くすのきしげのり作品の魅力を探る(2020年6月)
2020年6月20日。初めてメンバー内でのオンライン座談会を開催しました。
座談会のテーマは、絵本に親しむ方なら誰でも一度は読んだことのある「くすのきしげのり先生の作品の魅力を探る」。
くすのき先生の作品を手渡す場面、お薦めの作品、ここがすごい!など、ノンストップの約2時間!でしたので、その様子をご紹介します。
絵本作家くすのきしげのり先生について
くすのき先生は1961年生まれ。小学校教諭生活を経て50歳を前に独立し、現在は徳島県鳴門市を拠点に児童文学の創作活動や講演活動を展開されています。読書感想文の課題図書や道徳の教科書に選書された作品は多数。児童文学にとどまらず童謡や文化賞など幅広い受賞歴をお持ちです。
(「くすのきしげのり オフィシャルホームページ」より)
くすのき先生の作品を手渡す場面
今回参加したメンバーは、絵本まるごと研究会で活動を共にする第5期絵本専門士8名と、第1期絵本専門士で養成講座の講師でもある波賀稔さん、そして星の環会の池水秀徳さんもオブザーバー参加してくださいました。
絵本専門士は、司書、保育士、教員、読書支援ボランティアなど、日常ではそれぞれのフィールドで絵本に接しているのですが……。
ー 合同保育の時間に『ともだちやもんな、ぼくら』を読んでみたところ、0歳の子どもも、じっと見ていたんです。絵がユニークでストーリー展開もしっかりしているからだろうと思います。心に響く内容であることや独特の優しさが子どもたちは大好き。子どもが絵本に引き込まれるシーンが仕掛けられているのも魅力で、読み手としても楽しい作品です。(保育士 藤得さん)
ともだちやもんな,ぼくら(絵本の杜 2011年)
文:くすのきしげのり 絵:福田岩緒
定価:本体1,200円+税
ー 授業の中で、『おこだでませんように』を取り上げることがあります。子どもは、突っ張っているように見えても繊細だったりするので、一人一人の気持ちを汲み取ることの大切さを教えてくれていると思います。(保育士養成教員 野見山さん)
ー 勤務する小学校図書室では、1類にくすのき先生の作品を置いています。そうすることで一年生から六年生までが手にすることができるからです。『おこだてませんように』は、定番の一冊ですね。(学校司書 増田さん)
ー 大型絵本の刊行されている『おこだでませんように』をお話し会でよく読んでいます。心温まるストーリーで、年齢を問わず会場が一つになる感じがあるので、締めの一作として読むことが多いです。(声優 冨田さん)
おこだてませんように(小学館 2008年)
作:くすのきしげのり 絵:石井聖岳
定価:本体1,500円+税
ー 大人向けの絵本講座でくすのき先生の作品を紹介しています。大人の皆さんにもまるごと絵本を楽しんでほしいので、『ライフ』『ええところ』『メロディ』などは、講座の中でよく取り上げますね。大人はさまざまな経験をしてきているので、ストーリーにすぐに入り込んで共感できるようで、話が盛り上がることが多いんです。(カルチャースクール講師 森さん)
Life ライフ(瑞雲社 2015年)
作:くすのきしげのり 絵:松本春野
定価:本体1,300円+税
くすのき先生の作品のここに注目!
