「本屋大賞」から生まれた映画たち おすすめ7作品と映画化リスト79作品 「鹿の王 ユナと約束の旅」公開記念【映画.comシネマStyle】
毎週テーマにそったおすすめ映画をご紹介する【映画.comシネマStyle】。
2015年第12回本屋大賞で大賞に輝いた上橋菜穂子著の「鹿の王」を、「もののけ姫」「君の名は。」の作画監督・安藤雅司が初監督した「鹿の王 ユナと約束の旅」が、2月4日より公開となります。そこで今週は、「本屋大賞」から生まれた映画たちをご紹介します。
「本屋大賞」は、2004年(平成16年)に設立され、一般の文学賞とは異なり、作家・文学者は選考に加わらず、「新刊を扱う書店の書店員」の投票によって、ノミネート作品および受賞作が決定されます。毎年10~11作品がノミネートされ、大賞はもちろん、ノミネート作品の多くが映像化されています。
その中でも、編集部おすすめの7作品をご紹介。最後に映像化作品リストもご用意しましたので、合わせてチェックしてみてください。
▽「楽しそうに生きていれば、地球の重力なんて消してしまえるんだ」
「重力ピエロ」
(2009年/119分/森淳一監督)
原作:伊坂幸太郎著「重力ピエロ」(第1回本屋大賞 5位)
第1回本屋大賞へのノミネートに加え、第129回直木賞候補にもなった、伊坂幸太郎氏の同名小説を映画化。
原作でも鮮烈な印象を残す「春が2階から落ちてきた」という一文。映画の冒頭、その一文にあたるシーンを見ただけで、伊坂作品が見事に映像化されていることに確信を持つことができると思います。満開の桜と、当時20歳の岡田さんのみずみずしさもあいまって、美しく、忘れられないシーンになっているんです。
ネタバレ防止のため多くは語れませんが、最初は連続放火事件の犯人や、家族の謎を解き明かすミステリーが展開され、やがて家族がある悲劇のなかでも、希望を見出そうとするヒューマンドラマへとつながっていきます。家族とは何か。正しいこととは何か。重いテーマを扱いながらも、原作同様の軽妙な語り口で、家族が出したある結論が描かれています。
そして、兄弟を演じた加瀬さんと岡田さん、父役の小日向文世さん、母役の鈴木京香さん、全員の演技が本当に素晴らしい。誰もが「いつまでもこの家族を見守っていたい」と願ってしまうほど、その佇まいがどこまでも家族らしく、あたたかいんです。春が口にする偉人たちの名言や、父の「俺たちは最強の家族だ」「楽しそうに生きていれば、地球の重力なんて消してしまえるんだ」という言葉。キャストたちの名演が、伊坂氏の哲学が垣間見える原作でも重要な言葉の数々に、特別な力を与えています。
▽「夜みんなで歩く。ただそれだけなのに、どうしてこんなに特別なんだろうね」
「夜のピクニック」
(2006年/96分/長澤雅彦監督)
原作者:恩田陸著「夜のピクニック」(第2回本屋大賞 大賞)
第2回本屋大賞に輝いた恩田陸氏の同名小説を、「ココニイルコト」「SEOUL ソウル(2001)」の長澤雅彦監督が映画化。24時間、夜通しで80キロメートルを歩き続ける伝統行事“歩行祭”に参加した高校生たちの、心の成長と恋愛模様を描く。
歩行祭という、ただひたすら歩くだけのイベントのなかで、高校生たちは青春を噛みしめ、とりとめのない話をし、自分自身の秘めた思いと向き合っていきます。普段は気恥ずかしかったり、プライドや意地が邪魔をしたりして、なかなか口に出せない思い。でも「夜のピクニック」の間は、歩く時間が長いからなのか、あたりが暗いからなのか、非日常に身を置いているからなのか、本音が言えたりするんですよね。「夜みんなで歩く。並んで一緒に歩く。ただそれだけなのに、どうしてこんなに特別なんだろうね」――そんな杏奈の言葉にも表れているように、「いましかない」尊い時間が、ゆっくりと歩くような速さで、心地よく流れていきます。
筆者にとって原作小説は、中学・高校時代に何度も読み返した愛読書。青春の渦中で読んでいた頃は、「こんな青春したいな~」とじたばたしていました。大人になったいま読み返すと、「高校生の頃は、私もこんなことを考えていたのかなあ」と懐かしさがこみ上げてきます。
