海
あなたも島にいる。この世にはいろんな島があって、大きさは人による。手のひらサイズの人も、中型犬サイズの人だっている。ずっと長いこと島にいると、海を渡ってみたくなる。あの地平線の先に何があるのか、知りたくなる。
しかし、海は人間には広範すぎる。そして果てしなく広く、得体の知れないものばかりだ。でも、島の発展のためには海を渡る必要がある。海上貿易だ。かつての人類も新しい大陸を求めて航海した様に。
だから人間は船を使う。船を使うのには港も必要だ。その港は英語でポートと言う。そこに何台もの船を停めておく。行く先によってどの港を使うかは決めておいた。
船を島の港から出港し、海を渡って、別の島へ行く。海の中は広くて危ないから、自分の身を守るということは徹底しなければならない。危険は突然にやって来る。もし、危険なことがあったら、それは警察に相談だ。
海の中を行き交うのには、座標を示しておくことで、迷子にならなくて済む。座標に向かって船を出せば迷わない。でも、最近海はどんどん大きくなっている。迷うことは減ったけれど、自由に行き来するのは危ない。
海があって、島があれば、空もある。空は海と違って何もない。空はただ青くて、どこまでも続いて、たまに雨を降らす。それだけ。
今日は海に潜ることにした。船がなくても浅い場所なら潜ることができる。そんなに遠くへ行ってはいけませんよ、と母に言われた。無論そんな遠くまで行くことは不可能だ。船があれば話は別だけど、今日は素潜りだから、安心して欲しい。
早速海に入る。手で目の前の水をかき分けるように進む。進めど進めど、もっと深いところがあるな、と感じる。海の中はいろいろな音が鳴っていて、耳が騒がしい。目にもいろんなものが映って、情報だらけだ。頭が重くなるくらい、情報に溢れている。
潜るのは昔から得意だ。生まれた時から触れてきた水に、今更恐怖を抱いたりしないし、体力も有り余っている。
もう少し深く潜る。美しい魚たちが見える。様々な方向に動き回っている。何万匹かの群れが自分の目の前を通り過ぎる。素通りをするつもりでも、つい目で追ってしまう。
行き先は決まっていないから、とにかく泳ぐ。水をかき分けて進む。
不意に重いものとぶつかった。
箱だ。ちょうど手で抱えられる程の大きさの箱だった。箱は開けられるようになっていた。しかし重い。かなりの力が必要な程屈強に閉じられている。思い切り蓋を引っ張っても開きはしない。そこで、一度島に持ち帰り、箱を開けてみることにした。海の中では濡れてしまう。
島でもう一度ふたを強く引っ張る。少し開いた。中が少しだけ見えた。真っ黒だった。真っ黒の中に、文字が見える。箱の中からそれを引っ張り出し、読んでみる。
「A国はメール、チャット、ビデオ通話、ネット検索履歴、携帯電話での通話など、世界中のあらゆる情報の全てを掌握しようとしている」
目を疑った。これはきっと国家機密なのだ。どうするべきなのだろうか。分からないままもう一度海に出た。今度は船に乗って。そして箱ごとそれを捨てることにした。かなり遠くに捨ててみよう。この島と、あの島の中間、誰も来ないだろう、というところまで船を走らせた。
一応、周りを確認してから箱をゆっくり海へ投げ捨てた。
その時、海の中に黒い影が見え、その影の中から手が見え、その手は確かに箱を掴んだ。まずい、と思った。
船を自分の島までフルスピードで走らせる。黒い影はまだ見えている。黒い影は確かに自分を追っていた。おそらく潜水艦だろう。全速力で逃げる。
そうやって逃げていると、いつの間にか港に着いた。あの黒い潜水艦は何だったのだろうか。
インターネットは海だ。私は島にいる。