【いつメロ No.9】深まるからこその恋
あたしには、同じクラスの彼氏がいる。
年頃にしては小柄な体つきで、男らしさはあまり感じない。いわゆる草食系男子。それでも、陰陽と男女関わらず、クラスメイトのほとんどと交流を持っていて、クラス外にも親しいやつが多い。あたしだって、クラスメイトの多くと話すけど、あいつの場合は周りを引き寄せているように思う。そんな二人が付き合うとなった時、周りは至極当然のように思われていて、意外だった。そのことを言うと、「いやいや、どう見ても付き合う二人でしょ」と総ツッコミを受ける。そんなもんなのか?
あいつと付き合ってからは、特別なことはしていない。でも、遊びに行くことは増えた。放課後のゲーセンにカラオケ、土日のショッピングセンターや互いの家など、青春のテンプレートを自然となぞっていた。カレカノというより親友の遊び方に近く、ついには親から「もうちょい踏み外したら?」と勧められるほど。それに抵抗があるわけではないけど、今はこの感じが心地いいからそうしているだけで、あいつもそんな感じだった。でも、ちょっとだけカレカノっぽいこともする。学校からの帰りにはあいつのほうから「帰ろう」と誘ってくる。夜にあたしが暇電かけるとすぐに出るし、学校や親の愚痴にも頷きながら返してくれる。そういう時には少しカレカノしているなって実感が湧く。
そうして付き合ううちに、あいつについて少しずつ分かったことがある。あいつはたまの休み時間や昼休みには、教室からいなくなっている。てっきりよそのクラスに行っていると思っていたが、そうでもないようだった。偶然、廊下であいつを見かけた時、どの教室にも入らず階段を上がっていった。気になって後をつけてみると、屋上に一人で寝そべっていた。耳にはイヤフォンをつけていて、暢気に口笛を吹いていた。あいつにも一人になりたい時があるのは意外だった。それからあいつが屋上に行く時に後をつけるのがちょっとした習慣になっていて、あいつはあいつでいつも同じ曲を吹いていた。
何の曲だろうか。あたしには分からなかった。流行りものでもなかった。リールやTikTokでも聴いたことはないけど、どっかで聴いた気がする。どこで聴いたんだっけか。一人ずっとモヤモヤとしていた。しかし、帰りに寄ったコンビニでついにその答えと出会った。店内BGMが切り替わった時、聴き馴染みのあるメロディが鳴った。あいつがよく口笛で吹いていたメロディと同じだった。しかも、この声はよく聴くあのロックバンドのボーカルの人の声だ。こういうバンドが好きなんだと、また一つ知った時、流れた歌詞にピンとくるものがあった。いつもクラスメイトと話していること。でも時にこうして一人でいること。一緒に帰ろうといつも誘うこと。暇電に早く出たこと。それらがあたしの中でつながり、あいつの人格の一部を形どっていった。
あいつが一人の時によく吹いていたその曲を知り歌詞を聴いたことで、あいつの知らない一面を覗き見た気がした。「なんだ、そういうことかよ」。あいつの秘密を知ったようで、次第にちょっとした優越感が生まれてきた。気づけば、先に出ていたあいつの元に駆け寄り、肘で小突いていた。「この!寂しかったんだったらそう言えって!」。最初は何のことか分からないといった顔をしていたが、さっきのBGMの話をすると次第に理解していったようで顔がみるみる赤くなっていった。「別にあたしの暇電に出る義務なんかないって。それであんたが話す相手が狭まるなら、むしろ出なくてもいいよ」そう言うと、あいつは首と腕を思いっきり振って、「別に無理はしてないよ!ただ話すのが楽しみなだけだから!」それはそれで少し照れくさくなる…。けど、そんな必死な様子がかわいらしかった。
こうして、あいつの色んな一面を知るたびに、あいつのことをまたちょっぴり好きになっていった。あたしも引き寄せられたんだろうな。
Mr.Children/つよがり