出版のきっかけ、年齢や問題意識の違う二人が書き上げたもの
新著の『実践から学ぶ地方創生と地域金融』は共著での出版なのですが、その共著相手の山口さんについて、あまり触れてこなかったかな、と思うので、今回は山口さんについて簡単に私からご紹介しつつ、なぜ、この二人で本を出すきっかけになったのか、について書いてみたいと思います。
そもそも、山口さんとは以前からの知り合いだったわけではなく、今回の本を出版するにあたり、版元である学芸出版社の担当編集である松本さんからおつなぎいただきました。
一般的に、共著者とは以前からの知り合いだったり、なにかしらの研究会や学会などでご一緒したことがある人らと書いたりすることが多いです。なので、過去に直接関わりのなかった人と一緒に書くということはかなり珍しいパターンといえます。
ではなぜ、このような共著として出せるに至ったのか。実は、山口さんは私の名前を知っていたとのこと。それは、後でもまとめますが、地域活性の取り組みと地域金融機関におけるこれから、という問題について、私が関わるようになり、そこで作成したレポートを山口さんがご覧になったそうです。そして、それは山口さんが以前働かれていた職場での活動と、私のこれまでの活動が良い意味でリンクしてきたことで、今回の本が実現したものでした。
日銀時代の山口さんの問題意識
銀行の銀行と言われる日銀に勤めていた山口さんは、高度化金融セミナーというセミナーを日銀で主催していました。高度化金融セミナーとは、各種金融機関が取り組んでいる施策や活動を円滑に金融機関同士で共有するため、金融機関の方向けに金融に関する新事業の知識やノウハウを共有するものです。そのなかで、山口さんが特に注力していたのが、地域プロジェクトや地域支援に関するセミナーでした。
これまでのセミナーでは、比較的個別事例や特定の事例についての研究を多かったそうなのですが、そうではなく、より、広範囲な、地域一帯を面として捉え、地域の地場産業や地域資源を活用しながら、地域経済開発のためのセミナーを主催していました。そこには、前回のnoteでも触れたように、特に地域金融機関が現在直面している地域課題に対して、個別事例や個別対応ではなく、より広い範囲やこれまでとは違った角度から、金融機関が地域と向き合っていかなくてはいけない、という課題感もありました。そうしたなかで、高度化金融セミナーでも、こうした地域プロジェクトに関するセミナーを主催することが多くなったそうで、本書でも出てくる事例もセミナー内で紹介され、議論や研究が行われていました。
山口さんは、その後、日銀を退職し金融経営研究所を設立、地域金融機関を中心としたコンサルティングや、熱い金融マン協会という金融マンを集めた研究会のようなコミュニティを作りながら、金融マン個人におけるノウハウや知識、経験の共有の場を提供しながら、金融機関全体の変革に取り組んでいます。
シビックエコノミーと信用組合の新しい関係を考える研究会の発足
一方、私は、2016年に出版された『日本のシビックエコノミー』の執筆者のとして参加していました。地域の持続可能なあり方や地域コミュニティの新たな形を考える事例をまとめた本を出させてもらいました。この本を、経営コンサルタントの玉井さんがご覧いただき、玉井さんが本書にも出てくる第一勧業信用組合の当時理事長であった新田さんにご紹介いただきました。
『日本のシビックエコノミー』では、主に事業者や地域住民の主体的な動きから、地域資源の活用や地域経済をつくり出すためのこれまでの過程、事業やプロジェクトを立ち上げてくるなかで見えてきたポイントなどをまとめた内容です。
まさに、地域金融機関が地域課題や課題解決のためにどのような活動ができるかを考えている時期、第一勧業信用組合の新田さんがいたくこの本を評価いただき、そこから、第一勧業信用組合さん主催のもと、地域の事業者が抱える問題や、地域資源や地域の地場産業の活性や開発に取り組んでいる事業者らとの対話の場を設けながら、信用組合としてこれからどのように地域と向き合っていくかを考えよう、といった研究会を2017年に立ち上げることとなりました。メンバーは、第一勧業信用組合さんとつながりのある糸魚川信用組合、あかぎ信用組合の方々などの信用組合の方々、他にも全国信用協同組合連合会や金融庁の方々など、地域プロジェクトや地域経済の開発に関心のある中央機関の方々を中心に開催しました。
