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【施術日誌#3】 筋ジストロフィーとマッサージ(福山型のHさん)



わずかに動く右手の小指に取り付けたセンサーで、iPadを操作しメールやゲームを楽しむHさん

1、Hさんとの出会い

福山型筋ジストロフィーのHさんとの出会いは、平成30年の11月ですから、ちょうど今から7年前になります。Hさんは当時32歳、今年39歳の、僕と同世代の患者さんです。

20代の頃からずっと訪問マッサージを受けてこられたのですが、7年前、当時訪問していたマッサージ師の先生が諸事情により訪問できなくなり、相談員さんを通じて私に連絡いただき、訪問マッサージをスタートすることになりました。現在も訪問を続けていて、私が独立して以来、最も古株の患者さんのお一人です。

マスクタイプの人工呼吸器を使用しながら、施術中ずっとお話している、お喋り大好きなHさん。

当時の私はまだ小児障がいについて学んでおらず、高齢者のみ訪問していたため、30代のHさんは私が訪問する患者さんの中で一番若い方でした。

お母さんもざっくばらんな方で、僕が聞きたいこと何でもお話してくださいました。

40年近く前というと、もちろんスマホやSNSなどなく、筋ジストロフィーや難病などの情報がかなり限られていた時代。

手探りと試行錯誤で、ここまで来られました。

2、筋ジストロフィーについて 

「筋ジストロフィー」は難病指定の遺伝子疾患で、「脳性麻痺」や「滑脳症」のように、様々な疾患群の総称であり、多くの「型」や症状による「分類」があります。

それぞれ原因となる遺伝子が異なり、それによって発症時期、進行速度、症状の出やすい部位などが異なりますが、筋ジストロフィーに分類される疾患の共通点は、

「筋肉の維持、再生の異常」

という点です。

福山型筋ジストロフィーは、先天性であり、最も早期に発症し、全身の筋肉が影響を受ける重症型です。

歩行獲得は困難であることが多く、10代後半には呼吸筋が低下するため、呼吸器による管理が必要となります。

知的には、広義の滑脳症などを合併していることもありますが、日常的な会話などには困らないコミュニケーション力を持っている方もおられます。
つまり、ご自身で、ご自分の病気のことを理解することができます。

そして、ご家庭によっては筋ジストロフィーについてお子さんに詳しく話していない場合もあります。

ご本人やご家族とコミュニケーションを取るときは、よく注意しておく必要があります。

そして、筋ジストロフィーは進行性であり加齢とともに、筋ジストロフィーの進行と、老化による筋の硬直や関節拘縮、側弯などの2次的障害が急速に進行します。

生涯にわたってのケアが不可欠です。

3、筋ジストロフィーのマッサージ

筋ジストロフィーは、型や分類によらず、

「筋肉の維持、再生の異常」

ですから、筋肉にダメージを与えるような刺激は、進行を早めるだけです。

つまり、指圧やあん摩のように強く圧迫したり、グリグリと揉みほぐすような刺激は絶対に禁忌です。 

同様の理由で、直接筋肉へ刺入する鍼治療も、基本的には控える方が良いし、やるにしても筋ジストロフィーについてしっかり理解している鍼灸師に施術を受ける必要があります。

私自身は、筋ジストロフィーの方への鍼治療は行いません。

優しく筋肉を伸ばすような刺激や、ゆっくりとストレッチすることで、筋肉へのダメージを与えずに、関節可動域や緊張を和らげることで、本人も体が楽になります。

優しく筋肉を伸ばすような施術

側弯症や、そこから派生する胸郭の変形も予防する必要があります。

人工呼吸器を使用していても、胸郭の変形があることで肺が広がりにくくなり、呼吸器の空気圧を強くすることになり、肺に負荷がかかります。

排痰や二酸化炭素の排出にも悪影響が出ます。

筋肉にダメージを与えない触り方、そして呼吸筋まわりの緊張緩和により、できるだけ長く、生涯にわたって生活の質(QOL)を落とさないような介入が大切です。

★他の記事もマガジンにまとめています。
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