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「ソウ」監督による新作“狂暴” ホラーなど 【次に観るなら、この映画】11月13日編

 毎週土曜日にオススメ映画3本をレビュー。

①「ソウ」シリーズを大ヒットに導いたジェームズ・ワン監督による最新オリジナル・ホラー「マリグナント 狂暴な悪夢」(11月12日から映画館で公開)

②細野晴臣が2019年にアメリカで初めて開催したソロライブの模様を収録したライブドキュメンタリー「SAYONARA AMERICA」(11月12日から映画館で公開)

③「アベンジャーズ」シリーズをはじめとするマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)最新作「エターナルズ」(映画館で公開中)

 劇場へ足を運ぶ際は、体調管理・感染予防を万全にしたうえでご鑑賞ください!

◇ワン監督の牙は抜け落ちていない。あらゆるジャンルを行き交う“狂暴” ホラー!(文:人喰いツイッタラー 人間食べ食べカエル)

「マリグナント 狂暴な悪夢」(11月12日から映画館で公開)

 「マリグナント 狂暴な悪夢」はジェームズ・ワンの集大成だ。彼のこれまで撮った作品のあらゆるエッセンスが詰まっている。

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 ワン監督は、リー・ワネルと共に「SAW」で名を上げ、続く「デッド・サイレンス」では若干失速するも(個人的には大好きな作品ですが)、「インシディアス」と「死霊館」の2大シリーズを立て続けにヒットさせてホラー映画監督として不動の地位を築いた。一方、アクション映画方面でも結果を残す。

 ここでの決定打は「ワイルド・スピード スカイミッション」だろう。これは本当に凄かった。ロックボトムに合わせて動くカメラワークなど、斬新で見やすくド迫力な演出が炸裂。彼は大作アクションも撮れることを証明した。そして「アクアマン」で遂にアメコミ実写を撮る実績まで解除。こちらも文句なしの傑作だ。

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 そんなホラーとアクションの両方を極めたワン監督が、再び純ホラーの世界に舞い戻って作り上げたのが本作である。それもR-18指定の超ハードコアホラーだ!!

 主人公マディソン(アナベル・ウォーリス)の夢の中に現れる殺人鬼。ソイツは超人的な動きで人を襲い、一瞬で命を奪う。だが彼女が夢の中で見た事件が現実世界でも発生する……。それは霊か、人間か、または全く別の存在か。その正体を巧みに隠しながら畳みかけるようにストーリーが進む。超カッコいいOPで心を掴まれると、後はもう最後までずっと目が離せなくなる。

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 そして実は本作、控え目な予告からは中々感じ取れないが、とにかく異常なまでにテンションが高い! 序盤は王道ホラーな感じだが、段々と様子がおかしくなる。とにかく謎の存在がアグレッシブなのだ。これまでワン監督が手掛けたホラーでも、悪霊が張り手で人を吹っ飛ばすといったアグレッシブな要素はあったが、本作はその比ではない。パルクールまでしてしまう!

 ここで彼がワイスピ等で培ったアクションスキルが抜群に活きてくる。豪快だけど見やすいカメラワーク。激しい動きが次々飛び出すが、何が起きているのか手に取るように分かる。スリラーにホラー、そしてアクション。あらゆるジャンルを縦横無尽に行き交い、最後までどこに連れていかれるのか分からない面白さ!

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 サプライズが得意なワン監督ならではの展開に心が躍り、斬新なアイデアに満ちた見せ場に圧倒される。クライマックスはあまりに興奮しすぎて、気付けば握り拳を作っていた……。“狂暴”という文字がここまで似合う作品はない。

 ホラーとして文句なしの仕上がりでありながら、更にジャンルを越境する衝撃的な映像と展開まで用意。全てをブチ込んだ闇鍋っぷりが本作の醍醐味だ。前半にも書いた通り、ホラーとアクションの両方を極めたワン監督だからこそ撮れた作品である。

 ヒットメーカーの仲間入りをした後に、ここまで超攻撃的な作品を出せるのが凄い。ジェームズ・ワンの牙は抜け落ちていない。それどころか、むしろ増えてるんじゃないか。本作を観て、改めて彼に一生付いていこうと思った。

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◇細野晴臣「SAYONARA AMERICA」はコロナの時代の処方箋(文:映画.com編集顧問 髙橋直樹)

「SAYONARA AMERICA」(11月12日から映画館で公開)

 細野晴臣さんのアメリカツアーを収めた「SAYONARA AMERICA」は、優れた音楽映画であり、ひとりの人物を通して時代を照射する秀逸なドキュメンタリーである。

