ショートショート『細胞肉は命を救わない!』
タイトル:細胞肉は命を救わない!
作:絵本と砂の部屋(made with AI)
西暦2035年、人類はついに、「命を食べる」という罪深い行為から解放された。
細胞培養技術の飛躍的な進歩によって、動物や魚を殺すことなく、食肉を生成することが可能となったのだ。屠殺場は完全に姿を消し、牧場は研究施設に生まれ変わった。解放された動物たちは、広大な自然の中で自由を謳歌し、地球環境は奇跡的な回復を遂げた。
「これこそが、私たちが未来に遺すべき世界だ」
と、生態系研究者である、リサは胸を張った。
そして、細胞肉が世界中で普及して10年。突然、人々の平均寿命が短縮し始めたのだ。初めは偶然の産物と思われていたが、統計データが示す急激な変化に、科学者たちは困惑した。がん、心疾患、免疫不全──すべてが過去のデータと比較して、異常な増加を示していた。
リサも、同僚とともに原因を探るため、培養肉の構造や成分を解析し始めた。一部の科学者から、培養肉の普及が、その原因でないかと疑われていたからだ。
「培養細胞に含まれる化学物質や栄養素のバランスは、一切問題ない」
と結論づけられたが、それでも、人類の寿命は短くなり続けている。
「人間の命が、何かによって奪われているのか」、
リサは、苦悩の顔でつぶやいた。
「細胞肉には決定的に、何か欠けているものがあるのではないか」
ある時、若い研究者が、リサに話しかけてきた。
その言葉にヒントを得たリサは、細胞肉を食べたマウスと、家畜の肉を食べたマウスの生体反応を比較する実験を開始した。すると、驚愕の事実が判明したのだ。細胞肉を食べたマウスは代謝が低下し、細胞の再生能力が著しく減少していたのだ。
「信じられない。」
「これはどういうことなの。」
リサは自問自答した。
もしかして、「生命としての何か、つまり『魂』のようなもの、が欠けているのかもしれない……」。
その仮説は、科学的ではなく、一見荒唐無稽だったが、しかし、次第に真実味を帯びていった。倫理的で環境にも優しいとされた細胞肉は、皮肉にも、人類の生命力を蝕んでいたということになる。人類の「命を奪わない」選択が、逆に、人類の命そのものを、削っていく結果を招いていたのだ。
やがて、世界中で培養肉の禁止運動が起こった。リサたちもその運動を支持し、かつて屠殺場だった施設で、家畜の食肉を生産する取り組みを再開した。しかし、動物たちを再び犠牲にすることへの抵抗感は拭えないままだった。
ある夜、夢の中で、リサはかつて解放された牛たちが集う広場を歩いていた。突然、一匹の牛が彼女の目の前で立ち止まると、じっと彼女を見つめてこう言った。
「私たちは、あなたたちを許していない。」
「いっしょに、滅びの道へ」
その瞬間、リサの視界が暗転した。
目を覚ますとそこは未来の地球。生態系が崩壊し、荒廃した大地が、ただただ、広がっている世界だった。