夢の世界を夢の世界として見ないで
今見ている世界を勝手に現実(リアル)と仮定して、それ以外の世界を空想(フェイク)と呼ぶ。
今僕は、廃墟の前に来ている。なぜここにいるのか、分からないけれど、自分の意志で来ている。ここは、かつては大きなショッピングモールだったらしい。中に入ってみてわかった。大きなエスカレータが真ん中にあって、四階ほどまで吹き抜けの構造になっている。
テレビでいつか見た、軍艦島もこんな感じだったなと思う。不思議と恐怖は感じない。天井から差し込む光だけが建物の中を照らして、他には何も光はない。
一歩踏み出すごとに、ドアをノックした時みたいな音が鳴る。それを速くしてみたり、遅くしてみたりして一人で遊ぶ。それに飽きたら、深く息を吐く。すると口からは白い息が出る。タバコの煙のように長命ではない。すぐに消えてしまう。自分の体温が、周りの温度にかき消されるスピードが早いなと感じる。
もう一度、コンコン、コンコン、と足を動かす。よく見ると周りには高級ブランドの看板が立っている。もう高級というものとは縁もゆかりもない見た目だが。
光が射して来ない長い廊下に出た。ふと背中が寒い。こんなに寒い中で、僕は長袖のTシャツ一枚でここを歩き回っている。きっとダウンジャケットとかを着てたら気が付かなかっただろう。
何がこうさせているのか確かめる為、後ろを振り返って、来た道を戻ろうとすると、白い女の人が立っている。
白いというのは、肌のことじゃなくて、服装だ。髪の毛は黒い。というか、ワンピース以外は暗くてよく見えない。その人は、少しずつ近づいて来る。
急に僕は、よほど腹が減っていたのか、その女性を食べることにした。
なるべく大きく口を開け、頭から飲み込んでいく。噛んでいる暇はない。意外とすんなり飲み込める。今腰の辺り。そう思った時にはもう脛まで口の中だ。数秒で足の先まで飲み込んだ。ニシキヘビでももっと時間はかかる。
ここで目が覚めた。床には昨日食べた弁当のゴミや、洗濯しておいた服とかが散らばっている。女性を食べたのは夢だったのか。夢だったと分かっても、夢だったような気がしない。余韻が残っている。そしてそのまま操られるように、外へ出て、坂を上る。
この坂は結構急だ。でもこの先にものすごい青空が見えるらしい。
息は不思議と上がらない。ただ上を目指して坂を上る、というよりも歩く。
坂の上には、異常なほどの綺麗な青空が見えて、そこにポツンと真っ白なコテージが立っていた。
疲れた気がして、コテージに入ってみることにした。先に何人か客がいた。中も白くて、白は無垢を表すというけど、白すぎて怖かった。
トイレを借りようと思い、トイレを探すと、かなり遠くにあった。このコテージは、体育館くらい広かった。トイレまで歩くのは面倒だったし、別に排泄欲は感じていなかったけど、トイレに向かう。天井にピクトグラムが描かれた板が吊るされ、道を曲がるたびにトイレの位置を教えてくれた。
渦を巻いたような廊下の先にトイレがあるらしい。でも、歩いても歩いても、なかなかトイレには着かない。廊下がずっと伸びているような感覚。それに気がついた途端、排泄欲は別に感じないから、トイレへ行く必要はないと思って、道を引き返すことにした。
でも、来た道がまた不自然に、戻れなくなっている気がした。この前みたいに、足音がコツコツとなるが、前みたいに響かず、廊下の壁に吸収される。
廊下が伸びないように、走って行ったら、なぜか入り口に戻ってくることができた。
しかし、コテージの外は急に夕方になっていた。どういうことだろう。何時間も何時間も廊下を彷徨った記憶はないし、時間が飛ぶなんてことはあり得ない。何もかも分からない。とりあえず坂を降りて、家へ帰ろう。
ドアを開け、一歩踏み出したところに、足場は無かった。なぜ気が付けなかったのだろう。そのまま一直線に落ちていく。廊下から走って来たその体は、もう、もがこうともせず、自由落下していく。まだ落ちることができている。地面に着いた時、どうなってしまうのか分からなかった。そもそも、今自分がいるこの空間は何なのだろう。
落ちて、落ちて、落ちていったところで目が覚めた。あと少しで地面だった。
部屋が変だ。いつになく眩しい。窓が無いのにここまで眩しいのは、きっと白い壁、白い床のせいだ。しかも、なぜかベッドではなく、真っ白なソファの上で寝ていた。おかしい。さっき僕は布団に入った。しかも、こんな真っ白ではない。多少は黄ばんでいた。
これもまた夢なのか。もう既に二回目覚めているはず。
ここで目が覚めた。いつもの部屋だった。やっと目を覚ますことが出来た。僕は布団から立ち上がり、無重力空間のなかでふわりと浮かび、リビングに向かった。