第34回絵本まるごと研究会
2022年7月に開催した第28回絵本まるごと研究会が大盛況でしたので、再び昔ばなし絵本をテーマとした研究会を開催しました。今回は、どんな作品がどのように紹介されたでしょうか。お楽しみください。
魅力を感じる所は、後半の場面で馬方がやまんばの家の屋根裏から仕返しをする場面。絵本の縦面と横面を使い視覚表現に工夫されている点です。登場人物の表情もどこかこっけいさを感じる。残酷なシーンもあるように感じるがよく絵を見ていくと、残酷なシーンの描き方が過激ではなく子どもが想像する余白を残しているので、子どもは悪いことをした者は懲らしめられるという感じで受け止められると思う。結末句が「こんでえんこつもんつこさけた。」と締めくくられて楽しい。このような再話をこれからも多くの子ども達に伝えたい。 Q、昔話といえば残虐な場面があるので積極的に見せないというお母さんもいるが、果たして昔話絵本は本当に残虐なのか?という点でまる研の皆さんのお考えを聞いた。 A1・松岡享子さんは三匹のこぶたとオオカミのお話を例に出し「オオカミが逃げてしまっては子どもは不安になる。悪いものは無くす方が良い」とお話されたそうだ。 A2・昔話絵本は口承文芸なので、どこまで描くか、どう描くが重要になるので読み手の選書が大切。 A3・昔話に限らず、傍に安心できる親や親しい大人がいてくれる場所で読み聞かせにであうと良いのではないか。 最後に『昔話と昔話絵本の世界』藤本朝巳:著から一部抜粋をして紹介します。 「昔話には、現実の厳しさ・人間の本性・自然の厳しさが描かれている。美しいことに彩られた人間だけをではなく、人間の本質みたいな姿を幼いうちに物語を通して伝えることで成長することがある。人間の持つ残酷性を隠すことの方が本当は恐ろしい。」と述べている。(絵本講師 森さん)
「むかしあるところに、おかあさんと三にんのきょうだいがすんでいました」から始まる『やまなしもぎ』は、平野直氏(1902~1986)の再話です。平野氏は、民話の宝庫である東北南部地方の伝承民話を語り手40名近くから聴きとり書を編集、民話集『すねこ・たんぱこ』に143編を収めており『やまなしもぎ』はその中の1編で、民話採集のきっかけになったお話だそうです。「採集に当たっては、主観を交えずただ耳を透してきいた言葉を~中略~出来るだけ素直に出来るだけ多く写し植えるように心がけた」と、はしがきにありました。声に出して読む程に、昔話に込められた人々の願い、想い、おかしみ等が伝わります。
『すねこ・たんぱこ』には「桃の子太郎」「古屋の漏り」「カチカチ山ボウボウ山」「雉女房」(=鶴の恩返し)等おなじみの昔話も収められており、方言、語り口調等殆どそのままの文体が民族文学として伝承された意義を、読者に知らせてくれます。(保育士セミナー講師 相沢さん)
今回は、「昔ばなし」では深く語られることのない登場人物や情景のディテールが、どのように描かれているのかに注目をして「昔ばなし絵本」を読んでみました。
『うまかたやまんば』では、やまんばが「ぬうっと」現れる場面や、やまんばが休む木箱の様子など、各所に視覚化の工夫をが確認できました。
同時に、想像を膨らませることができる「昔ばなし」、絵本作家による具体化された世界を味わえる「昔ばなし絵本」、それぞれの良さについても改めて認識しました。
また、「昔ばなし絵本」には、ストーリーからインスピレーションを得て新しい世界観を作り上げている作品があることにも気づきました。『うしかたやまんば』(千葉幹夫:文 スズキコージ:絵 小学館 2009)は、その一つと言えるのではないでしょうか。(財団職員 矢阪)
全国的によく知られている昔話ではなく、絵本にされることが少ない女の子が主人公の昔話で、最近出版された昔話絵本を紹介します。
再話は、幼少期を高知県で過ごし大学で民俗学を学んだ中脇初枝さんです。中脇さんは、高知県幡多地方の昔話を収録した昔話集や、今まで表に出ることが少なかった、強くたくましく生きる女性を主人公とした日本・世界の昔話絵本をシリーズで出版されています。
この『おだんごころころ』は、世界や日本で多く伝えられている、丸いものがころがって、おいかけるうち別の国に行ってしまうお話ですが、自分の力で逃げ出し、その後は鬼の国から持ち帰ったおたまを使って豊かに暮らしていくというたくましい女の子のお話です。MIKAOさんの美しい布と刺繍の絵による、美しい野山の風景や意志の強い女の子、ちょっと間抜けでコミカルな鬼の姿が、昔話を印象的な絵本にしています。
3年生の教室で読み聞かせをしたら、子どもから「『おむすびころりん』と『ももたろう』のお話のミックスや。」との声がありました。
(小・中学校SSW 横田さん)
昔話といえば、“鬼”、しかしこの二つの民話に登場する“鬼”に課せられた運命は「不条理」としかいえないものだ。嫁候補の娘にうそをつかれ、ようやく理想の娘を見つけたと思ったら、その娘と結託した若者に殺される山おとこ。さらわれた女と鬼の間に生まれ、逃げおおせたものの鬼になる兆しに怯え焼身自殺をした少年。この2冊は、決して大人向けの絵本ではない。子どもにも読んでほしい、見てほしいとかかれた絵本だし、私自身強く感情を揺さぶられた物語なので、広く伝えたいと思っている。
一方、子どもを残酷なもの、非人道的なものに触れさせたくないという考え方がある。しかし、私は、それこそが、絵本でしか子どもに伝えられない思いなのではないだろうか、と思っている。
娘は何日も一緒に暮らした山おとこではなく、蔵の中で倒れていた素性も知らぬイケメンに心を許した。昨今のルッキズムに警鐘を促すものである。
生まれながらに歯や髪の毛が生えている子は“鬼の子”と言われたそうだ。なんだそりゃ、という話である。まぁ、そんなこと考える必要はないが、昔話の中の“鬼”の立場を考えることは、今流行りのSDGsにもつながるのではないだろうか。(テレビ局CSR担当 武田さん)
神立幸子著『日本の昔話絵本の表現―かちかち山のイメージの諸相』(てらいんく 2004)を参考に2作品を読み比べてみた。昔話は語り継がれてきた物語を、再話というかたちで文章化している。たぬきを捕まえる場面、おばあさんが殺されてしまう場面、たぬきが溺れる場面など残酷といわれる部分をどのように表現するか、作品によって違いがあり、興味深い。前者は残酷性を考慮し、婆汁は作られていないが、ばあさまの死に姿が描かれている。後者は、ばあさまに化け、ばあじるを食わせているが、死に姿は描写していない。他の絵本を見ると、骨を描いているものもある。
物語を絵本にする際、動物をどのように描くのか、衣装、動き、体型、表情などに着目してみると、そこに込められた思いなども感じることができる。前者はたぬきが滑稽に描かれ、表紙の赤い炎が印象的だが、後者はオオカミのような悪者で、うさぎの赤い半纏が正義感の象徴のようである。
昔話特有の繰り返しや決まり文句など語りの中の表現は文字として記され、人々の目にさらされる中で、さまざまに変化している。『かちかちやま』は10作品ほど手に取ることができるので、読み比べてみて、自分が伝えたいと思うものを選ぶとよいだろう。(図書館勤務 舘向さん)