そして、いまも活躍するキャストたちの若き日の姿を見られるのも、お楽しみのひとつ。メインキャストの多部、石田、郭智博、西原に加え、柄本佑、貫地谷しほり、池松壮亮も共演しています。
▽“黒髪の乙女”と“先輩”のイマジネーション豊かな恋を、驚きのアニメ表現で映画化
「夜は短し歩けよ乙女」
(2017年/93分/湯浅政明監督)
原作:森見登美彦著「夜は短し歩けよ乙女」(第4回本屋大賞 2位)
「四畳半神話大系」「有頂天家族」などで知られる森見登美彦氏の同名小説を、「夜明け告げるルーのうた」「きみと、波にのれたら」の湯浅政明監督がアニメーション映画化。
原作では京都を舞台に、“人生最後の休暇”ともいわれる大学生生活が、おかしみたっぷりに描かれています。筆者は高校生時分に、人気イラストレーター・中村祐介さんが手がけた表紙に惹かれ購入し、これから待ち受ける目くるめく素敵なキャンパスライフに胸を膨らませたものでした。
原作は4つの章からなり、第1章(春、木屋町から先斗町界隈への飲み歩き)、第2章(夏、下鴨納涼古本まつり)、第3章(秋、大学学園祭)、第4章(冬、黒髪の乙女が病が蔓延する京都をめぐるお見舞いの旅)という構成。映画では4つの章がシームレスに、一夜の物語として展開します。森見作品の持ち味であるファンタジックでイマジネーション豊かな描写の数々(京都に実在する場所が想定されているため、その設定がまた独特の雰囲気を醸し出しています)が、驚きのアニメ表現に昇華されていて、次から次へと変てこなものが登場し、想像を超えた出来事が起こるんです。
筆者のお気に入りは、第2章。先輩は、黒髪の乙女の気を引くため、彼女の思い出の絵本「ラ・タ・タ・タム」を古本市で見つけようと画策します。しかし、気付けば古本収集家たちが希少本を求めて挑む「激辛火鍋大会」に参加することに。幻想的で涼しげな古本市と、魑魅魍魎たちがこたつに入って激辛火鍋を食べ、次々と脱落していく地獄のような宴会場のギャップが、笑いを誘います。また、古書のタイトルが羅列され、森見氏の本や文学への愛が感じられるパートでもあるので、原作も合わせて楽しんでみてください。
▽「走る理由」を胸に、10人で1本のタスキをつなぐ 音にも注目したい駅伝映画
「風が強く吹いている」
(2009年/133分/大森寿美男監督)
原作:三浦しをん著「風が強く吹いている」(第4回本屋大賞 3位)
第135回直木賞を受賞した「まほろ駅前多田便利軒」や「舟を編む」などで知られる三浦しをん氏の同名小説を映画化。箱根駅伝に挑む大学生たちの青春を描いています。
冒頭では、小さな食堂で食事を終えたハイジとカケルが突然駆け出します。カケルは「食い逃げですか?」と驚きますが、実はカケルの走りを見たかったハイジの策略。ふたりの快走をたっぷりと映したあと、美しい桜並木をバックにタイトルが現れ、疾走感のある、一気に物語へと引き込まれるオープニングです。
「およそ長距離ほど、才能と努力の天秤が努力の方に傾いている種目はない」。短距離と比較し、ハイジは長距離について、このように語ります。最初は、さまざまな形で寮生活を支えてくれていたハイジへの恩返しのつもりで(これも彼の策略だったことが後に明らかになりますが)、半ば無理やり箱根駅伝を目指すことになった部員たちですが、やがて自分の「走る理由」を見つけ、全力で走り抜けていきます。ある者は長年の夢を叶えるため。またある者は大切な仲間のため。そしてある者は――部員たちそれぞれのドラマや成長が、丹念に紡がれていきます。10人で1本のタスキをつないでいく姿に、過酷な練習の日々や、彼ら全員の思いが宿っており、否応なく心を揺さぶられるのです。
また本作で非常に印象的なのが、音。力強いシューズの音、選手たちの荒い息遣い、そして耳のそばで聞こえる風の音。そんな音に耳を傾けると、まるで一緒に走っているかのような臨場感があります。彼らとともに走り抜けたあとに見える景色に、胸が熱くなること間違いなしです。
