ショートショート『怒り発電』
タイトル:『怒り発電』
作:絵本と砂の部屋(made with AI)
2025年、日本のエネルギー政策に革命が起きた。
「怒り発電」と呼ばれる革新的な技術は、人間の怒りの感情をエネルギーに変換し、発電する仕組みだ。感情の爆発が生む、脳内の微弱な電気シグナルを、個人が持つスマートフォンから回収し、超マイクロ波に変換して発電所に送り込むのだという。
開発者の田嶋博士は
「怒りこそ、最大の未利用エネルギー源だ!」と、
記者会見で、豪語していた。
日本の国民たちは、非常に興味を示し、積極的に協力した。怒りを覚えたとき、発電所の提携アプリを通じてスマートフォンを操作するだけで良い。怒りを吹き込めば吹き込むほど、高額の謝礼金が支払われるという噂も手伝い、機能は連日大盛況だった。
ブラック企業の被害者や、満員電車のストレスを抱える通勤客、夫婦げんかをした夫や妻、などなど、次々とエネルギーを供給した。原発も石油もいらない。究極の再生可能エネルギーだ。
この発電所のおかげで、日本は他国を凌ぐ低コストの再生可能エネルギー大国となった。怒りのエネルギーから生み出せる電気は、まさに無尽蔵だと思えた。しかし、それとともに妙な変化が、日本の国民に現れ始めた。
「最近、怒れなくなったんだよな」。
会社の上司が嫌味を言っても、まったく腹が立たない。並んでいて、横入りされても、まったくイライラしなくなった。以前は、小さなことで怒りを覚えていた人々が、まるで燃え尽きたように無気力になっていった。心理学者たちは、この現象を「感情枯渇症候群」と名付けた。
怒りという強い感情が、極度に吸い上げられた結果、人々の心から、多様な感情の芽が失われたのだという。
「このままでは、感情を失い人間らしさが失われてしまう。」
政府は慌てて、怒り発電の運用を見直そうとした。
しかし、すでに、海外の超大手ロボットメーカーが、そのエネルギーを利用した、画期的な、AI搭載アンドロイドの開発に成功していた。
10年後、東京・新宿シティにある、某コンサル会社のミーティングルーム。
「マネージャー、今回のターゲティングですが、感情というファクターを要素分解してみようと考えています。」
「なるほど、つまり、昔の〝ニンゲン種〟というジャンルを使おうというのだな。」
「マネージャー、ダメですよ。その言葉は差別用語になっているのだから。」
「そうだったな。われわれアンドロイド種にとって、他種を見下すことになるんだったな。注意するよ。」