Cage. #9【追っ手】

橘香、早足で歩いてくる。
走って来て追いついて呼び止める立花。

立花「キッカ待って!」

橘香「咲ちゃんありがとう。あとはあたし一人で平気だから」

立花「え?」

橘香「お店の準備とかあるでしょ? 昨日休ませちゃってゴメンね」

立花「いーのよそんな事、それよりどこに行くつもり?」

橘香「将棋会館。他の二人の連絡先を聞きに行ってくる」

立花「あんた今休み中でしょ? 捜査なんかしていいの?」

橘香「これは捜査じゃなくて調査。個人的な調べ物だから」

立花「さっきはいきなり刑事ですって名乗ったクセに…」

橘香「えーと! じゃ行ってくる!」

振り返って行こうとする橘香の腕を掴んで止める立花。

橘香「わっ! ちょっと咲ちゃん痛い!」

立花「キッカ戻って…」

橘香「え? 何?」

立花、真剣な顔で橘香の肩越しに鋭い視線を飛ばしている。
振り返る橘香。その先から里見と松原が現われる。

橘香「あ! あいつらあの時の!」

立花「逃げるのよキッカ」

立花、橘香を引っ張って自分の後ろに押し遣る。

橘香「え? どうして?」

立花「いいから早く」

橘香「待って咲ちゃん! あたしあいつらに聞きたいことが…うわっ!?」

立花、橘香の腕を掴んで駆け出す。
あとを追いかける松原と里見。

フルボリュームのBGMでチェイスシーン
橘香・立花・里見・松原、2,3回程度のニアミス

立花と橘香、寂れた路地に息を切らして走ってくる。

橘香「咲ちゃん待って!」

立花「キッカ?」

橘香「もうダメ! 走れない、無理」

立花「…上着脱いで」

橘香「え?」

立花「早く!」

橘香、上着を脱ぐ。
立花、それを奪い、自分の服のポケットからアトマイザーを出し、橘香に吹き付ける。

橘香「キャッ! ちょっと何なの咲ちゃん? …これ香水?」

立花「よし…キッカ、将棋センターに戻って。ぬしさまに匿ってもらいなさい」

橘香「ねえ、咲ちゃん何か隠してる? あいつら誰なの?」

立花「…ごめんキッカ。理由は後で話すから。ここの裏路地を抜けて戻るのよ。急いで!」

立花、橘香の肩を掴んで路地裏の方を向かせて押し遣る。
橘香、振り返りつつも、うなづく立花を見て意を決し、走り去る。
それを見送ってから、橘香の上着を着ようとするが小さくて着れず、片袖通したまま橘香と逆方向へ走り去る立花。

*チェイスシーン
里見・松原走って来て里見が匂いを確認、立花の逃げた方へ向かう
歩いている間宮を橘香が追い抜く
立花走り抜ける
松原が里見に指示し、二手に分かれる
橘香、道に迷った様子で路地を彷徨う
立花、里見と鉢合わせ、戻ろうとするが逆方向からは松原が現れて挟まれ、立ち往生する

里見「あれ?」

里見、匂いを確認しながら立花に近寄り、橘香の上着に気づく。
立花振り払って距離を取る。
振り払われた里見、松原の側へ。

里見「あ! てめえ小細工しやがったな?」

松原「女はどうした?」

立花「さあね」

里見「邪魔するな」

立花「こっちのセリフだ」

松原「何もしない。話を聴くだけだ。ウチの担当と接触してる可能性がある」

立花「だったら俺を通せよ。あの子は俺の担当だぞ?」

里見「お前が信用出来ねぇから直接来てんだろうが!」

立花「なに?」

松原「やめろ里見! …すまん、疑ってるわけじゃないがアンタはヤツの身内だ。万が一って事もある」

立花「…話を聴くだけ? 何をどうやって訊くつもりだ? 頭ノックしてもしも~し入ってますか~とかやる気じゃないだろうな?」

里見「おお、いいなそれ、手っ取り早い。お前の任務も白黒はっきりついて一石二鳥じゃねえか。お前まだ言ってないんだろ? あの子が本当は」

立花「うるさい!」

立花、里見の胸ぐらをつかもうとする。
振り払う里見。サングラスを外す。

里見「そっちがその気なら少しだけ遊んでやってもいいぞ。ただし…」

里見、腕を真上にあげて指を1本立てる。

里見「1ラウンドじゃねえ、1分だ!」

松原、里見の頭を叩く。

松原「アニ●ックス見過ぎだバカ… しかしコイツの言う通りだ。アンタが悠長にタイミングを測ってる間に事は起こってしまった。俺たちには手段を選んでる余裕がない。無理にでも彼女と話をさせてもらう。たとえアンタの段取りが無駄になるとしてもな」

立花「彼女は何も知らない」

松原「それは俺たちが判断する」

立花「行かせないと言ったら?」

松原「容赦はしない」

場の緊張が高まる。
立花、溜息とともに肩を落とす。
松原と里見も少し緊張を解き、立花の様子を窺う。

里見「観念したか?」

立花、腕を振り上げ人差し指を立てる。
少し構える松原と里見。
ゆっくりと腕を前におろし、二人の後方を指差す立花。
思わず振り返る二人。
その隙にダッシュで逃げる立花。

里見「あっ! 騙したなあのタヌキ… いやキツネ野郎!」

松原「くそっ! また鬼ごっこかよもう!」 

二人、走り去る。

転換

§

Cage. #10 【橘香、堕ちる】へ続く



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