ヒッピー・コミューンでの暮らし
現代にヒッピー・コミューンがあるなんて知らなかった。そもそもヒッピーって絶滅したんじゃないかと思っていた。
そんな僕は最近ヒッピー・コミューンで生活している。まあ、コミューンといっても私有財産はあるし、変な思想があるわけではない。ヒッピーの愉快な大人たちが暮らしているだけだ。違法薬物だってない。
私は、普段研究室で論文を書いているだけの、ただの学部生である。偉くて髭の長い昔のおじさんが書いた立派だとされている本を読んで、わかったんだかわかっていないんだかわからないような気持ちになりながら、それでも必死にわかったふりをして論文を書いている。その延長線上の調査として、この土地に来た。
ここでは、ヒッピーたちが暮らしている。正確には昔ヒッピーだった人とか、今でもゴリゴリのヒッピーとか、ヒッピーっぽくは見えないけど、めちゃくちゃ内面はヒッピーな人とか、全然ヒッピー関係ない人もいる。
そこで農業のお手伝いやら建築のお手伝いやらをしている。農業は当然の如く自然農で、農薬なんぞ絶対に使わない。僕個人としては農薬に恨みはないし、なんなら飢饉や疫病を超克するために現代農業が獲得した武器だと思っているが、まあそれは一旦置いとこう。肥料も買ってくるわけではなく、雑草や落ち葉、コンポストを堆肥化させることで使っている。畑の状態はよく(まあ、畑の良し悪しがわかるほど農業知らないけど)、いい匂いがする。
研究室で本を読んでいるだけの人間が唐突に外に出ると、何が起こるか。まず、全然体が動かない。幼い頃の記憶では自分は活発でよく働けたような記憶があるのだが、やっぱり屋内にこもっている期間が長いと、体は錆びる。重い荷物を運んだり、畑作業をしたりしていると本当にしんどい。だけど、例えば雑草ばかりの土地を1から草刈りして、その後に畝を作って種を蒔き、そこから新芽がぴょこっと出てきたりすると、本当に嬉しいものである。普段の生活では、努力が簡単には実らない。能力が上がってるかどうかもわからない。本を読んでもどれだけ理解しているか客観的にはわからないし、論文を書いていても全てが見当違いな可能性だってある。
それに比べて畑は、草を刈れば、草がなくなった土地を見ることができるし、種を植えればそれが芽吹くところも、もっと長期滞在したら、実際に収穫することもできる。最初は草刈機なんて使い方全くわからなかったが、今ではスイスイ草を刈ることができる。自分の能力が日々向上しているのがわかるのが本当に楽しい。
残りの調査期間も、楽しく暮らしたいものである。