研究会では、私からシビックエコノミーという考え方や現在の地域が置かれている状況やこうした課題に対してどのようなアプローチから事業者らが取り組んでいるかといった概論をご説明したり、時にはゲストをお呼びした回もありながら、活発な議論を重ねてきました。私自身がいままで信用組合の方々と直接お話する機会が無かったため、この研究会を通じて、金融機関、特に信用組合という地域金融機関の理事長クラスの方々とお話させていただき、改めて、地域金融機関という存在が果たすべき役割や、地域金融機関という存在だからこそアプローチできること、地域課題や事業者の悩みに対して、金融的支援から、非金融的な支援も含めた、トータルでの支援の考えを持って日々過ごしていることを理解することができました。
研究会で議論した内容などをもとに、報告書を作成し、これからの信用組合としての地域との関係性について改めて考える機会となりました。そして、この報告書を、日銀にいらっしゃった山口さんがご覧になったことから、私のことを知っていただいた、という経緯がありました。
そして、地域経済というあり方に対しては、地域金融機関はもっと地域に寄り添い、向き合いながら、そして、地域金融機関としてもこれまでとは違ったアプローチや方法で地域課題を解決するような支援のあり方があるし、それによって、地域の持続性や地域活性に寄与していくものだと強く考えるようになりました。
本書の出版のきっかけ
山口さんと私のそれぞれが、それぞれの観点や問題意識のなかで、地域課題と地域金融機関のあり方を考えるようになりました。そして、本書の出版を後押ししたきっかけを作った一人に、但馬信用金庫の宮垣さんという人物がいました。
実は、宮垣さんは、学芸出版社が以前出版した『強い地元企業をつくる』という本にコラムを寄稿した経験があります。この本は、兵庫県にあるデザイン事務所が、事業承継をした地元企業のリブランディングやブランド戦略を行うなかで見えてきた、事業承継や地元企業のこれからのあり方についてまとめた本です。そして、その中に出てくる事例の一部に、但馬信用金庫の取引先の企業が取り上げられていたこともあって、地元企業と地域金融機関の関係性やこれから、といった内容を書かれていました。
この『強い地元企業をつくる』の編集に関わっていた松本さん自身が、地元企業や地域経済と地域金融機関の関係をこのとき強く知り、そこから、なにか、こういったテーマで本が出せないか、という考えに至りました。そんなことを宮垣さんに松本さんが相談したところ、「日銀にいる山口さんという方が適任ではないか」ということから、山口さんを紹介されたそうです。
ちょうど同じタイミングで、私は以前から松本さんと親交があり、書籍に関する意見交換を定期的にする間柄でした。そのとき、先のシビックエコノミーと信用組合の新しい関係に関する研究会について紹介し、「シビックエコノミーと地域金融機関のこれから、みたいなテーマで深掘りしたものが書きたいですね」とふと相談したみたところ、「ちょうど、同じようなテーマで、日銀にいる山口さんという方がいて、今度お会いするんですよ」という話に。そこから、松本さんが宮垣さん紹介のもとに山口さんのところを訪れ、山口さん、私、それぞれの課題意識や、松本さん自身の関心なども相まって、そこからトントン拍子で話が進み、互いに本を出していこう、ということになったのです。
年代もバックボーンも違う二人で仕上げた本
とはいえ、年代も互いのバックボーンも違うなかで、いざ、取材先の選定や取材した内容を記事にしたり、本書の構成を互いに意見しながら作るには、思った以上に時間がかかったのは事実です。それぞれの関心や注視する部分が違うなか、どのようにして、本としての統一感や情報量、テーマに関わる事象の網羅性や伝えたい内容を入れ込むか、ということに時間を割いてきました。
私や松本さんと二回りも年齢が違うなか、柔軟に話を聞いていただいたり、互いに良い意味で同じ目線で議論しながら本を仕上げていった過程そのものが、私自身も金融についてますます理解を深める経験となったことは間違いありません。山口さんに対して、感謝しきれません。
また、こうした本を出すきっかけとなったのも、人のご縁の積み重ねによって出来たモノだと感じます。ご縁が次なるご縁をよび、そこから新しい挑戦や活動につながっていく。人と人とのつながりによる大切さこそ、地域コミュニティもそうですし、こうした様々な面において、つながりの重要さを実感します。
そうした苦労や過程を踏まえて無事完成した『実践から学ぶ地方創生と地域金融』です。ぜひ、ご覧いただけるとうれしいです。
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