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シャルル6世のタロット①

「シャルル6世のタロット」と呼ばれるタロットデッキを皆様ご存知ですか?

シャルル6世は1368年にフランス国王シャルル5世と王妃ジャンヌ・ド・ブルボンの元に生まれました。
11才で即位し、ヴァロア朝第四代国王シャルル6世と成ります。
フランスは100年戦争の時代でした。

即位当初は「親愛王」と称されますが、その後は「狂気王」と呼ばれる悲劇の王となりました。

1392年、24才の時にガラス妄想と呼ばれる精神病を発症してしまったのです。

その1392年に王の宮廷の会計帳に「金色と他の色で着色された56枚の遊戯札」という記述が見られます。

3デッキ分の制作費として画家ジャクマン・グランゴヌールにペルシャ硬貨6枚の支払いが記録されています。
彼については他の文書に記載は見つかっていません。

これが「シャルル6世のタロット」と呼ばれる遊戯札の歴史的エビデンスです。

現在、パリ国立図書館には「現存する世界最古のタロット」が展示されており、
それがこの「シャルル6世のタロットである」と信じられて来ました。
しかし研究が進むにつれそのカードは
1470年前後にイタリアのエステ家が作らせたタロットであることが定説化しました。

ではこの「シャルル6世のタロット」とはどのようなカードデッキだったのでしょうか?

ここからは私の推論です。

結論から申し上げますと、このカードは文字通りの「遊戯札」
つまりトランプ…英語で言うところの「プレイングカード」であったと思います。

まず「56枚」という枚数。
これはタロットの小アルカナの数に相当します。
数札10枚と人物札4枚が4スート分…これはこの時代のトランプの枚数に相当するものだと考えられます。
タロットの小アルカナはトランプが由来であると考えられているからです。

1440年代に描かれたカードで遊ぶ子供たちのフレスコ画がイタリアに現存します。
この壁画は「タロット遊び」と呼ばれており、この時代のタロットは遊戯札であったことの証だとされています。

「シャルル6世の遊戯札」も神経症を患った王をお慰めするために作られたと伝わります。
シャルル6世のために聖地巡礼を行ったり、悪魔祓いを行ったりと様々な手が尽くされていました。
そんな中、気晴らしのために王妃の侍女の結婚式の余興に参加したりもしています。
遊戯札も気晴らしに家族や近臣と楽しむために作られたのだと考えられます。

「悪魔祓いもされたなら、タロットは王を占うために作られたのでは?」
と思う方もいらっしゃることでしょう。
ですが中世のタロットは遊戯札として用いられており、
占いに用いられるようになったのはもう少し時代が進んでからのことだと考えられています。

もう一つ、私が考えるエビデンスは前述した王の会計簿の記述です。
「1392年」は王が精神病を発症するきっかけとなった事件と同じ年なのです。
このカードが定説通りに「王をお慰めするため」に作られたのであれば、納期が短すぎるのです。
この事件があったのは8月です。
最長でもたった4か月で3デッキも作って報酬が支払われていることになります。

当時のタロットは絵師が1枚1枚手描きで作成していました。
当時の絵師は個人ではなく工房に所属していたので、一人きりでの作業ではなかったと考えられますが、
それでも1枚1枚にとても手間暇をかけたものでした。
それを3デッキ分の168枚も?

中世イタリアのタロットのような豪奢な人物札が入ったものだとしたら無理があると思いませんか?
ですが、トランプのような数字とマークの絵柄であれば可能だと思います。

ただしこの発注がもっと前に行われていて、たまたま王の発病した年に納品がされたので
王をお慰めするのにベストタイミングであった…という反証も出来なくはありませんが…。

ですが、「精神が不安定になった王をお慰めするために、巷で流行している遊戯札を作らせよう」という方が自然に感じます。
以前に発注したものであれば、王の錯乱で混乱していたであろう宮廷に納品しても
「今はそれどころではない」と邪険にされかねません。

作者のジャクマン・グランゴヌールの名が他の文化史に見られないことからも宮廷のお抱え絵師ではなく、
遊戯札など世俗的なものを得意とする工房の画家だったのではないでしょうか?
そうであれば、混乱した宮廷に「以前発注を受けていた…」と納品に来ても追い返されてしまいそうですよね。
それに、王が以前に発注したのであればお抱え絵師が腕を奮ったのではないでしょうか?
発症後に、納期が短くても無理をして作ってくれるような城下の工房になる早で依頼した…と考える方が自然です。

以上が私の推理となりますが、いかがでしょうか?

また、同じように推測をすることでパリ国立図書館の「伝・シャルル6世のタロット」が
実際の「シャルル6世のタロット」ではないことがわかります。

「伝・シャルル6世のタロット」には大アルカナ16枚が含まれているからです。
「遊戯札56枚」の記述との枚数的な兼ね合いがとれませんよね。

これは「タロット=遊戯札」という認識がなされていた後世の時代にこのカードデッキが発見され
「もしかしたら文献に見られるシャルル6世のものではないか」と期待を含んだ誤解がなされたのではないでしょうか。

カードの来歴がはっきりしないので妄想になりますが、誰かが箔を付けるためにそう呼称した可能性もありますね。

次回はいよいよこのカードデッキについてスポットを当てていきたいと思います。

*余談*

【この頃の日本は?】
室町時代。
1392年は3代正君足利義満が南北に分かれていた朝廷を合一しました。
金閣寺が建立されたのもこの頃です。

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