▽日本原作が韓国映画に。手に汗握るアクションが作品をさらにパワーアップさせる
「ゴールデンスランバー」
(2018年/108分/ノ・ドンソク監督)
原作:伊坂幸太郎著「ゴールデンスランバー」(第5回本屋大賞 大賞)
堺雅人主演で日本でも映画化された、伊坂幸太郎著の同名小説が韓国で再ドラマ化。国家的な陰謀に巻き込まれた平凡な男を、「MASTER マスター」「新感染半島 ファイナル・ステージ」のカン・ドンウォンが演じています。
国家的な陰謀に巻き込まれ大統領候補殺害容疑をかけられてしまう、なんて自分の身に降りかかることはないだろうと思えるんですが、主人公の誰でも信用してしまうただただ優しい青年ゴヌだってそんなことに巻き込まれるとはつゆとも思わずに巻き込まれていきます。原作と同様、訳の分からない状態からすこしずつピースがはまっていく、なんとも言えない伊坂ワールドの爽快感は、韓国版でももちろん健在です。
日本版「ゴールデンスランバー(2010)」を鑑賞済みの人には、是非一味違うアクションシーンも見てほしいところ。町中を荷車付きのバイクで滑走するシーンや、近接での銃撃ありの取っ組み合いは手に汗握ります。韓国らしい激しいアクション多めの本作と、原作により忠実に人々の心の機微を感じる日本版、どちらも堪能してもらいたいです。
伊坂幸太郎作品では小説「マリアビートル」が、ブラッド・ピット主演「Bullet Train(原題)」今年4月に全米公開が決定しており、海外での映像化に今後も期待したいです。
▽本の世界だけでは想像できなかった音の世界が広がる、若き才能たちの競演
「蜜蜂と遠雷」
(2019年/119分/石川慶監督)
原作:恩田陸著「蜜蜂と遠雷」(第14回本屋大賞 大賞)
直木賞と本屋大賞をダブル受賞した恩田陸の同名小説を、松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィンら共演で実写映画化。監督・脚本は「愚行録」の石川慶。
クラシック音楽には疎い筆者は、原作を読んだときには本だからこそピアニストの個性というものが伝わってくるものだと思っていたのですが、映画をみて純粋に驚きました。同じ曲でもまったく違う顔が見えるんです。クラシックの魅力に気づかされる作品です。
音楽もさることながら、作中で競い合う4人の若きピアニストたちの競演も素晴らしいです。境遇は違えど、それぞれが音楽が大好きで、ピアノを弾かずにはいられないというどうしようもない衝動が、それぞれの目に宿っていて、音楽が楽しくてしょうがないという気持ちがあふれ出ています。彼らの表情がより音楽に厚みや感情を乗せてくれていると感じられます。作中の4人のピアニストそれぞれの今後が気になると同時に、演じた松岡、松坂、森崎、鈴鹿の4人の今後の活躍を期待せずにはいられないです。
▽愛菜ちゃんの成長に感慨に耽りながら心打たれる
「星の子」
(2020年/110分/大森立嗣監督)
原作:今村夏子著「星の子」(第15回本屋大賞 7位)
第157回芥川賞候補にもなった今村夏子の同名小説を初映画化した感動作。(執筆:和田隆)
天才子役から本格女優へと成長した芦田愛菜が、2014年公開「円卓 こっこ、ひと夏のイマジン」以来の実写映画主演を果たしました。監督・脚本は「さよなら渓谷」「日日是好日」の大森立嗣。芦田演じるちひろの両親を永瀬正敏と原田知世、ちひろが一目ぼれする新任の先生を岡田将生が演じたほか、大友康平、蒔田彩珠、高良健吾、黒木華、池内万作らが脇を固めています。
撮影時、ちひろと同じ年だったという芦田が、多難な思春期を生きる少女の複雑な感情を繊細に演じています。愛菜ちゃんが大きくなったなあと感慨に耽りながら、不遇な環境を生き抜く少女の健気な姿に心打たれることでしょう。
■「本屋大賞」から生まれた映画リスト
◇第1回本屋大賞 2004年
大賞 「博士の愛した数式」 著/小川洋子
2位 「クライマーズ・ハイ」 著/横山秀夫
