監督は自分で。ビー・ガン「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」)なんて、自分で書かないと、あんなの撮れないでしょ(笑)。台湾映画、最近見ました?

岡田 あ、Netflixで「ひとつの太陽」見ましたよ。あれは良かったですね~。

 「弱くて強い女たち」という作品もNetflixで配信中なので見てみてください。今後、Netflixにこういう作品が配信されるという流れになっていくと思うんですよ。台湾映画は、大陸とは違って“自分らしさ”を伝える作品が増えてきています。「弱くて強い女たち」は、ビビアン・スーさんがキャストとしてだけじゃなく、プロデューサーとしても参加しています。中華圏の役者は、よくこういうことをするんです。有名になってから、プロデュース&出資も兼ねていく。ちなみに「泣く子はいねぇが」という日本映画がありますよね。福山雅治さんがクレジットされているんですよ。

■「横道世之介」中国豪華版BDの秘話を明かします

岡田 へー、それは初耳……! じゃあ、最後に「横道世之介」の中国豪華版BDの話でもしますか。これは徐さんから連絡を受けて記事化させていただいた件。かなり好意的な意見が多くて、皆「欲しい!」って言っていました。でも、買えない……、残念(泣)。

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 まぁ、一応大陸向けの商品だからね……(笑)。

岡田 とにかくパッケージのデザインが素晴らしいですよね。

 これは中国でも有名なデザイナーが担当しています。パッケージを出したのは「Diskinomedia」という会社なんです。

岡田 「横道世之介」パッケージの企画を担当したのは、顧鵬遠さんという方ですよね。どんな人なんですか?

 顧鵬遠さんは、イギリスに留学されている方で、アジア映画をヨーロッパに発信するということをやっているんです。今、25、6歳じゃないかな。

岡田 え、そんなに若いんですか? 僕、てっきり30代、40代くらいだと思っていました(笑)。

 2014年に大学入ったばかりって言ってるからね(笑)。もっとアジア映画を海外に発信していきたいという考えがあるみたいです。元々「Diskinomedia」の社長・王さんと知り合いで、国際映画祭に行ったときに「横道世之介」の海外版権を持っている方とも知り合いになった。そこから企画がスタートした感じです。

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「横道世之介」

(C)2013「横道世之介」製作委員会

岡田 運命的な出会いだったんですね。「中国本土では10年以上、日本の実写映画がBlu-ray化されていないんです」というコメントもありましたけど。

 中国のソフト業界は、完全に終わってしまったと言ってもいいと思いますよ。まだ動いているのは、国営を含めて、3、4社くらいじゃないかな。今の小学生、ソフトというものをあまり知らないんですよ。全部配信になっちゃったから。

岡田 それでもBlu-rayを出すんですね。

 要するに、クライテリオン社と同じやり方ですね。良作を出せば、まだ買う人はいますから。「Diskinomedia」では、エリック・ロメールのボックスを出したこともありましたね。海外作品をパッケージ化するのって、めちゃくちゃ手間がかかるんですよ。「横道世之介」に関しては、日活さんが非常に協力的だったようです。でも、顧鵬遠さんはコロナの影響で、中国に戻ってこられなかったんですって。イギリスに滞在しながら、オンラインで作業を進めていったらしい。予約日の2月23日は、もともとは発売日にする予定だったんです。コロナの影響で予約開始日に変わったという感じです。

岡田 あれ、オンラインで完成させたんですか……、実に現代チック! 徐さんは「横道世之介」いつ見ました?

 私は、12年の東京国際映画祭かな。その前に「キツツキと雨」も東京国際映画祭で鑑賞して、沖田修一監督に取材しました。作品はもちろん、沖田監督も非常に面白い方ですよね。「キツツキと雨」は上海国際映画祭でも話題になったんです。だから「横道世之介」もきっと話題になるだろうと。案の定、かなり話題になっていましたね。追加上映したんですよ。もともと3回くらいだったのが、8回くらいになったのかな。一般層にも人気が拡大していった感じですね。理由は“共感しやすい内容”。

