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親戚も家族も人付き合い

「死後離婚」という言葉を先日聞く機会があった。「死後」と「離婚」という二つのワードが組み合わさった強烈な言葉で、最初聞いたときはびっくりしたのを覚えてる。

実際には法律用語ではなく、メディアが作った造語であることを後で知る。「離婚」は婚姻関係にいる人同士が別れるものとして使われているが、「死後」と付いているように、夫婦のどちらかが亡くなったのちに行う行為のことだ。

ただ、「離婚」は本来は夫婦の双方が合意しなければできず、すでに亡くなった人が離婚を合意することはできない。また、配偶者が亡くなった時点で婚姻関係は終了しているので、「死後離婚」という言葉は意味としても行為としても合っていない。

ではここで指す「死後離婚」の意味はなにかというと、配偶者が亡くなったあと、結婚によって発生した義理の両親や義理の兄弟との姻族関係を断つことだと言われている。一般的に、「結婚」によって生じるものとして義理の両親や兄弟との親戚付き合いをすることがあるが、配偶者の死別をきっかけにそれらの関係性を断ち切ることで、「離婚」によって関係性を断ち切ることと同じようなものとして使ってるのだろう。

具体的には、役所で「姻族関係終了届」という書類を出すことで「死後離婚」ができる。ただ、こうした手続きをしなくても、法律上、基本的には配偶者は義理の両親から相続を受ける権利はなければ扶養の義務もない。

そもそもが、戸籍と血族を軸に家族を考えているなかにおいて、親夫婦の子どもである夫だけでなく、その夫と結婚し同一戸籍に入った妻は法定相続人としての権利がないため遺産が渡らない、もしくは遺言で贈与しなければ何も財産が渡らない。もちろん、逆のパターンで、妻側の両親の遺産を夫はもらえないし、妻姓になった夫であっても、妻側の両親の遺産は渡らない。

ただ、日本ではこうした親戚付き合いを円滑にすることが「結婚」によって生じる出来事であり、また、かつての家制度によって妻が夫側の義理の両親の介護や世話をすることが自明なものとして広がっていたことの名残があるといえる。

ここで注意したいのが、姻族関係終了届を出したからといって、自動的に配偶者と戸籍が別々になるわけではないということ。もし、夫の戸籍から外れたいのならば、復氏届の提出を、本籍地または住居地の市区町村へする必要がある。そうすれば旧姓に戻ることができるという。

ただし、復氏届で旧姓に戻ることができるのは、あくまでも本人だけ。配偶者との間に子供がいる場合、子どもはそのまま配偶者の戸籍に残ることになる。子供を自分の戸籍に入れる場合には、家庭裁判所に子の氏の変更許可申立書を提出して許可をもらい、さらに子供の戸籍を自分の戸籍に入れる入籍届をするというちょっと面倒な手続きが必要になってくる。

いまや、離婚が3割を超えると言われている時代、また、これまで女性が男性の戸籍に入ることが当たり前だとされていた時代から変化してきている。女性も働き、一緒に子育てしたり、離婚したり再婚したりと、いろんな家族の形が生まれてきている現代。

親の介護のみならず、義理の両親の介護を誰がするのか。かつて、自明にされていたものが変化してきてるなか、介護を受ける側も、迷惑をかけたくない、という思いから、自ら高齢者施設に入ったり、時には関係性の不仲による孤独死が増加している。

たとえ配偶者の両親、親からしたら自分の子供のパートナーも、すべては人であり、人と人がどのようにわかりあったり、つながったりするか。親子であっても、相手のことを嫌いになったり関わりたくなくなったりすることもある。家族だから、嫁さんは親の介護をするべきだ、という暗黙のコミュニケーションをするのではなく、日々、付き合いを保ち続けるためにするべきことがある。

「家族」の形は、夫婦のみならず、こうした親戚付き合いも含めたものも踏まえて、どのようにあるべきか、ありたいと思うのかを常に考え、対話を重ねていくしか方法はないのだろう。

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江口晋太朗 | SHINTARO Eguchi
今後の執筆活動や取材、リサーチ活動として使わせていただきます。