既刊100作品を超えるくすのき先生の作品にはどのような特徴や共通点があるのでしょうか。座談会ではこんな声も聞かれました。
ー あらためて作品を読んでみると、声にならない声や見過ごされがちな感情を描き、子どもにそっと寄り添ってくれる作品が多いような印象です。今は大きな声に耳を奪われがちですが、『あたたかい木』は、静かだけれど大きな存在に気がつかせてくれます。(読書支援ボランティア 立田さん)
あたたかい木(星の環会 2019年)
作:くすのきしげのり 絵:松本春野
定価:本体1,400円+税
ー くすのき先生の作品は、泣く、怒る、怖がる、不安になるといった感情表現がとても豊かなんですよね。そして登場人物が多い作品が多いのに、一人一人の個性がしっかりと描かれている。まるで黒沢明さんが映画制作をする時に、キャスト一人一人のバックボーンを細かく描いていたというエピソードに似ているような気がします。(保育士 藤得さん)
ー 小学生が主人公になっている作品が多数の中、幼児向けの作品として刊行したのが、『ぼく、おおきくなるからね』です。子どもの成長だけでなく、周りの大人との関わりも作品の中に描かれています。
くすのき先生の「人を大事にする」世界観は、さまざまな作品に表出していますね。(波賀さん)
ぼく、おおきくなるからね(すずき出版 2015年)
作:くすのきしげのり 絵:渡辺有一
定価:本体1,200円+税
ー 親、先生、近隣に住む大人などは、すべて子どもを取り囲む環境の一部であることが、作品にベースとなっていると、くすのき先生は語っておられます。先生の作品に触れていると、自分も誰かとの関係にあり、支え合っていることに気付かせてくれますね。大人向けの絵本になりますが、『あなたの一日が世界を変える』は、先生のそんな想いが詰まった一冊だと思います。(池水さん)
あなたの一日が世界を変える(PHP研究所 2016年)
作:くすのきしげのり 絵:古山拓
定価:本体1,500円+税
ー 以前に、くすのき先生から、『ええたま いっちょう!』に登場するお巡りさんは、『おこだてませんように』の少年が大きくなった姿だと聞いたことがきっかけとなり、各出版社さんの協力を得て作品相関図を作りました。そうすると、くすのき先生の中には独自のワールドが出来上がっていて、後付けではなく一つ一つの物語がつながっているのが分かるんですよね。
(池水さん)
ええたま いっちょう!(岩崎書店 2017年)
作:くすのきしげのり 絵:吉田尚令
定価:本体価格1,300円+税
ー 『はだかのおうじさま』では、物語の舞台である架空の国のオリジナルの文字までできていました。小学生くらいの子どもたちは、自分たちだけにしか分からない言葉とかが流行ったりすることを、くすのき先生はきっとご存知なのでしょうね。(保育士 松村さん)
はだかのおうじさま(フレーベル館 2019年)
作:くすのきしげのり 絵:澤野秋文
定価:本体1,300円+税
ー くすのき先生の相関図は宝物です。子どもたちには一冊でも多く読んでほしいので、図書室に相関図を配置しています。そうすると、配架していない作品を子どもたちがリクエストしてくれるんですよね。(学校司書 増田さん)
ー 繰り返しの表現を上手く使った作品も多いですね。『ぼくのジィちゃん』や『ああみいつけた』もそうですが、『おかあしゃん。はぁい。』においては全ページ同じセリフがでてくる。本当に上手いですね。(池水さん)
おかあしゃん。はぁい。(佼成出版社 2015年)
作:くすのきしげのり 絵:岡田千晶
定価:本体1,300円+税
くすのき先生に聞いてみました!
