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なぜ、いま「地方創生」と「地域金融」の本をだすのか

前回のnoteでご紹介した新著『実践から学ぶ地方創生と地域金融』、お盆前に無事校了し、9月9日から書店に並ぶ予定です。

前回のブログやSNSでの投稿がきっかけか、Amazonでも地方行政カテゴリーで一瞬3位にまでランキングが上りました。ニッチなテーマながら、コロナ禍においてますます都市部以外の地方のあり方を模索するなか、「地方創生」というテーマに「地域金融」という、これまであまり語られてこなかった金融的側面からの地域活性の取り組みをまとめた内容に、期待や関心を向けている人が多いのだと思います。

これまでのまちづくりや地域活性などをテーマにした本は、とかく、民間企業側の視点や、行政側の視点による観点が多い印象があります。しかし、具体的な事業や地場産業を生み出すために必要なものとして「資本」があります。ここでいう資本は実は様々なものありますが、その中でも「お金」は大きな要素です。とにもかくにもお金がなければ事業を生み出すのが難しかったり、建物を建てたり改修したり、商品やサービスを成長させたり発展させたりするための準備や研究に費やすことは難しいのは理解するところかと思います。

そうしたお金を借りる場所として、「金融機関」という存在があります。彼らも、地域との共存や地域の発展なくして、金融機関を成長させ、発展させるには、地域経済が活性化することが必須です。「金融機関」と一言でいっても、いわゆるメガバンクではなく、地銀や信用金庫といったものが、本書のメインとなります。地銀や信用金庫、信用組合は、地域と密着しながら寄り添っていく「地域金融機関」という存在です。その地域金融機関だからこそできること、地域金融機関だからこそすべきことを見つめ直し、地方創生におけるキープレイヤーとして、地域金融機関が持つ様々なノウハウやネットワーク、経験を活かすことがますます重要になってくる、ということが本書の大きな軸となります。

具体的にどのような内容なのか、本書の「はじめに」で、共著者である山口さんより、本書の狙いや目的についた書いた箇所を引用したいと思います。

本書は、地域金融機関が企業や行政と連携して取り組んだ地方創生の実践事例を紹介・解説するものである。読者として想定しているのは、地方創生のための事業を支援していこうと考える地域金融機関や、地域が抱える課題解決に向けた事業を新たに展開しようとしている企業、そしてそれを支える行政のそれぞれに携わる方々である。

地域金融機関は、長期的な収益減少の途上にある。関係者の多くが「このままでは、将来生き残れない」と心配している。この問題の本質は、多くの地域金融機関が「昔と同じことをそのまま続けている」ことであり、「新しい価値を提供できていない」ことにある。

本書が取り上げた事例の多くは、従来の金融サービスの枠を超えた地域金融機関の「挑戦」である。「挑戦」は、金融機関にとって不得意なことの1つだ。なぜなら、金融機関の経営において最も大切なのは信用であり、それは「安心・安全」がベースとなるからである。本書で取り上げた事例には、一定の成果がみてとれるものがある一方で、なお途上のものもある。あるいは、もしかしたら将来的には「失敗」するものもあるかもしれない。しかし、根本的な「安心・安全」を脅かさない範囲で、「失敗」を許容する新たな挑戦を試みない限り、地域金融機関に未来はない。

金融機関が関わる地域活性化の実践例を調べていくと、金融機関が活用している機能は、「資金」よりもむしろ「ネットワーク」だった。地域金融機関は、地域に根差す多くの主体を取引先に持っている。また、常日頃から事業者がどれくらいの事業能力を持っているかについて、見極めようとしている。金融機関であるならば、新たに地域事業を行う際、足りないリソースがあったとしても、それを埋めるための候補先を見つけ出すことができる。つまり地域金融機関は、地方創生事業のコーディネーターに適した能力を持っているのだ。