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(C)2013「横道世之介」製作委員会

岡田 え? わりとニッチじゃないですか。日本の大学が舞台だし。

 東洋文化としては、近いものがあるんですよ。昨年、国際交流基金がテンセントと一緒にオンライン映画祭を企画して、そこでも上映したんです。マーク・チャオさんが、沖田監督、主演の高良健吾さん、プロデューサーの西ヶ谷寿一さんと対談していましたね。チャオさんは「この映画の大ファン。沖田監督と一緒に作品を作りたい」と言ってました。“良い作品は好き”という感覚は、全世界共通ですね。

岡田 続編小説「続 横道世之介」も発売されましたよね。

 中国でも発売されましたよ。これをきっかけに何かできるといいんですけどね。それと顧鵬遠さんが言っていたのは、日本側と連絡を取るのが大変だということ。今後、ソフト業界が生き残る道は「特典の充実」「クラシック作品の再リリース」だと思いますね。

岡田 良い作品を、良い形でパッケージに仕上げていくということですね。

 クライテリオン社もやっていることですよね。クライテリオン社は、欧米中心なんです。アジア中心でクライテリオン社のようなブランドができたらいいなと思っているんですけどね。あとね、こういう時代だし、もうリージョンコードもフリーでいいんじゃない? 「君の名は。」とかは、リージョンコードフリーですよ。ソフトが広がっていく可能性が生まれますから。それにね、エドワード・ヤン監督の「ヤンヤン 夏の想い出」のソフトは「クライテリオン社のものが一番良い」とされている現実。これはどういうことなのって話ですよ。アジアの作品なのにね……。王さんと話す機会があったんですけど「未だに“モノに対する執着”は消えていない」って。日本もわりと“モノへの執着”は強いですよね?

岡田 あー、それはあるかもしれないです。良い作品は、“モノ”として手元に置いておきたいんですよ。無論、配信もめちゃくちゃ利用させてもらっているんですけど、ある日急に見られなくなるってことあるじゃないですか。「配信は〇月〇日まで」という知らせを受けて、大急ぎで見るという感じ(笑)。

 配信は、基本的には「見るだけ」になっちゃうじゃないですか。ちょっと価値が下がってしまうというか……、だから、昔からクライテリオン社のソフトを買ってるんです。なんだろうな……、パッケージから出して、デッキに入れるまで……、儀式みたいな感じ?

岡田 うん、わかりますよ。儀式って感じ。

 顧鵬遠さんも自分でソフトをコレクションしてきた人だから、こういう儀式がすごく重要だと考えている人なんです。作品の持つ力を、もっと多くの人に知ってもらいたいという気持ちで企画を進めていました。大体1年くらいかけて、完成にこぎつけたのかな。

岡田 ソフトの所有って、パッケージのデザインが“目に見える”という点も良いなと思っているんですよね。デザイン、タイトルが目に飛び込むと、脳内で作品が勝手に再生されるというか……。あんなシーンがあったな、このシーンが好きなんだよな、そういえばこの作品を見た頃こんなことがあったな――そして、また見たくなっちゃう(笑)。この感覚って、能動的にサイトへアクセスしなきゃいけない配信系では味わえない。

 ソフトは作品の延長線上にあるものですね。ファンが「欲しい」という気持ちも含めて。

岡田 お金を払うことで、作品への愛も示せますしね。他の日本映画にも“可能性”ってあると思います?

 全然ありますよ。日本国内でも、(良い形での)クラシックの再リリースに力を入れていけばいいと思います。海外では、何度も“小津”が出ていますから。

岡田 そうだ、これも聞きたかった! 「横道世之介」は、10年代の日本映画ですよね。中国だと、他にはどんな“10年代映画(日本映画)”が人気なんですか? 

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「海街diary」

(C)2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

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「ハッピーアワー」

(C)2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト

 一般層と批評家層で変わってしまいますけど――やはり一般層のウケがいいのは、是枝さんの作品ですね。一番人気があるのは「海街diary」かな。業界ウケがいいのは、濱口竜介監督「ハッピーアワー」ですね。10年の作品になってしまいますけど「告白」「悪人」も人気ありますね。「横道世之介」は、実写映画のベスト5には入るはず。ちなみに、沖田監督の新作「子供はわかってあげない」は、昨年、第23回上海国際映画祭で上映されたんですが、とても良かったです。見てみて下さい!

岡田 承知です! もう1時間20分くらいしゃべってますね(笑)。そろそろ終わりにしましょうか。また次回!

 はい、また次回!


岡田さん


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