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ゑひ[酔]では、毎週日曜日に、上原ゑみの新作の俳句を発表します。毎週5句発表です。

煮凝を待つキッチンに鶏の爪
煮凝を風の先より取り戻す
煮凝に赤紫の紛れ込む 
窓無くて煮凝ぎざぎざと崩す
煮凝の中に物体立ち上がる

「煮凝」(にこごり) 
冬/生活/傍題「凝鮒」(こごりぶな) 
 魚の煮汁が冷えて固まったもの。また煮魚の身をほぐして煮汁とともに固めた寄せ物。ゼラチン質に富んだ鰈(かれい)・鮃(ひらめ)・鮟鱇(あんこう)などの魚はよく固まり味も良い。寒鮒(かんぶな)を用いたものは、「凝鮒」(こごりぶな)といって、賞味される。

『合本俳句歳時記』第四版 角川学芸出版編

 冬の季語「煮凝」は、人生観や経験値が句に滲むような詠み方がよくハマる。たとえば浅草生まれの粋人・久保田万太郎は「湯豆腐やいのちの果てのうすあかり」が有名だが、湯豆腐があるなら煮凝もあるだろうとの予想どおり、小粋な句をいくつも作っていた。

おもふなり月の吉原煮凝に
煮凝に哀しき債おもふかな
煮凝にまづート箸を下しけり
煮凝や小ぶりの猪ロのこのもしく

 この抜け感。情緒。小難しいことは何ひとつ言っておらず、それらしく作ることが誰にでもできそうではある。だからこそあまたの類句から頭ひとつ抜け出すのが難しい。道具を変え、舞台を変え、設定を変えてを繰り返したとしても、万太郎の域に達する気が全くしないので今回、「じゃないほう」の鍛錬をすることにした。つまり、できる限り情緒を拭い取り、価値観めく何らかを語らないよう心がけ、煮凝そのものに集中するような作り方を頑張ってみた。相方の若洲至による評価は100点満点中40~50点といったところ。ちなみに毎週だいたい50点前後が私の最高点なので、麻痺して本人つい満足しそうになるがいや待て待て。50点は道半ば、折り返し地点でしょう。目的地はいまだ見えない。

フグの煮凝

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