はじめてのサーティワン
自分でいうのもなんですけど、僕って男らしいじゃないですか。多様性の時代に男らしいって言い回しもアレですけど他に相応な言葉が出てこないくらい僕って男らしいと思うんです。
胴長短足のガッチリ体型、スキンヘッドでヒゲ面、モサモサの胸毛、ごつごつした手に浅黒く日焼けした肌。見紛うことなく男。ふんどし締めたことないけど多分めちゃくちゃ似合うと思う。
チャラチャラした奴らを目の敵にし、ひたすら硬派一直線。矢でも鉄砲でも持って来いと言わんばかりの堂々たる仁王立ち。まるで男塾の世界から飛び出してきたようなむさ苦しいまでの益荒男ぶり。もう荒武者よ、荒武者。ラストサムライとは僕のことよ。
そんな何者にも動じない男らしさの塊みたいな僕にでも苦手なものってのはあるものでして。なんというかこう、キャピキャピしたところっていうんですかね。若い子たちがキャッキャウフフして喜んで行くような場所がダメなんですよ。
例えるならディズニーなんかその最たる例かもしれません。百歩譲って誰かと一緒に行くならいいんですけど1人では絶対行けません。ディズニー側は誰でもウェルカムなんでしょうけど。
あんなファンタジーだけで構成された世界にこんな昭和の意固地な老害みたいなオッさんを放り込んでみなさいな。どうしていいかわからずパークの隅っこで体育座りでガタガタ震えてるか発狂してミッキーを池に突き落とすかの二つにひとつ。どちらにせよ迷惑以外のなにものでもない。
テレビなんかでディズニーランドの光景が映ると多くのお客さんがミッキーの耳をえぐり取ったようなカチューシャつけて歩いてるじゃないですか。あんなのこっ恥ずかしすぎて絶対つけられない。頭にパンティーかぶるくらい恥ずかしい。いやパンティーの方が恥ずかしいか。とにかくああいうポップな雰囲気が気性に合わず居たたまれないのです。
反対に僕が住めるくらい居心地がよいのがオッサンだらけの場所。ギャンブル場、サウナ、ヤニくさい飲食店、18禁コーナー。ファンタジーさのカケラもありません。加齢臭とか歯槽膿漏みたいな匂いが漂ってる場所って不思議と和むというか、水が合うんでしょうね。
しかしですね、果たしてこのままで本当にいいのでしょうか。ぬるま湯にばかり浸かったままでは自己研鑽は出来ません。男を磨くのならむしろ苦手なことに果敢に挑戦せねばなりません。
考えても見てください。35にもなる大人がいつまでも「ディズニーこわい」だの「ポップな雰囲気こわい」だの言っていたのでは情けないったらありません。「この野菜炒めピーマン入ってる!ぼくピーマンきらい!」と駄々こねてるガキと変わりません。何事も挑戦せねば男が廃る。
そんなことを考えていた矢先、たまたまフォロワーさんがサーティワンアイスのことについて触れていた記事を読んだのです。なんか新作でゴディバとのコラボ商品が売られるようなのです。
ゴディバといえば言わずと知れた高級チョコ。昔一度だけちっこいチョコボールみたいなやつをもらって食べたことがあるのですがひっくり返るほど美味しかったことを記憶しております。あのゴディバとのコラボ商品。甘いもの好きな僕としてはこれは見逃せないじゃないですか。
しかしサーティワンか…。
サーティワンをご存知の方はお分かりでしょうけど、あそこってめちゃくちゃポップでファンシーな場所じゃないですか。パステルカラーがひしめき合った店内、舶来文字だらけのメニュー、ポップで可愛らしい店の雰囲気、いつ店の前を通っても若者がキャッキャ言って楽しそうにアイスを選んで、買ったアイスと一緒に写真撮ってインスタにあげてたりする。あそこへ行けと??
いや怖いって。こんなおじんが行っていい場所じゃないって。店の営業妨害になるって。通報されるって。
いやまぁしかしだ、アイス屋で命までは取られんでしょう。知るは一時の恥、知らぬは一生の恥。ここで引き下がるわけにはいきません。なぁに、怖い怖いと言ったとて実際やってみれば案外大したことなかったりするものだし。昔自転車でアイスキャンディー売ってたどこかのオヤジの方がよほど得体が知れなくて怖かったよ。
ということで、たまたま出先の近くにサーティワンアイスのテナントが入ってる商業施設があったので仕事帰りに寄ってみたのです。
酒々井プレミムアウトレットとかいうなんかオシャレさんだらけの施設。俺、作業服に便所サンダルで来ちゃったよ。もうすでに場違い感が半端じゃありません。しかしここまで来て引き返すわけにはいきません。「行けばわかるさ、迷わず行けよ!」心の中の猪木が僕の背中を押してくれました。そしてついに店先に到着。
ここがサーティワンアイスか…。結構賑わってるようで僕を含め数人の行列になっておりました。女子高生、女子高生、若者、若者、荒武者、若者、と世にも奇妙な行列風景。
店の前を通ったことは幾度もあれど中に入るのは初めてです。さぁどこからでもかかってこい。こちとら腹は決めてるんだ。
「ゴディバのアイスください」
その言葉を吐く寸前に飲み込んだ。
なにかがおかしい。無いのだ。店のどこを見渡してもゴディバのゴの字も見当たらない。うっかり言ってしまっていたら「は?何このオッサン?」「警察呼んで警察」「○時○分、迷惑防止条例違反で逮捕する」なんてことに。
なんたる不覚、まだ発売前でした。気ばかり急いで肝心要の発売日をすっかり忘れておりました。
い、いかん、いかんぞ。他のアイスの予備知識がない。冷静を装いつつ店の前の冷凍ケースを覗き込むもカタカナだらけのメニュー名に混乱する。ポッピングシャワー?ラブポーション?ホワイ?プリーズテルミー!
