Cage. #6【シェ・シャ・ソバージュ】

深夜。裏路地のバー「シェ・シャ・ソバージュ」。
薄暗い店内にいるのは里見と鈴

里見「要するにどんなに姿形をかえようとも、俺の鼻は誤魔化せないってことだ」

鈴「そんな事言ったって取り逃がしてんじゃんよ」

里見「 逃がしてねえって! アレはアレでいいんだよ。あそこに…警察に置いといた方が安全だし手間かかんねえし」

鈴「 ふーん、そーんな指令だったっけ?」

里見「 まあもちろん、やろうと思えばあそこで無理やりさらってくる事もできたけどな」

鈴「 ふーん、でーも逃げてきたんだ。シッポまいて」

里見「 逃げてねえっつの!」

???「逃ぃげてぇ、きたのか~?」

鈴「 わっ!」

里見「 は! 伯爵? 起きてたのか?」

???「ぶるるるああああああ!」

突然、奥の暗がりから唸り声がする。

???「サトミィ~遠吠えだけは一人前みてぇだなぁ? このワン公が」

里見「 いやっ! それほどでもっ!」

鈴、そっと逃げようとしている。

???「り~んちゃ~ん!」

鈴「 うぎぃっ!」

???「今日もまた一段とか~わいいねぇ私の子猫ちゃ~んいててててて!」

奥から桑名の耳を引っ張って連れてくる松原。

里見「 あっ! てめ! クワナ!」

桑名「 似てたっしょ? 騙されたアタタタ! イタイってバラくん! 何だよちょっとした冗談じゃない」

鈴「やっていい冗談と悪い冗談があんだよっ!」

松原「 鈴」

松原、顎で店の奥の方を指す。
鈴、片手を顔の高さまで挙げて指をカギ状にして見せうなずき、桑名の耳を引っ張って奥へ連れて行く。

桑名「ちょっ! 鈴ちゃんまでなに? 耳引っぱるの流行ってんの? これ元ネタサザエさん? でも伯爵はカツオじゃなくてアナゴさんああーーーっ!」

袖奥から、刀で斬ったかのように激しく引っ掻く音。
桑名の悲鳴。

松原「……はーーー」

里見「 おいマツバラ、どうだった?」

松原「 一応報告だけはしといた」

里見「 おやっさんは何て?」

松原「わかったお疲れさんって」

里見「 それだけか?」

松原「 会議中だったからな」

里見「 で、どうする?」

松原「 どうもこうもない捕まえるんだよ。中止命令なんて出てないぞ」

里見「 でもアイツ抜け殻だったぜ?」

松原「 あれはもうダメだろう。しかし接触した人間がいるはずだ。そいつを探せ」

里見「 探せって簡単に言うけどなお前、手がかりは——」

松原「 アイザワキツカ」

里見「 ? アイザワ…ああー! でもあっちは別の担当が——」

松原「グダグダうるさいんだよ、ホラ行くぞサトミ!」

里見「 ええ? 今からかよ!」

松原「 言っただろ? やつは弱ってる。昼間はナリを潜めてるだろうから動くとすれば夜中だ。何のためにこんな目立たない格好してると思ってんだよ」

里見「 そう言ってて昨日、真昼間に現れたじゃねえか。めちゃくちゃ目立ってたぞ? すれ違った女子高生達に『何あれ?』『今時マトリックス?』『いやMIBでしょ?』とかこそこそ言われるし——」

松原「そう。昼間でもただのコスプレと思わせる事が可能!」

里見「可能! …じゃねぇよ! それにお前、ガルーに情報教えてもらうなんてよ。俺が一番借りを作りたくないヤツに…」

松原「倉橋に横取りされるよりマシだろうが。いいからさっさと来い!」

松原、里見を押し出すように連れて行く。
ドアの開く音と併せて、からんころんという鈴の音がする。

明かりが変わり、次の場面とクロス転換

§

Cage. #7 【秋葉原将棋センター】へ続く


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