『波間』稽古場レポートvol.1
2023.11.1『波間』の稽古場に参加した。
京都芸術センターでの稽古開始から今日で3日目、これまでは過去の作品を読み合わせたり、アソシエイトアーティストとしてのテーマ「ここは彼方(Here is Beyond) 」について理解を深めていたようで、戯曲は現在鋭意執筆中というのもあり、今日はフランツ・カフカ『変身』の冒頭を声に出して読んでみることからスタートした。
「ある朝、グレゴール・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した。」という有名なフレーズから始まるこの小説は、チェコ出身の作家フランツ・カフカの代表的な不条理小説である。
演出・劇作を担当する穴迫はこの「気がかりな夢」に注目し、今回の創作に活かしたいと思っているようだ。「夢」はそれ自体が朧げで実態としてはっきりしないものであるから、テーマであるフィクションとの親和性も高い。今日の稽古では作中では描かれないザムザが見た夢について仮説を立てて、それを身体からシーンとして立ち上げることを試みていた。
穴迫が選曲したザムザの夢を想起させる曲たちのプレイリストが順番に流れる中、俳優たちは与えられた情報をもとに、ベットから目覚め、自分が存在する場所を知覚しそして夢の中を漂っていく。彼らがこの状況を夢として認知しているのかどうかは定かではないが、その過程でそれぞれの目的を持ち、ある者はカフカの『変身』を想起させ、またある者は他者と出会い、関係を持ち、また眠りにつく。
また、シーンの合間に話していたそれぞれの「よく見る夢の話」がとても印象的だった。重実さんがよく見る「何者かに刺される夢」はちょっと聞いているだけでドキドキしたし、それは即興のシーンにも現れていた。あとは俳優あるあるとして「セリフを覚えていないのに本番が始まる夢」を話した時に今村さんが言った「何も覚えていないのに滞りなく舞台が終わってしまった夢」も面白かった。今村さんは即興では「悪夢とはどういうものか」について考えて臨んだと言っていた。出来ていないのに本番が始まる夢は俳優にとって定番の悪夢だが、状況として上手くいっていることに自分の身体や理解が追いついていない方がより悪夢だなと思った。
それぞれが夢に対してどういう印象を持っているか、夢の中でどういう状態であるのが多いか、も違いがあって楽しかった。例えば筒井さんは「夢の中で起きるイレギュラーな状況を自然に受け入れてしまったり、何かしなければいけない強迫観念に駆られていたりすることが多い」と話していた。夢を夢であると自覚している状態はどういうものなのか、そしてその瞬間はどこかポイントとして、何かをきっかけとしてやってくるというより、唐突にふとした瞬間に訪れるのではないだろうか。夢自体が曖昧なものであるために、俳優それぞれの印象が即興に表れていてとても面白かった。
稽古はまだ始まったばかりなので稽古をどう進めていくかについての話も多かった。こまめにコミュニケーションを取りながら、フィクション自体にどう向き合っていくかを一つずつ探っていく。まだテキストはないが、今日の稽古の即興のような、身体と音楽を軸として立ち上げていく創作は、昨年の『Doudemo ii shi』でも取り入れられていて、3年間のアソシエイトアーティスト公演としての、京都でのブルーエゴナクの特色になるように思った。
本公演は北九州公演もございます。
お時間よろしければ是非ご来場ください。
次回の稽古場レポートもお楽しみに!