「お決まりでしたらどうぞー」
店員さんの声がけに余計に焦る僕。何味かよくわからない大量のアイスに四苦八苦しながらもとっさに見知った文字が目に入った。
「ば、バニラとチョコレートをください」
言えたよ。なんとか言えたよ。しどろもどろになりつつもなんとか言えた。かったよ、ぼく。見たろドラえもん。かったんだよ。ぼくひとりで。もう安心して帰れるだろ、ドラえもん。
てやんでぇ、なんだこんなもん。簡単なことじゃねえか。おちゃのこさいさいよと勝ち誇った顔をしていたらすかさず店員さんが
「サイズはどうされますか?」
と聞いてくるのです。サイズって何だ?SMLとか?大盛りとかメガ盛りとかあるのか?
「え?サイズ?」
と聞き返す僕に丁寧にサイズについて書かれたボードで説明してくれる店員さん。
「こちらレギュラー、もしくはスモールのダブルどちらか選べます」
「え、えっと、じゃあ、相撲のダブル?でオネシャス」
なんだよ相撲のダブルって。普段食堂とかで大盛りとか特盛りとしか言わないからスモールって単語を言い慣れてないのか。
その後は店員さんの言われるがままお会計。なんだかよくわからないままお金を払い逃げるように退散。完全に不審者です。ご迷惑をおかけしました。
そんなこんなあって手にした戦利品がこちら。
マイカーに乗り込み、フゥーとひと息。冷静になってみるとアイス2個で510円て結構高いじゃねえか。ガリガリ君何本食えると思ってんだよ。
だいたい映えだか蝿だか知らんがお前ら騙されてんじゃねえのか。サーティワンって言いたいだけじゃねえのか。バスキンロビンスって言いたいだけじゃねえのか。
こんなもん並んで高い金出してまで食うほどのもんかね。たかがアイスじゃねえか。どれも一緒だよ。そこらで売ってるアイスと変わらねえよ。サーティワンってだけでどいつもこいつもキャーキャー騒ぎやがって、集団催眠にでもかかってんじゃねえのか。
文句をブーブー垂れながらアイスを開封していきます。
ピカチュウのスプーンか、ふん、なかなか可愛いじゃねえか。
カップもポケモンじゃねえか。めちゃくちゃ可愛いじゃねえか。
まぁ、肝心なのは味よ、味。こんなもんどうせ子供騙しに決まって…
うまいじゃねえか、バカヤロウ。
え、まって、めちゃうまいぞ。何これ。
まず、バニラ。なめらかな舌触りとミルクの濃厚なコク。芳醇なバニラの香り、口いっぱいに広がる優しい甘さ。口当たりと口溶けが素晴らしい。スッと舌に溶けてじんわりと余韻を残す味わい。
そしてチョコレート。ビターな苦味が先行してくるがすぐに甘さが追いかけてくる。バニラ同様なめらかな舌触りとコク。口中にとろけるチョコレートの濃厚な美味しさ。カカオの深い香ばしい香りが鼻に抜けていく。
子供騙しとかバカにして本当にすみませんでした。ここまでレベルの高いアイスだったとは。もうサーティワンに足を向けて寝れません。こんなに美味いもんだったとは予想してませんでした。それと同時に今まで素通りしてきたことに後悔。至福のひと時となりました。ごちそうさまでした。
そういえばレシートと一緒に謎の小袋をもらったのでした。なにこれコンドーム?
開けてみたらステッカーが入っとりました。あら、かわいい。プリンちゃんじゃないですか。アイス屋でコンドームくれるわけねーだろ馬鹿。さて、どこか飾る場所はないかしら。
なんでしょう、プリンちゃんからものすごい圧を感じます。「俺のすることに口出しするんじゃねえ」とでも言ってるかのようです。気のせいでしょうか。
というわけで、サーティワンデビューをぶちかましてきました。結論としてサーティワンは美味しいということがわかりました。食わず嫌いはよくないね。ゴディバのコラボ商品は9月5日から発売開始です。数量限定のためお早めに。詳しくはサーティワンのHPからご確認ください。
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