ショートショート『ゆめまくら』
タイトル:『ゆめまくら』
作:絵本と砂の部屋(made with AI)
ある日、会社員の田中は、通勤電車の中吊り広告に目を留めた。
"夢を録画できる枕"の文字が、どこか彼の心をくすぐったのだ。
「自分の夢を録画…だって⁉。そんなことが本当にできるのか?」。
彼は疑念を抱きながらも、その日の帰り道、駅前の家電量販店に足を運んだ。
店頭に並ぶ黒く光る枕型の装置は、未来を感じさせるデザインだった。
「こちらが噂の『ドリームキャプチャーピロー』。
通称名は「ゆめまくら」です。
あなたの脳波を解析して、夢をリアルに映像化します。しかも、スマホで簡単に再生できますよ!」。
店員の説明に半信半疑ながら、田中は、好奇心に勝てず、その場で購入を決めた。
その夜、枕に頭を乗せた田中は、どこかそわそわしながら眠りについた。翌朝、目を覚ますと、スマホに新しい通知が表示されていた。
『昨晩の夢を再生しますか?』。
田中は興奮しながら再生ボタンを押した。
画面には、自分が空を飛ぶ夢が映し出されていた。風を感じるリアルな映像に彼は驚嘆した。
「本当に夢を録画できるなんて…すごい技術だ!」。
それから田中は、毎晩この枕を使うようになった。
子供の頃の冒険や、忘れかけていた初恋の記憶が夢となって蘇るのを楽しんでいた。
だが、ある日、田中の夢に奇妙なものが映るようになった。画面の中で、自分が全く知らない場所を歩いている。見覚えのない人々と会話を交わし、さらには誰かに追われている。
「これは…本当に俺の夢なのか?」。
疑念を抱いた田中は、メーカーのカスタマーサポートに問い合わせることにした。
「夢が自分の記憶や体験と一致しないんです。」
「これはどういうことですか?」。
おそらくAIであろうサポート担当者は、淡々と答えた。
「お客様、当製品は本人の脳波を解析するだけでなく、クラウド上のデータベースと接続し、他者の夢とも連動する仕組みになっています。つまり、他のユーザーの夢が混ざる可能性があります。」
田中は唖然とした。
「他人の夢が見られるって…そんなの聞いてない!」。
「ですが、その分、多様な体験を楽しむことができると、多くのお客様にご好評いただいております。」田中は思わず、電話を切った。
自分の夢が他人と共有されているという事実が、どこか気味悪かった。それでも彼には、枕の使用をやめることができなかった。夢はますます奇妙で、混沌としたものになっていく。他人の恐怖や欲望が入り混じり、目覚めた後も、しばらくはその感覚が五感に残る。
ある晩、田中は夢の中で、見知らぬ男にこう囁かれた。
「君の夢も、わたしたちが 見ているよ。」
目を覚ました田中は、恐怖で全身が汗でびっしょりだった。
起きてからも、震えが止まらない。スマホを確認すると、新しい通知があった。
『あなたの、昨晩の夢が、99名のユーザーに、シェア、されています…。』