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夢のふしぎ

学生時代に友人宅にお邪魔した時、お祖母様から「夢ってなんでございましょう。あれはいったいなんなのか、ふしぎでならないんです。大学ではなんと教えてくださるんでしょうか」と質問されて、答えに窮したことがある。当時この本があれば、お渡しできたのだけれど…。

ひとりごと

夢のふしぎを多角的に分析するとともに、その大切さを教えてくれる絵本がこちら。【※以下ネタバレあり、ご注意ください】

村瀬学 文・杉浦範茂 絵 『夢ってなんだろう』(福音館書店、1986年)

著者は夢の正体を「まだよくわからない」とした上で、ご自身のお考えを述べておられる。小学中級向けのため専門用語はほぼ用いられていないが、内容的には無意識や予知夢についても触れている。日本では昔から夢が大事にされてきたことも。

 ふしぎなこと、とくべつなできごとが起こるまえには、だれかが「夢のおつげ」でそのことを知るのが、むかしはふつうだった。…… 奈良の法隆寺に夢殿というお堂がある。このお堂は、聖徳太子が夢を見るためのとくべつの場所だった。聖徳太子は、王さまではないけれど国をおさめ、仏教をねっしんにひろめたひとだ。夢殿にこもった聖徳太子の夢に、金色のほとけさまがあらわれ、聖徳太子にありがたいお経の意味を教えた、といういいつたえがある。

『夢ってなんだろう』28-29ページ ※ルビ省略
法隆寺 夢殿を見学する修学旅行生
(を撮影する私はなにを見てきたのか)

 ひるま、ひるの世界に生きるきみと、夜、<夢のつぼ>の中でいろんなぼうけんをするきみ。ー その両方を合わせたのが、ほんとうのきみなんだ。
 目がさめたときに夢の中のできごとをよくおぼえているかどうかは、あんまり問題じゃない。夢を見て夢の中に生きる。ー 大切なことはそれじゃないかと、ぼくは考えている。

『夢ってなんだろう』33ページ ※ルビ省略

目覚めている私と眠っている私の双方を合わせてこそ、ほんとうの自分なんだと。「寝てばっかりいないで勉強しなさい」と言われていた頃の自分に、この本を手渡してあげたい。そうすれば毎朝叩き起こされずにすんだだろうに。

 どんな動物も植物も、人間にはないふしぎな力をいっぱいもっている。何千年も生きてきた、とても年とった木がある。地図もないのに、大海をこえて旅をすることができる鳥や魚がいる。地震が起きたり、台風が来るのをまえもって感じて、安全なところにひなんする、ちいさな生きものたちがいる。
 人間には夢の中でしか見られないずっとむかしのこと、遠いさきのことを、たいていの動物たち、植物たちは、ごくあたりまえに感じとっているのかもしれない。

『夢ってなんだろう』34-35ページ ※ルビ省略

…だとすると、動植物よりも進化した人間のほうが優れているとばかりはいえないのかも。進化の過程で失ったものの名残りが夢に現れるとしたら、それはそれで素敵なことではないだろうか。

『夢ってなんだろう』背と裏表紙

 子どもたちが見る夢を大切にしてください。たのしい夢にしても、こわい夢にしても、その中で子どもたちはいっしょうけんめい生きたのですから。
 それから、朝起こすときもじょうずに起こしてください。パッとやってきて、いきなり大声をあげたりするのは、へたな起こしかたです。
 ……
 気持ちよく目をさませたら、その1日はその子にとって、とてもいい1日になるはずです。

『夢ってなんだろう』40ページ「おかあさんへのお願い」より
これからの季節、朝の起床がますますつらくなるので、
私を起こす家族にはぜひご配慮願いたいものです。

テキストに込められたメッセージとともに、杉浦範茂画伯の絵も全ページにわたって秀逸です。以上、冬眠間近につき選んだ1冊でした。ぜひ手に取っていただけたら幸いです。