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ゑひ[酔]では、毎週日曜日に、上原ゑみの新作の俳句を発表します。毎週5句発表です。


節分の朝のとろみのある食事
切干やなんか太さの違ふ箸
節分の窓に業者の脹ら脛
節分のビルより布をばつと取り
節分の夜の唇を塗り直し


 節分の句、たくさん作って残ったのは4句。できれば5句揃えたかったけれど苦戦しました。

【節分】 時候 晩冬
立春の前日で、2月3日ごろにあたる。もともと四季それぞれの分かれ目をいう語だが、現在は冬と春の境をいう。◆この夜、寺社では邪鬼を追い払い春を迎える意味で追儺(ついな)が行われる。各家でも豆を撒いたり、鰯の頭や柊(ひいらぎ)の枝を戸口に挿したりして、悪鬼を祓う。

【追儺】 行事 晩冬 
鬼やらひ/なやらひ/豆撒/豆打/鬼打豆/年の豆/鬼は外/福は内/年男
宮中の年中行事のひとつ。もとは大晦日(おおみそか)の夜に行われていた。大舎人(おおとねり)が楯と矛とをもって鬼を払い、群臣が桃弓で蘆矢を放つ。のちには各地の寺社でも盛んに行うようになり、日取りも節分に変わった。年男が「鬼は外、福は内」と唱えながら、豆を撒き、縁起物として人々が豆を取り合う。豆撒きは家庭の年中行事としても定着している。◆豆撒きは本来農村の予祝行事であったものが、追儺の行事と習合したものと考えられる。

【柊挿す】 行事 晩冬
節分に、焼いた鰯の頭を刺した柊の枝を戸口に挿す風習。鬼や邪気が家に紛れ込むのを防ぐ呪(まじな)いで、全国的に行われている。これを「焼嗅し(やきかがし)」といって、鰯のほかに葱・辣韮(らっきょう)・大蒜(にんにく)などの臭気の強いものを挿したり、髪の毛を焼いたりする地方もある。

『合本俳句歳時記』第五版 角川書店編


節分の宵の小門をくぐりけり 杉田久女
山国の闇おそろしき追儺かな 原 石鼎
烈風の戸に柊のさしてあり 石橋秀野

 節分にまつわる季語の例句から一句ずつ挙げた。いずれも、自身に対する「向こう側」があり、その間にボーダーラインを引く句である。向こう側とは「鬼の居る側」である。文学や民族学の世界に鬼の研究は数多い。近年では日本宗教史学者の小山聡子氏が書かれたものが面白いので、まずは読みやすいインタビュー記事をご紹介。

 そういう方面に興味があって、学生時代は網野善彦や小松和彦の本などを好んで読んだ。久しぶりに鬼について考えてみるとやはり、共同体のスムーズな運営が不可欠である我ら稲作民族の、異形・異物に不寛容なDNAへと思いが至ってしまう。挙げた例句もまた、正当性の内に負の境界線を内包している。これは個々の作者に対する評価ということではなく、遺伝子レベルで稲作水利共同体に属する者は皆、無自覚にそうなってしまいがちなのである。
 それで、令和の俳句を成す立場としては、節分の追儺的な側面には添いたくなくなった。「追儺」「柊挿す」は伝統行事の季語であり、伝統を守ることと創作上の概念の更新は別次元の話であるからそもそも抗わない。「節分」とは、歳時記の言う “もともと四季それぞれの分かれ目を言う語” であるという、そこを目指しました。本日は節分。明日は立春。

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