3位 「アヒルと鴨のコインロッカー」 著/伊坂幸太郎
5位 「重力ピエロ」 著/伊坂幸太郎
8位 「終戦のローレライ」 著/福井晴敏
◇第2回本屋大賞 2005年
大賞 「夜のピクニック」 著/恩田陸
2位 「明日の記憶」 著/荻原浩
5位 「チルドレン」 著/伊坂幸太郎
7位 「犯人に告ぐ」 著/雫井脩介
10位 「そのときは彼によろしく」 著/市川拓司
◇第3回本屋大賞 2006年
大賞 「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」 著/リリー・フランキー
2位 「サウスバウンド」 著/奥田英朗
3位 「死神の精度」 著/伊坂幸太郎
4位 「容疑者Xの献身」 著/東野圭吾
5位 「その日のまえに」 著/重松清
6位 「ナラタージュ」 著/島本理生
9位 「県庁の星」 著/桂望実
10位 「さくら」 著/西加奈子
◇第4回本屋大賞 2007年
2位 「夜は短し歩けよ乙女」 著/森見登美彦
3位 「風が強く吹いている」 著/三浦しをん
5位 「図書館戦争」 著/有川浩
6位 「鴨川ホルモー」 著/万城目学
8位 「陰日向に咲く」 著/劇団ひとり
◇第5回本屋大賞 2008年
大賞 「ゴールデンスランバー」 著/伊坂幸太郎
4位 「悪人」 著/吉田修一
6位 「八日目の蝉」 著/角田光代
9位 「私の男」 著/桜庭一樹
◇第6回本屋大賞 2009年
大賞 「告白」 著/湊かなえ
2位 「のぼうの城」 著/和田竜
3位 「ジョーカー・ゲーム」 著/柳広司
4位 「テンペスト(上下)」 著/池上永一
5位 「ボックス!」 著/百田尚樹
8位 「悼む人」 著/天童荒太
◇第7回本屋大賞 2010年
大賞 「天地明察」 著/冲方丁
2位 「神様のカルテ」 著/夏川草介
3位 「横道世之介」 著/吉田修一
4位 「神去なあなあ日常」 著/三浦しをん
8位 「植物図鑑」 著/有川浩
9位 「新参者」 著/東野圭吾
◇第8回本屋大賞 2011年
大賞 「謎解きはディナーのあとで」 著/東川篤哉
2位 「ふがいない僕は空を見た」 著/窪美澄
3位 「ペンギン・ハイウェイ」 著/森見登美彦
7位 「悪の教典」 著/貴志祐介
8位 「神様のカルテ2」 著/夏川草介
◇第9回本屋大賞 2012年
大賞 「舟を編む」 著/三浦しをん
4位 「くちびるに歌を」 著/中田永一
6位 「ユリゴコロ」 著/沼田まほかる
8位 「ビブリア古書堂の事件手帖 ―栞子さんと奇妙な客人たち」 著/三上延
9位 「偉大なる、しゅららぼん」 著/万城目学
◇第10回本屋大賞 2013年
大賞 「海賊とよばれた男」 著/百田尚樹
2位 「64」 著/横山秀夫
4位 「きみはいい子」 著/中脇初枝
7位 「ソロモンの偽証」 著/宮部みゆき
8位 「世界から猫が消えたなら」 著/川村元気
10位 「屍者の帝国」 著/伊藤計劃、円城塔
◇第11回本屋大賞 2014年
10位 「去年の冬、きみと別れ」 著/中村文則
◇第12回本屋大賞 2015年
大賞 「鹿の王」 著/上橋菜穂子
3位 「ハケンアニメ!」 著/辻村深月
6位 「怒り」 著/吉田修一
9位 「アイネクライネナハトムジーク」 著/伊坂幸太郎
10位 「億男」 著/川村元気
◇第13回本屋大賞 2016年
大賞 「羊と鋼の森」 著/宮下奈都
2位 「君の膵臓をたべたい」 著/住野よる
4位 「永い言い訳」 著/西川美和
5位 「朝が来る」 著/辻村深月
10位 「火花」 著/又吉直樹
◇第14回本屋大賞 2017年
大賞 「蜜蜂と遠雷」 著/恩田陸
3位 「罪の声」 著/塩田武士
10位 「コーヒーが冷めないうちに」 著/川口俊和
◇第15回本屋大賞 2018年
3位 「屍人荘の殺人」 著/今村昌弘
6位 「騙し絵の牙」 著/塩田武士
7位 「星の子」 著/今村夏子
◇第16回本屋大賞 2019年
大賞 「そして、バトンは渡された」 著/瀬尾まいこ
◇第17回本屋大賞 2020年
大賞 「流浪の月」 著/凪良ゆう