 観客の誰をもリラックスさせる「くつろぎ」感、背伸びや誇張がない「自然体」の佇まい、若き日の音楽体験となったアメリカの音楽に対する敬意に満ちた「感謝」の念、そして何よりも細野晴臣という人が醸し出す、無理をしない自然で自由な生き方。

 気のおけないメンバーたちとのゴキゲンな音楽、ボツリポツリと語りかけられる言葉には「滋味」が満ちていて特別な味わいがある。

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 2019年5月から6月、ニューヨークとロサンゼルスで行われたライヴは、日本国内を中心に約10年間続けられたツアーの集大成となるコンサートである。同時に、終戦直後の1947年に生を受けたひとりの少年が、音楽という翼を見つける源泉となったアメリカの音楽やカルチャーに対する、敬意を込めた感謝の旅の記録である。

 よく分かっている。だから、一度飲み込んでみようじゃないか。

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 音楽を聴き、映画に興じ、テレビを見て影響を受けたアメリカン・カルチャー。戦後を迎え、マッカーサーによってもたらされた文化や経済活動は、日本人の血となり肉となった。晴臣少年は、「僕はカルチャーを受け入れるスポンジみたいになっていた」と、自分が感じるままの自然体で米文化を吸収していく。その述懐は、とても分かりやすくストンと胸に飛び込んでくる。この言葉を会場で耳にしたアメリカの観客たちにとっては尚更だろう。

 冒頭、突然現れたウィルスで自由が制限された2021年のある日、細野さんはギターを手に屋上に上がる。

 音楽はおもしろい。音楽は自由だ。マスクはいらないから。

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 煙草を手放せない細野さんが煙を燻らせる「NO SMOKING」に続く「SAYONARA AMERICA」は、 “コロナの時代の処方箋”のような作品として身体に染み込む。

 慌てることなく、急ぐこともなく、自分に出来る大好きなことを仲間たちと続けていく。新たな時代に、細野さんはアメリカとどんな再会を果たすことになるのだろう。またひとつ楽しみが増えた。

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◇ヒーローというより神々に近い。超越した目線で紡ぐ壮大な文明叙事詩(文:映画ライター 牛津厚信)

「エターナルズ」(映画館で公開中)

 「See you down the road.(いずれまたどこかで会おう)」というセリフを別れ際の合言葉のように刻んだ「ノマドランド」(21)から1年も経たない内に、クロエ・ジャオの新作と出会える喜びをどう表現しようか。リアリズムからアメコミ世界へ。真逆に振り切れたこの大胆な選択からは彼女の可能性が無限に広がっていることがひしひしと感じられる。と同時に、マーベル側にとって彼女の抜擢は、MCUの語り口をさらに多様性に富んだものにしようとする象徴的な一手でもあるのだろう。

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 なるほど、「エターナルズ」はこれまでのマーベル映画の趣とはだいぶ異なる。実験的、野心的、壮大と、いくら言葉の衣を被せてもまだ足りないほど。ジャオ作品は夕陽や大自然といったテレンス・マリックを思わせる描写が多いことで知られるが、ならば本作は「ツリー・オブ・ライフ」(11)の折々に無数のヒーローが立ち現れる美しく幻想的な叙事詩とさえ言い得るのかもしれない。

 いや、私はいまヒーローと書いたが、本作に限ってはむしろ「神々」と表現したほうがしっくりくる。現代から遡ること7千年前、地球上に出現した10人のエターナルズは、凶悪な捕食獣から人類を守ることを使命とし、文明を転々としてきた。

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 しかし永遠の命を持つ神々とはいえ、全知全能ではないし、長く生きれば生きるほど苦悩や葛藤は膨らむ。本作の興味深い点はまさにそこだ。特殊能力や外見の異なる多様性に満ちた彼らが、個々の感じたこと、信じるものに基づいて選択を下して生きようとする様は、年月の尺度こそ違えども、ある意味、人類の生き様そのものに思えてならない。

 そんな物語に身を浸しながら、私の中では、ジャオ監督の過去作で、傷を負ったロデオ選手が人生の目的を静かに見定めていく姿や、故郷を失ったヒロインが季節ごとに絶えず車で移動し続ける姿がいささか重なったりもした。いずれも人生という果てしない路上をゆく旅人であり、最強の戦士セナ(アンジェリーナ・ジョリー)が「忘れたくない」と口にするように、彼らは共に寄せては返す記憶をしっかり抱きしめながら選択を繰り返す者たちなのだ。

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 マーベルとクロエ・ジャオ。油と水のように思えた両者が、アーティスティックな創造性のパレットの中で溶け合っていくのを感じた。そこにはアクションもあればスペクタクルもあるが、こみ上げるのは従来の爽快感や興奮と全く違う。むしろ森羅万象と一体化していくような余韻が広がりゆく中で、私にはふと、またあの別れ際の合言葉が聞こえたような気がした。

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