第18回 絵本まるごと研究会
2021年2月6日(土)、18回目となる絵本まるごと研究会を開催しました。
今回のテーマは、「科学絵本の魅力を探る」。お薦めの一冊を紹介しながら、科学絵本とは何か、そしてその魅力を語り合いました。
日本で本格的に科学絵本が刊行されたのは1960年代のことで、自然科学をテーマとした写真絵本の作品が中心だったとか。近年は「理科読」ブーム、出版社の児童書分野への新規参入などが後押ししたこともあり、その種類は広がり、分野間の融合も見られるようです。そのためか今回は、長く愛されている作品から近刊まで幅広く、さまざまなジャンルの作品が集まりました。
お薦めの科学絵本
『よんでたのしい! いってたのしい!どうぶつえんガイド』
(福音館書店 1995年)
作・絵:あべ 弘士 デザイン:なかの まさたか
定価 : 本体1,600円+税
20年以上旭山動物園で飼育員をしていた方が作者なだけあり、それぞれの動物の特徴を捉えた躍動感あるダイナミックかつ温かなイラストが素敵です。また、動物の大きなイラストのまわりには “へ~知らなかった!”と思わず言ってしまうような動物の特徴や飼育の仕方がユーモアあふれるイラストと言葉で紹介されており、“実際に見たい!”と思わずはいられないと思います。動物園に行く前に読んでおくと何倍も動物園が楽しめる、おすすめの動物科学絵本です。(保育士養成教員 野見山さん)
『イカはイカってる』(マイクロマガジン社 2020年)
著:大塚健太 絵:くさかみなこ
定価:本体1,350円+税
イカはイカっています。
なぜ?
それは、いつもタコと間違えられるから。いっぱい足があって、つるんとしていて、スミをはいて・・・。似ているところがたくさん。だから、周りから見れば一緒でいいみたいな扱いをされます。でも、イカはイカであることを認めてほしいんです。そこでイカは、イカとタコの違いについて次々に話し始めます。
私たちの周りには、不思議がいっぱい。「似ているけど違うもの」を見比べるきっかけになる1冊です。(学校司書 増田さん)
『くつしたのはら』(日本標準 2009年)
文:村中李衣 絵:こやまこいこ
定価 : 本体 1,429 円 + 税
幼稚園の子どもたちが原っぱまでお散歩に出かけます。でもただのお散歩ではありません。みんな長靴の上に、家から持ってきた大人の古い靴下を履いています。原っぱでたくさん遊んでから園に帰って、その靴下を植木鉢に植えると…!何やら芽が出てきましたよ♪
身近な自然や環境に興味を持って、ドキドキワクワクする絵本です。私もやってみたいな!実際どうなるの?と気になります。
絵本を通した種まきで、子どもたちの中にどんな芽が出て育つのかも楽しみですね。(保育者養成校教員 小屋さん)
『このよでいちばんはやいのは』(福音館書店 2011年)
原作:ロバート・フローマン 翻案:天野 祐吉 絵:あべ 弘士
定価 : 本体900円+税
このよでいちばんはやいのは、と動物を比べることに始まり、人間の作り出した乗り物を比べ、地球の自転、公転、音や光の速さにまで想いを馳せる。いままで、自分達が生活していること地面は、地球であり、新幹線などとは、比べ物にならない速さで自転し、公転しているってことを、改めて認識できる。
科学絵本というのは、何気なく過ごしている日常の中の不思議を見いだしその本質を追求する絵本だと考える。この絵本の最後に繰り広げられる、このよでいちばんはやいのは人間だけがもつ想像力だという部分は、哲学的でもあり、子どもたちが、自分達ってすごいんだってことに気がついて、ため息が聞こえるところである。(大学専門研究員・嘱託講師 森さん)
『おかしなゆき ふしぎなこおり』(ポプラ社 2012年)
写真・文:片平 孝
定価:本体1,200円+税