しかし最大の問題は、金融機関自身が、自分たちの持つその能力に、本当の意味で気づいていないことである。ほとんどの金融機関において、連携支援サービスを組織全体に展開する体制は整っていない。多くの金融機関においては、今なお「融資の依頼に対して審査して貸す」という従来型の金融サービスが主役であり、ネットワークを活用した新たなサービスは補助的な位置づけとなっている。このため、地域プロジェクトを支援する取り組みの多くは、課題解決の思いを持った一部の“熱い金融マン”の働きに負っているのが現状である。

企業や行政が新たな地域プロジェクトを推進しようとするとき、従来、金融機関に期待するものは資金“だけ”だった。しかし、本書を読んでもらえば、資金の相談のみではなく、金融機関が持っているネットワークこそ活用すべきことが理解できると思う。もちろん、金融機関の多くがまだそうした連携支援のサービスを組織的には展開できていなかったり、金融マンの多くが先例のない新たな取り組みに慎重であったりするなど、課題は少なくない。
しかし、日本には、100先以上の地域銀行、250先以上の信用金庫、150先近くの信用組合がある。これに加えて、公的金融機関が全国に展開している。地域で相談できる金融機関は、1つではない。さらに、本書に登場するような、従来の業務の枠を超え、地域経済の閉塞感を打ち破ろうとする金融マンも、少しずつ増えている。新たな事業に情熱を持った企業や行政の方々が、本書の事例を参考に、相談できる意欲的な金融機関や金融マンを探し続ければ、めぐり合うことはできるはずである。

今後は、脱・従来型の地域金融機関が企業や行政と連携することが、地域に持続可能な経済循環を生み出していくための標準モデルとなるだろう。将来、このモデルに関し、数多くのケーススタディ書が出版され、本書がそのうちの「最初の1冊」であったと振り返られる時代が来ることを期待している。

金融機関にとっても、人口減少や高齢化といった地域課題に直面するなかで、これまでと同じような業務をこなすだけでは将来生き残れないという課題があります。そのなかで、金融機関自身も「変わらなければ」という思いが高まってきているなか、様々な苦労や試行錯誤のなかで取り組んできた地域金融機関の取り組みが、少しずつ形になってきつつあります。

本書で取り上げている事例は、そうした地域金融機関と地域におけるこれまでの試行錯誤のなかから生まれたものの一部でしかありません。ここにあげたものだけでなく、各地において様々な取り組みが今この瞬間も生まれていることでしょう。

私が「おわりに」でも書いていますが、「本書を単なる成功事例集として捉えるのではなく、紹介されている地域プロジェクトの事業体制や遂行スキームの背景にある考えや構造、行政の政策や地域ビジョン、そしてそこに関わるステークホルダーの役割や関わり方をじっくりと理解した上で、自らが関わる地域において、その地に固有の資源を利活用しながら、独自の活動を生み出してゆくための構想の源泉として活用してもらいたい」と考えています。

金融機関は、金融機関という組織全体の調和や統制が重要な組織です。それがゆえに、企業や行政よりも、組織全体の一体感が求められるため、なかなか個人ベースでの熱意や活動によって大きく組織を変えていく、ということが難しいものかもしれません。

しかし、いまや組織全体が大きく変わろうとしている、もっといえば、地域の課題が逼迫しているなかにおいては、従来から脱却した、新しい地域金融改革が必要とされています。そうしたなかにおいて、地域の課題や地域の未来に向けた歩みを、より一緒に踏み出していくプレイヤーとして、企業の人も、行政の人も、地域金融機関のことをもっとより深く知ることが重要です。

同時に、金融という立場だからこそできるダイナミックな支援や、金融的支援のみならず、非金融的支援にこそ、金融機関が持つ本質的な支援の形があるのではないか、と、本書を作り上げていくなかで感じるものがありました。

今という時代だからこそ、地方創生というテーマが、ただのテーマにおわることなく、本質的な地域の未来を築き上げるための、地域経済開発を行う役目として、地域金融機関の存在は今後ますます重要になってくるものだと、本書を読めばそう理解してもらえるはずではないでしょうか。

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9月9日発売です。よければ、ぜ、Amazonにてご予約をお願いします。

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