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キュンとする恋物語③テオドール・シュトルム『大学時代』


ドイツの作家テオドール・シュトルムは短編が多く、題材もとっつきやすいため、ちょうど第二外語にフランス語を取る人がドーデを読まされるように、ドイツ語を取る人はシュトルムを読まされるらしい。

シュトルムと言えばどちらかというと『みずうみ』のほうが有名で、あれも純愛小説なのだが、私は個人的に『大学時代』のほうが格段に好きだ。なぜなら…ドラマチックだから。美しく静かな物語が好きな人は『みずうみ』を好むであろうが、抑揚のあるストーリーを好むのなら『大学時代』をお勧めする。

あらすじ

市役所で若者向けのダンスの講習会が行われることになったが、男子に対して女子の数がどうしても一人足りない。フィリップは市長の息子のフリッツと共に仕立て屋の娘、レノーレ・ボオルガール(ローレ)を誘った。
フィリップはローレとペアを組み、先生から上手いと褒められる。しかし育ちが違うためローレは他の女子達から仲間外れにされていた。

講習会が終わった後でもフィルップはローレが気になり、何かと口実を作って近づくが、邪険に扱われる。ローレにはクリストフという親が決めた指物師の婚約者がいた。フィリップとクリストフは小さい頃仲が良かったが、フィリップがラテン語学校に入ってからは疎遠になっていた。ローレのことで喧嘩したことがきっかけで、友情が少し戻る。

その後、フィリップはギムナジウムに進み、ローレは両親を亡くし叔母のところでお針子として働く。フィリップが地元の大学に通うために街に戻って来た時、クリストフは遠い所へ修行に行き、ローレは街の札付き学生、ラウ伯爵に気に入られ退廃的な暮らしを送っていた。心配になったフィリップはローレに近づきなんとか元のようにさせようとしたが…。

階級の違いによる悲劇

主人公のフィリップは純粋に好きだというだけでローレを追いかける。しかしローレのほうは階級の差とそれによって自分が傷つくことがわかりきっている。それでいて時折フィリップと二人きりになる機会を作ったりもする。自分のことを慕ってる金持ちの少年と接することで、つかの間のシンデレラ気分を味わっていたのかもれない。

1つ前に書いた『ラブ・ストーリィ』では身分はないが貧富の差による障害があり、2つ前の『アルト・ハイデルベルク』ではまさに階級の差による恋の障害が発生している。本作も然り。この差こそが読み手のセンチメンタリズムをあおっている。しかしながら、市長の息子のフリッツはビュルガーマイスターとあだ名され、医者の息子のフィリップは低い身分の者からドクトル様と呼ばれる。生まれついた家の影響がいかに大きかったかを物語っている。

すれ違いによる悲劇

「きみたちラテン語学校生のダンスのけいこなんかに、ローレを引っ張りだしてくれなきゃよかったんだ!」

『大学時代』岩波文庫 p157

上のクリストフのことばにあるように、知らなければ済んだことが、知ってしまったがために不幸になることもある。ローレはダンス講習会に参加したことで金持ちのお嬢さんたちの暮らしを垣間見て楽しみも味わってしまう。しかもお嬢さんたちよりも自分のほうがダンスが上手く踊れる現実まで知ってしまう。

一方でダンスの踊れる町娘、おまけに美人のローレは大学生たちからもてはやされる。それ自体ローレだって楽しい。だからクリストフがどんなに忠告しても、なかなかやめられない。

ローレとクリストフの関係は傍から見たらそれほどラブラブという風には見えなかった。殊にローレはそっけなかった。むしろフィリップのことを好きなのでは…と、匂わす部分まであった。しかしクリストフに見捨てられたと思ったローレは、やけを起こし、それがラストの大きな悲劇へと繋がる。それが、すれ違いによるものとわかると…さらに読み手の情動を煽る。

このシリーズは一旦ここで終了させていただきます。
紹介した3つの作品はいずれも学生の頃読んでときめいたもので、大人になるとそういった感情が沸きにくくなってしまってます。やはりラブストーリーは若いうちに読むべきなのかもしれません。
まったく関係ないけど、私はこの物語を読むと何故か村下孝蔵さんの『踊り子』という歌を連想してしまいます。歌についてはまた次回。

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