植物についた氷、屋根や木に積もった雪など、おもしろい姿になった雪や氷の写真絵本。詩のような言葉を通してその魅力を伝えています。迫力満点、自然の力に圧倒されるでしょう。身の回りの発見、遊び心に刺激されて不思議な世界へと誘われる一冊です。作者の片平さんは、宮城県生まれ。小さいころから雪や氷に親しみ、ひかれて、雪の結晶の撮影をはじめたそうです。『ふゆとみずのまほうのこおり』も一緒に楽しんでください。(大学教員 德永さん)
『ひとしずくの水』(あすなろ書房 1998年)
写真と文:ウォルター・ウイック 訳:林田康一
定価:本体2,000円+税
カメラマン、ウォルター・ウィックによる写真絵本。人気探し絵絵本『I SPY ミッケ』(小学館刊)シリーズの作者として知られていますが、この絵本ではミッケシリーズとはまた違うシンプルかつ美しい写真を見ることができます。
表紙の写真は、まさにひとしずくの水がコップの水の中に落ちる瞬間を捉えたもので、肉眼では留めおくことのできない一瞬です。テキストは水の性質や地球上で巡り巡る水の姿を知ることができるなど、しっかりと科学を抑えた内容で、小学校中学年以降くらいからしっかり理解できるのではないかと思います。
科学絵本というと写真を使ったものが多くみられますが、この本のまるで写真集かと見間違うかのような美しい写真には本当に驚かされます。内容云々よりも先に「美しい写真に感動する」ことから始まる科学の世界があってもいいのではないでしょうか。(図書館司書 石坂さん)
『みち』(福音館書店 1973年)
絵・文:五味 太郎
定価 : 本体900円+税
五味太郎さんは、デビュー前に福音館書店の編集者さんに「月刊誌のかがくのとも に向いていると言われたそうです。五味さんが「科学を概念論と解釈して、「道」とは何か?と客観的に見つめて、叙情ではなく、叙事で展開させて描いた28歳の時のデビュー作が「みち」です。
この絵本の表紙は、背を向けて道を進む少年の姿とタイトルの「みち」がすでに道になって描かれています。表紙を開くと、川と船が描かれてあります。「みち」は道路だけではないとここで気づかされ・・・・・。次のページはうんと狭い道。何としてでも前に進みたくなります。一本道に分かれ道、空は飛行機のみち、線路は汽車のみちと色々な道が展開していきます。
私が一番面白いと思ったページはP18.19ページです。
空気の道・電波の道・煙の道・・なるほどと唸りました。このページを開いて子どもたちといろんな道を
考えるときっと大人の堅い頭では考え付かない色々な道を見つけられると思います。
最後は「みちは、いろいろなものをみせてくれる さぁ みちをあるいてごらん」としめくくっています。
裏表紙は表紙との対比でここでも何かを感じさせられます。どこかになにか仕掛けがあるかもしれない!と丸ごと絵本をじっくり見たくなるそんな五味太郎ワールドが楽しめる「みち」を紹介しました。
科学の原点はなぜ?どうして? そして面白い!と思うことだと私は思います。五味太郎さんの概念論は哲学的だったりもしますが、子どもにも大人にもぜひ伝えたい1冊です。(カルチャースクール講師 森さん)
『ルビィのぼうけん AIロボット、学校へいく』(翔泳社 2020年)
著:リンダ・リウカス 翻訳:鳥井雪
定価:本体1,800円+税
本書は、ロボットと一緒に学校での一日を過ごすことで、子どもたちが人工知能(AI)の理解を深めていくお話です。子どもたちとロボットが接することで、得意とすることや苦手なことが表出し、その概念が分かりやすく伝わる内容となっています。プログラミング必修化の時代に相応しい科学絵本のニューフェイスといえるでしょう。物語を活かしながら、その分野への興味を引き出す仕掛けが、科学絵本の持つ側面の一つなのかなと思います。
後半には物語を受けたクイズやゲームが掲載され、長く手元におけるだけでなく、大人も楽しめる作品です。(印刷会社 矢阪)
『ありさんどうぞ』(大日本図書 2009年)
作:中村牧江 絵:林健造
定価:本体1,200円+税
私は小さな子ども達が生活の中で出会うとても身近な「虫」=アリを描いた絵本をご紹介します。
