週刊俳句上原(第24巻52号)
ゑひ[酔]では、毎週日曜日に、上原ゑみの新作の俳句を発表します。毎週5句発表です。
煮凝を待つキッチンに鶏の爪
煮凝を風の先より取り戻す
煮凝に赤紫の紛れ込む
窓無くて煮凝ぎざぎざと崩す
煮凝の中に物体立ち上がる
冬の季語「煮凝」は、人生観や経験値が句に滲むような詠み方がよくハマる。たとえば浅草生まれの粋人・久保田万太郎は「湯豆腐やいのちの果てのうすあかり」が有名だが、湯豆腐があるなら煮凝もあるだろうとの予想どおり、小粋な句をいくつも作っていた。
おもふなり月の吉原煮凝に
煮凝に哀しき債おもふかな
煮凝にまづート箸を下しけり
煮凝や小ぶりの猪ロのこのもしく
この抜け感。情緒。小難しいことは何ひとつ言っておらず、それらしく作ることが誰にでもできそうではある。だからこそあまたの類句から頭ひとつ抜け出すのが難しい。道具を変え、舞台を変え、設定を変えてを繰り返したとしても、万太郎の域に達する気が全くしないので今回、「じゃないほう」の鍛錬をすることにした。つまり、できる限り情緒を拭い取り、価値観めく何らかを語らないよう心がけ、煮凝そのものに集中するような作り方を頑張ってみた。相方の若洲至による評価は100点満点中40~50点といったところ。ちなみに毎週だいたい50点前後が私の最高点なので、麻痺して本人つい満足しそうになるがいや待て待て。50点は道半ば、折り返し地点でしょう。目的地はいまだ見えない。