弁護士なので、クビになった会社を訴えてみました① 初動
ネットフリックスで最近公開になったチャーチルと戦争のドキュメンタリーを視聴した。
チャーチルの第二次世界大戦は冒頭の写真のようにかなり分量のある著作で、なぜか私の手元にある。
チャーチルは、日本によるパールハーバー奇襲の一報を受けたときに、「これで枕を高くして、安心して眠ることができる」と思ったらしい。
若干経緯を説明すると、
①ナチスドイツが強すぎて、大英帝国単独では勝てない
②アメリカにも参戦してほしいが、アメリカは自国に関係がないヨーロッパのもめごとに正直巻き込まれたくない
という状況だったところ、日本軍がアメリカを攻撃したことによって、
・ナチスドイツの同盟国日本がアメリカを攻撃したことによって、アメリカにとっても無関係な戦争とはいえない
こととなったので、アメリカをヨーロッパの戦争に巻き込むことが確実になり、チャーチルは安眠することができたという。
さて、一般的な労働者、会社員の立場からすると、「あなたを解雇します」、「お前はクビ」という趣旨の解雇通知書を勤務先から受け取ると非常に大変で、困難な事態だと思い、狼狽される方のほうがどちらかというと多数派ではないかと推察する。
これに対して、弁護士であると同時に会社員というややこしい立場である筆者の場合、解雇通知書を受け取った際にどのようなことを考えていたかについて少しご案内しよう。
「あなたを解雇します」「お前はクビ」ということを勤務先からいわれたとしても、実はこの「解雇」、「クビ」という部分は、民事訴訟に持ち込むと結構「無効」になることが多い。
「解雇」が無効になるとどうなるか?
何と解雇を通知されたあと、一切働かなくともそれまでと同じ給料の支払いを受けられることとなる。一種の不労所得である。
しかも、この場合、利息が年率で3パーセントつく。
解雇を言い渡された日から裁判の結論が出るまでの未払給与額が合計で1000万円とすると、1年間経過することにより30万円の遅延損害金も勤務先に請求できる。
私は、令和6年9月13日、解雇通知書を受け取り、同日勤務先オフィスから一切の私物を引き上げて帰宅した。
そして、帰宅すると同時に、
裁判実務シリーズ1 労働関係訴訟の実務〔第2版〕 | 白石 哲 |本 | 通販 | Amazon
を繙いて、森岡礼子裁判官が執筆された「第23講 試用期間に関する諸問題」の項目を一読した。
上記書籍は、東京地方裁判所労働専門部の裁判官(つまり、日本中の裁判官の中でも労働事件について最も専門特化した集団である。)の知見が凝縮されているので、私はとりあえず労働事件を受任するにあたってはまず参照することにしていた。
これをみると、「試用労働者の適格性判断は、考慮要素それ自体が抽象的なものであって、常に使用者の趣味・嗜好等に基づく恣意が働くおそれがあるのも事実であるから」、試用期間中に労働者を解雇する場合といっても通常の解雇との比較においてもそこまで広く認められるものではないということが分かった。
次に、労働事件のバイブルである
労働法 第13版 (法律学講座双書) | 菅野 和夫, 山川 隆一 |本 | 通販 | Amazon
の関連箇所を確認した。
その結果、私の置かれた状況において参考になりそうな実際の事件を何件かピックアップしてみた。
これをもとに、後日東京弁護士会・第二東京弁護士会の合同図書館に出向き、実際の事件の判決書を確認してみた。
もちろん、訴訟というのは最後判決の言渡しまでどのような結果になるかはわからない。
だが、類似の裁判例を数件検討し、また自分が現に体験したところを想起してみたが、
・解約事由が重大なレベルに達している、といえるような事実は存在しない
・試用期間の経過を待たずして突如された解雇には相当性はない
といえるものと考えた。
そこで、私は地位確認等請求事件の訴状を作成することにした。
XやNOTEの投稿を見ると、不当解雇をされたことに関する記事は多い。
これらの投稿者の方で、「不当解雇である」という民事裁判を提起していない方にはなるべく泣き寝入りせず、民事訴訟を提起することをお勧めしたい。
もちろん個別の事情にもよるけれども、裁判に持ち込まれると解雇を有効にするのは結構難しい。
「解雇されたって普通裁判なんかしてこないでしょ」
このような思い込みを許すと、不当解雇がまかり通る。
他方、不当解雇だと考える労働者がすべからく地位確認等請求事件を提起する社会となれば、
「解雇なんてしたら絶対裁判になるでしょ」
「なるべく合意の上で退職してもらえるよう、退職パッケージをお支払いして円満に辞めてもらわなくては…」
というように、人を雇う側の意識は変わっていくものと思う。
・勤務先を訴えるなんて大それたことをしても大丈夫だろうか?
大丈夫です。
・裁判なんて難しそう
弁護士を探しましょう。
「こんな解雇許されるの?」
そういう疑問を持った時点で、その解雇、争える余地はあるはず。
本投稿がそのような疑問を持たれた方のご参考になれば幸甚です。