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鬼に勝ちたい青年の話

社会人3年目。彼と付き合って半年。わたしは彼との結婚を意識するようになっていた。大病から生還した彼をもう二度と1人にしたくないと思ったから。

「来月帰るってお母さんに聞いちょー?会ってほしい人がおるけん、、、連れて帰るけん。よろしく、、、!」

実家の父に電話すると、後ろで聞いていた彼は「けんけん、けんけん言ってた」とくすくす笑った。そんな風に笑っていられるのも今のうちだぞ!と内心つぶやく。

実家の父は、寡黙で眉間にシワを寄せてダイニングテーブルの王様席にどすんと座っているような、昭和の家長そのもののような人で。顔は舘ひろしで想像してもらうと概ね相違ない。

今までいくつか恋をしてきたけど、父に会わせた人は1人もいない。姉もそう。娘さんと結婚させてください!と言う覚悟のある男だけが、我が家の敷居を跨ぐことができる、そんな雰囲気があった。

そんな父に初めて会わせたい、認めてもらいたい人ができた。

東京で生活していたわたしは、羽田経由で久しぶりの実家に帰る。地元の空港には母が迎えに来てくれたけど。そのあたりのことは緊張でよく覚えていない。

気がついたら、その日泊まる旅館の部屋で父と向かい合っていた。父からとてつもないオーラが出ており、正座のわたしたちはまさに、へびに睨まれたカエル。微動だにできない。

彼が意を決して話し出す。自分の職業や生い立ち、親の職業など。父は彼の目を見たままうんともすんとも言わなくて。まばたきすらしない。それに対抗するかのように、彼はどんどんしゃべる…。口下手で自分のことを話すのが苦手な彼が、まるで、鬼に「命だけは…」と許しを乞うかのようにどうにかこうにか話題を絞り出す。

見かねたわたしは、「と、いうわけで、よろしくお願いしまーす♪」と上擦った声を出した。…場違いな音量になってしまった。

そうして食事が運ばれてきた。わたしがおどけて永遠と話し続ける。担任しているクラスで起きた珍事件がメインだった。それに加えて、東京では方言が通じない話、乗り換えに失敗して反対の電車に乗ってしまった話、校庭が極端に狭くてプールが屋上にある学校もあるよ、なんて話。すべるまいと思いながら、父を笑わせたい一心で話し続けた。娘溺愛の父は、朗らかに頬を緩ませて聞いてくれていた。

やっとのことでお開きになった。彼はお腹が痛いと言った。

ここまで父はわたしたち2人の交際についてなにも話していない。それどころか、彼とは話さえしていない。だめか…、その日の夜作戦会議を開いた。

彼が出した結論は、来月も来るしかない。おおお…。なかなかの腹の座り具合。頼もしいぞ!と思いつつ、翌朝「帰ります」と実家に挨拶に行った。

最後までなんにも言わんなあ。と諦めていたら、最後の最後、車に乗ろうとするその時に、父が彼に話しかけた。

「よろしく。」

なにがよろしくなのか。娘をよろしくなのか、これからよろしくなのか。よく分からないけど、よろしくしていいらしい!

彼は、びっくりして小学生みたいに元気よく「はいっ!」と返事した。これで、来月は行かなくていいな。とひとり思っていたのだが。

「もう一回挨拶行かないとね」

と彼は言った。今回は交際の許可、今度は結婚の許可をもらいに行くと言う。律儀な人だ。こうしてまた飛行機のチケットを予約する。

今度はふたりでスーツを着た。

実家の客間に通された。また、彼が喋りだす。さながら就活の最終面接だ。面接官、顔、怖すぎん?(映画「ヤクザと家族」の組長役 舘ひろしさんを想像してもらうとちょうどいいです)

彼の最終自己アピールタイムが始まった。

今の仕事に対する考え、娘さん(わたし)のどこが好きか、なぜ結婚したいか、どんな家庭にしたいか。聞いているわたしと母は恥ずかしくて真っ赤な顔で終始俯いていた。


「一生愛します!結婚させてください!」


ついに言ったーーーーーー!


……え、待って、それ、言う相手 間違えてない?それわたしも聞いてないヤツじゃない?(正式なプロポーズをもらっていなかった)

まあ、まあ、、、ええか。ええわもう!

言ったーーーーー!鬼面の舘ひろしに向かって言ったぞーーーー!!!!!

が、しかし。

案の定、父は鬼面のままなにも言わない。それどころか、彼の目を睨み続けている。

だめかあ、これこそまた来週も来るやつかー、また飛行機かー、と内心諦めていたら。ついに、鬼が動いた。



「可愛がれよ」



たった一言。

急に3歳のわたしが蘇った。父の膝の上に抱かれるのが大好きだったこと。取引先や土曜日の会社、海、いろんなところへ連れていってくれたこと。子どもの頃父に愛された記憶が一気に駆け上がってきて、思わず涙が一粒落ちていた。

嬉しかった。

父にずっとずっと愛されてきたことが。

その父に、正々堂々「一生愛します!」と言ってのけた人が現れたことが。

「可愛がれよ、俺の代わりに。俺と同じくらいに」そんな風に聞こえた。


そのあと、結婚式のことなどで何度も彼と喧嘩することになる。でも、そのたびにこの日のことを思い出した。

一生愛します!って鬼に誓ったじゃん!愛せよーーー!

って泣き叫んで解決。ありがとう、あの日誓ってくれて。


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小さな頃、お父さん子でした。思春期にはそりゃもう反抗しましたが、それでも今でもお父さん子です。多くは喋らないけど、愛が分かりやすいから。分かりやすい愛は安心感を与えます。実は、顔やスタイルも好きでした。もちろん舘ひろしさんも好きです。

いつしか、父のように、多くは喋らないけど愛が分かりやすい人と結婚したいなと思うようになりました。ほんとにそういう人と結婚しました。でも、さすがにびっくりしました。鬼の父に「一生愛します!」びっくりしすぎて一生覚えていられそうです。


この話を書こうと思ったのは、こんな素敵な記事を読んだから。きゅーんきゅんしちゃいました!♡♡♡あやしもさん、きっかけをありがとうございます!

素敵な企画を考える方がいらっしゃるものです!みおいちさん、ありがとうございます!恋バナだいすき!大歓迎!笑

これを見たあなたも、ぜひ書いてくださーーーい!♡(おしまい)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!サポートしていただいた暁には、自分のために厳選した1冊を購入させていただきます。感謝いたします。