この作品は、蟻が擬人化され過ぎずそのものに近い描写になっていることで、子どもたちに「あ、これ見たことある!」という喜びを感じさせてくれます。実際、まだ言葉を発しない1歳児に読むと、絵本を指差して目を輝かせる場面に何度も遭遇しています。
知ってるモノを更によく見る・知る、そしてもっと深く知りたくなる…そんな探究心の入口になる絵本…それも科学絵本の要素かなと考えました。(保育士 松村さん)
『せかいのこどもたちのはなし はがぬけたらどうするの?』
(フレーベル館 1999年)
作: セルビー・ビーラー 絵: ブライアン・カラス 訳: こだまともこ
歯の生え変わりやその成り立ちについてと、抜けた歯はその後どうしているのか?という視点で世界各国の風習についても描かれている面白い一冊です。
作者の出身であるアメリカでは、抜けた歯を枕の下に置いておくと歯の妖精が持っていってくれて代わりにお金が置いてあるそうです。その他にも、トルコでは自分のなりたい職業の場所まで出向き、その庭に埋める等本当に様々な慣わしが描かれています。
この絵本を、勤務先で「歯のはえかわりについて」に関する本を探していた親子にご紹介するととても喜んでくださり、後日その親子から「(この絵本をきっかけに)子供が世界の国々に興味が出たようで、今は世界の料理の本を読んでいます」との感想を伺いました。
科学絵本、という今回のテーマで、この絵本を紹介して良いのか悩みながらの選書でしたが子供達は(なぜ?・知りたい)を満たしてくれる絵本をとても楽しんでいるんだな、という事を改めて実感しました。
又、私達の生活をとりまく沢山の「科学」について知るツールの一つとして絵本が選ばれているなら、絵本を手渡す一人としてとても嬉しいと感じました。(司会・育児コンシェルジュ 中河原さん)
『ふしぎなナイフ』(福音館書店 1997年)
作:中村牧江・林健造 絵:福田隆義
定価 : 本体900円+税
1985年にこどものとも年中向き、として発行されて以来ずっと読み継がれてきた絵本です。「まがる」「ねじれる」「おれる」等の動詞に合ったナイフの絵が描かれており、ナイフとはこのような物…という固定概念を覆すまさに「ふしぎ」な絵本です。読み手も聞き手も「なんだろう?「どうしてだろう?」「おもしろそう」というおもいをこの絵本に抱いて、何かに自ら興味を抱く一歩を踏み出すきっかけの科学絵本の1冊として、紹介しました。(保育者養成校教員 相沢さん)
『アリからみると』(福音館書店 2004年)
文:桑原隆一 写真:栗林慧
定価 : 本体900円+税
普通のカメラレンズで接写すると、一点にはピントが合っても回りがぼけてしまいます。栗林氏が開発したアリの目カメラは、クローズアップできるうえにピントの合う範囲も広域で、そのうえ小さいので、地面すれすれのアリの目から見えるであろう景色が再現されています。アリになったような感じで、バッタやカマキリなどに出会えますが、アリの目は複眼です。複眼は個眼が集合した器官。一個の個眼では図形を識別することはできませんが、複眼を構成することで、図形認識能力をそなえているといわれます。アリが実際にこの写真のように見えているかは不明ですが、人間がアリになって見たら…という興味で楽しめます。(出版社 波賀さん)
『おしりをふく話』(福音館書店 2016年)
絵:斎藤たま 絵:なかのひろたか
定価 : 本体1,300円+税
子ども遊びの研究者が書いた絵本です。なぜ、子どもの遊びとおしりをふく行為が結び付くかと言うと、紙が簡単には手に入らない時代、おしりをふくためのやわらかい植物の葉や汚れを掻きとる茎を集めるのは、子どもの仕事だったから。それら様々な植物の原寸大のスケッチや、集め方、保管のし方、使い方がユーモラスなイラストで紹介されています。また、著者が収集した衛生意識がおおらかだった頃のおしりをふいたあとの葉や茎の始末のし方については、"知らぬが仏"とだけ記しておきます。(テレビ局CSR担当 武田さん)
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