大切な人とのお別れを描いた絵本『わすれられないおくりもの』を紹介します。
絵本紹介士のkokoroです。幼い頃から読書が好きで、大学は児童文学科で学びました。同時に、心のこと、スピリチュアルなことにも、とても関心を持っています。このnoteでは、そういう観点から心惹かれる絵本を選び、お話の中の気付きやメッセージを読み解いています。
私は“絵本紹介士”として色んな絵本を紹介しています。
その絵本を紹介することで、どういうところが心がラクになるのかなどを伝え、そして実際に読んでもらって、落ち込んでいる人や辛い気持ちにいる人が、心がラクになったり、元気や勇気を出してもらえることを目指しています。
『わすれられないおくりもの』(スーザン・バーレイ さく え 小川仁央 やく 評論社の児童図書館・絵本の部屋)
この絵本は大切な人との別れを描いたもの。だれもが避けられない命題が温かい絵本の中で描かれています。
読み終わると優しい気もちになり、心が温かくなる。そして少し考えさせられます。
ではこの絵本を紹介していきましょう。
1・絵本のストーリー
①アナグマの死
このお話は、ものしりで森の皆に頼りにされているアナグマが老いて「死」を真近に感じているところからはじまります。その日、丘でモグラとカエルのかけっこを見たアナグマ、自分はもう走ることはできない。でも
それでも、友だちの楽しそうなようすを、ながめているうちに、自分も、しあわせな気もちになりました。
『わすれられないおくりもの』(スーザン・バーレイ さく え 小川仁央 やく 評論社の児童図書館・絵本の部屋 より引用)
ここから、アナグマが友だちの喜びを自分の喜びにできる優しい人(アナグマ)だったことがわかります。
そんなアナグマはその夜、走れない自分がトンネルを走っている夢を見ました。
そしてその次の朝、亡くなっていたのです。
トンネルのむこうに行ってしまいました。
森のみんなはアナグマを愛していました。
だから、亡くなったと知った時、悲しみにくれました。特にモグラは深い悲しみに陥りました。
その冬中、みんなは悲しみの中にいました。
でも、春になり、それぞれがアナグマに教えてもらったことを語り合ううちに、だんだんと悲しみが癒えてくるのです。
②アナグマから教えてもらったこと
〇モグラの場合
モグラは紙細工を教えてもらいました。はじめは不器用でできなかったけど、アナグマの教えのおかげでできました。
〇カエルの場合
カエルはスケートのすべり方を教えてもらいました。アナグマは上手く滑れるようになるまで教えてくれました
〇キツネの場合
キツネはネクタイの結び方を教えてもらいました。今では自分で考え出した結び方まであります。
〇ウサギのおくさんの場合
ウサギのおくさんはアナグマから料理を教えてもらいました。今では村一番の料理上手として知られています。
そのほかのみんなもそれぞれアナグマとの思い出がありました。
こうしてみるとアナグマはとても器用でなんでもできる人だったんだと感心します。
そしてそれぞれに合う、できることを教えてもらい、今ではそれが得意科目になっているのです。
2・この絵本が伝えたいメッセージ
アナグマはみんなが好きなこと、得意そうなことを教えてくれます。
辛抱強く、できるまで丁寧に教えてくれました。それが、生きていくのに有効なことだとわかっていたからです。
みんなはその得意なこと、できることのおかげで、楽しく過ごせ、また他の人とそれで助け合うこともできました。
自分が得意なこと、できることがあるということは、とても誇らしいことです。もっともっとがんばろうと思います。私たち、人間の世界なら、それが仕事となり、生きがいとなることでしょう。
その芯となることを教えてくれる存在、それがアナグマです。アナグマは生きていくのに何が大切かをよくわかっていました。
アナグマが亡くなった時、そのことの大切さをみんなは改めて思い知ったのです。
本当の意味で人のためになれる、それを自分の喜びとできる。
そういう生き方をしていたアナグマだから、みんなはその死を深く悼んだ。
そして改めてアナグマから教わったことの大切さを知るのです。
この絵本が伝えたいメッセージは、人にこういう「おくりもの」ができる生き方は素晴らしいということ。
私も思えば、こういう「おくりもの」をたくさん受け取ってきたと思います。本当にありがたいです。
でも、私自身が、反対に人にこんな「おくりもの」ができているか?
アナグマのように、本当にその人のことを考え、何かを伝えたりできているだろうかと。
今からでも遅くないのなら、一人にでも二人にでも、何か自分の持っているものを伝えたい。
そのささやかな一環として、このnoteで絵本を紹介して、少しでも人の気持ちをラクにしたり、元気になってもらえたら、と思います。
3・この絵本をおすすめする理由
この本は登場人物が「動物」ということがいいと思います。
「人」だとリアリティすぎる。でも、「動物」だとどこかちょっと違う世界の話のようで、距離を置いて読める。すると、アナグマが「亡くなる」ということも、悲しい出来事ではあるのだけど、物語に入り込みすぎず、そのエッセンスだけを受け取ることができる。
作者のスーザン・バーレイ氏の素晴らしい文章と絵も「死」というものを温かく包んでくれます。アナグマからの教えはみんなの中で生きる力になっています。これからも教えてもらったことを糧に元気にがんばっていこうというみんなの気持ちが今と未来を明るくしているのです。
誰もが避けられない「死」について、こんなにも温かく優しく描かれている絵本は他にあまりないのではないでしょうか。
4・このお話で惹かれたポイント
この絵本で惹かれたのはアナグマが亡くなっていく描写です。
私は(だれでもそうだと思いますが)「死ぬ」ことについて小さい頃から「怖い」と思う気持ちをもってきました。ずっと考えているわけではありませんが、時々、「死ぬってどんな感じだろう、怖いなあ」と思います。
そんな「死ぬ」時のことについてこの絵本ではこんな風に描かれています。
年老いたアナグマはもうあまり元気に体を動かせなくなっていました。
しかし、その夜見た夢の中ではアナグマはすごく元気に走っていました。
走ってトンネルをくぐり抜けました。
アナグマは、すっかり、自由になったと感じました。
『わすれられないおくりもの』(スーザン・バーレイ さく え 小川仁央 やく 評論社の児童図書館・絵本の部屋 より)
その朝、アナグマは死んでいたのです。
死ぬときは体も軽くなって元気に動かせて自由になる。身体も心のラクになるんだなあと思いました。天寿を全うして「死ぬ」ことは怖いことではないのかなと思ってしまうようなことが描かれていて少しだけ「死」に対しての恐怖が薄まったような気がしました。
もちろん、実際のところ、本当に死んだらどう感じるのかはわかりません。でも、人に親切に、みなに頼りにされる生き方をしてきたアナグマは、そういう生き方をしてきたからこそ、「生ききった」と感じ、自由を得たのではないでしょうか。
私自身はそんな風に想像し、やすらぎを感じました。きっと読まれる皆さんにも共感してもらえるのではないかと思います。
5・最後に
絵本というイメージからは離れた、ちょっと深いテーマを扱ったものですが、全編を通して、魅力的な絵や優しい文章に心癒される。
作家のスーザン・バーレイ氏は1961年イギリス生まれ。
この絵本『わすれられないおくりもの』(原題『Badger’s Parting Gifts』)は1984年にバーレイ氏が初めて出した絵本です。
そして小川仁央氏の訳も素晴らしいと感じました。
「生きる」ということは人に「わすれられないおくりもの」をしていくこと、そして自分もたくさんの「おくりもの」をもらって今ここにいるということ、そんなことを感じ、温かい気持ちになります。ぜひ読んでみてください。
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