今回、池水さんから素敵なプレゼントをいただき、終盤にくすのき先生が座談会に参加してくださいました。私たちからの質問にも丁寧にご回答いただきましたので、その一部をご紹介します。
ー 大人も何度も涙してしまう『ふくびき』。あの主人公の一家にはお父さんはいないご家庭という設定なのでしょうか。(カルチャースクール講師 森さん)
ー このお話しは、当初『おこだでませんように』の続編として書きました。そのため、お兄ちゃんと妹とお母さんという設定だったんですね。ところが、画家の選定時に『おこだでませんように』の石井さんとは違う方でいこうということになり、お姉ちゃんと弟とお母さんの設定に変えて、全てを書き直したんです。本文の絵をよく見ていただくと、今はお父さんは長期の出張中か何かでいないということが分かると思います。狩野さんには、冬の冷たい空気感の中に暖かさを出して欲しいとリクエストしました。ベテランの画家さんは描こうとしてくださるし、描けるんですね。表紙の絵からもお分かりいただけると思います。(くすのき先生)
ふくびき(小学館 2010年)
作:くすのきしげのり 絵:狩野富貴子
定価:本体1,500円+税
ー 保育の現場で、くすのき先生の作品を読んでいると、暖かい静寂が起こることがあるんです。くすのき先生の想いの深さがはっきりしているからだと思うのですがスタイルというか考え方のルーツになったものって、何かあるのでしょうか。(保育士 藤得さん)
ー よく学校の先生をしていたから書けるんですね、と言われることがあるんです。でもそうではないんです。自分の体験ももちろんいろいろありますが、そのまま反映されているのではなく、大学院でまどみちおさんの作品を研究した影響は大きいと思います。当時まどみちおさんは70歳を超えていましたが、2歳、3歳の子どもたちが喜ぶ作品が描ける、その理由を知りたくて、調査分析をして研究しました。そこで分かったことが二つあるんです。一つは、対象に同化する自在性です。これがあるから、まどみちおさんは草や動物にもなれるんですね。もう一つは共生感。まどみちおさんの共生感は我々のそれとは全くちがうんです。共に生かされているという共生感なんですよね。それを知ることができて、自分の作品もずいぶん変わったと思います。作品の中では、すべての登場人物の立場になって行動や発言を書いているんですよね。(くすのき先生)
これも外せない!くすのきしげのり作品
『ええことするのは、ええもんや!』(えほんの杜 2014年)
作:くすのきしげのり 絵:福田岩緒
定価:本体1,200円+税
ー マイノリティ、マジョリティー、差別などが世間の話題となる中で、関心を持って手に取りました。身近にあるような出来事を疑似体験できる物語なので、お薦めです。作品の中に描かれる大人たちの姿はとても印象的で、すぐ近くにいるいろいろな人と関わることが、子どもの育ちには欠かせない大切なものであることが伝わってきます。(保育士 松村さん)
メガネをかけたら(小学館 2012年)
作:くすのきしげのり 絵:たるいしまこ
定価:本体1,500円+税
ー 一人を大切にする大人の姿勢が描き出され、子どもにとってはこんなにも向き合ってくれる人たちが近くにいてくれたら嬉しいだろうな、って思ってしまいます。自分も、こんな大人でありたいと思う作品です。我が家の子どもたちも大好きです。(保育士養成教員 野見山さん)
ひとりでぼっち(学研プラス 2019年)
作:くすのきしげのり 絵:ふるしょうようこ
定価:本体1,300円+税
ー 子どもは物語の繋がりに気付いていて、「今度はともちゃんのお話しを読んでみたいな」と言っています。一人一人の子どもにスポットが当たっていたり、それぞれの物語があるところに、子どもは喜びを感じているようです。(読書支援ボランティア 立田さん)
ぼくのジィちゃん(佼成出版社 2015年)
作:くすのきしげのり 絵:吉田尚令
定価:本体1,300円+税
ー 忙しい家族の中で過ごしたので、大人によって読んだ時に、こんな家族だったらよかったなと思いました。子どもには寄り添ってあげよう、走るのはこうすればよかったんだって思わせれくれる、感謝の絵本です。(声優 冨田さん)
座談会を終えて
初めての試み。期待一杯で迎えたその時は、あっという間の濃密なものでした。
絵本という媒体は、年齢の制限がなく楽しめるものだということが再認識でき、さまざまなフィールドで絵本に接する仲間と共に一つのテーマを語り合う意義も強く感じました。
最後にくすのき先生の『おこだでませんように』を読んでいただいた時、絵が自然に脳裏に浮かんだこと、そして先生の読みが淡々とされていて驚いたことが印象的でした。伝えようという思いが先行して、私ったら最初から最後まで全力疾走の読みになっていしまっていたかも。そんな発見も面白かったです。(文責 矢阪亜希子)
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