「ゆうしゃのしるし」
「ねえ、おともだちの手にはこういう赤い色がないんだって。」
保育園の帰り道、自転車をこぐ私の後ろで、4歳の次男が弱々しくつぶやいた。
彼の左手の甲には生まれつき大きなあざがある。私は個性があってよいではないか、と気に留めていなかったが、心配性の妻は皮膚科に相談したことがある。
主治医は「特に悪いものではないです。一般的なあざなので消えることはないですが、年齢とともに目立たなくなることもあります。」と話していたそうだ。妻が懸念した意味がようやくわかった。
「なにかお友達にいわれたの?」と聞くと、次男は答えなかった。私は「世界にひとつだけのあざだし、おとうさんはカッコいいと思うよ。大きくなると色がうすくなるかもしれないってお医者さんはいっていたみたいだよ」と伝えた。
「ふーん、そっか」と、次男は釈然としない様子で答えた。家に帰りそのことを妻に伝えると、「そっか」と心配そうな様子で答えた。
ある日の夕飯時、次男が同じ話題を口にした。すると、となりに座っていた7歳年の離れた長男がこう話した。
「えー、そのあざって勇者のしるしじゃん。ぼくの好きなゲームの主人公の左手に同じようなあざがあって、ピンチになると光るんだ。そしたらめっちゃ強くなってね、みんなを助けるんだよ。」
本気でうらやましがる兄を見て、次男はひまわりの様な笑顔を咲かせた。
年を重ね、手が大きくなるにつれ、次男の左手のあざは目立たなくなってきた。時々手の甲を見ては「勇者のあざが消えちゃったらいやだなあ」と話し、その度に顔を見合わせて愛顔になる私と妻であった。
2023愛媛県エッセイコンクール
愛顔感動物語 受賞作(佳作)
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