山田太一さんの「男たちの旅路 ー 流氷」からの一場面がSNS上で流れていたので、改めてシナリオ集を取り出してみた。
部下の悦子(桃井かおり)が亡くなってから、北海道に身を潜めてしまった上司の吉岡(鶴田浩二)を探し出して帰京を促す部下の陽平(水谷豊)の台詞。
幼い頃から戦争が恐ろしかった。先の大戦で敗けなければ、日本人とはいえ母が朝鮮半島から引き揚げてくることはなかっただろうから、父と出会うこともなかったはずだ。つまり終戦を迎えなければ、自分は生まれなかったという仮定が怖かった。だから戦争を知らない子どものくせに、妙に戦争が気になって仕方がない変な子だった。しかし母が語る昔話は、外地での裕福な暮らしと内地に引き揚げてからの苦労話だったし、父は戦争の思い出そのものを語ろうとしなかった。戦争で亡くなった日本人は310万人といわれる中、なぜそんな戦争を始めたのか、満足な答えを見出せないでいた。
引用箇所の陽平の台詞は、私の願いそのものだった。そして、陽平の上司である吉岡司令補は、亡き父を想起させた。もしもまだ父が生きていたら、私は陽平と同じ問いを投げかけたかった。なんにも言わないで消えてしまった父に、まだ語ってほしいことが一杯あった。