
アニメ・漫画用シナリオ「金青のルーナ」
●あらすじ
アニメ・漫画原作用の完全オリジナルシナリオ「金青(きんせい)のルーナ」
公開用マガジンです。魔法の瞳を持っているのになぜか魔法が使えない、へなちょこな女の子・ルーナと、強く凛々しい女騎士ステラが運命に立ち向かうファンタジーストーリーです。つよつよ自立系女子が大好きな方に。
※ 漫画化・アニメ化されたいなどのご要望があれば嬉しいです。江川本人に直接ご連絡ください Mail:tamakiegawa910@gmail.com
●登場人物
ルーナ(15、子供時代6歳)医者の娘。魔法眼の持ち主
ステラ(18)ヴェリタス国将軍の娘・騎士
ウェルス(45)ヴェリタス国女王・魔道士
タウルス(55)ヴェリタス国将軍
レグルス(29)タウルスの長男・騎士団長
アストラ(22)タウルスの次男・騎士
魔法眼の男…火を操る魔道士
魔法眼の女…水を操る魔道士
ポームム…ルーナの番犬
ヴェリタス国士官…城仕えの男
強盗の男
コルヴァス国の兵士たち
ヴェリタス国町民・貴族
コルヴァス国の黒獣
●本文
●森の中・昼
素早く後方に流れていく木々と、荒い息遣いの音。
服の胸元の中に何かを隠しながら、必死で逃げ走るルーナ。
その瞳は片方が金色、片方が深いラピスラズリ、猫のようなオッドアイ。
男1の声「魔法の目だ! 魔法眼の女だ‼︎」
男2の声「追え! 生捕りにしろ!」
その後方から、黒豹のような獣が数匹、激しく吠えルーナを追ってくる。
ルーナ「ああっ!」
ルーナ、足がもつれ転ぶ。黒い獣がその周囲を囲み、威嚇する。
ルーナ「…!(観念して目を閉じる)」
獣「(打撃音と)ギャアッ!」
ルーナ、恐々目を開けると、獣の首を電光の速さで剣で切り落とすステラ
の姿
ルーナ「ステラ!」
ステラ「じっとしていろ、ルーナ」
襲ってくる獣たちを、無駄ない動きで、大きな剣で切り倒すステラ。剣
舞のような、鮮やかな腕前。
木陰で様子を見ている、黒装束のような紛争をした男二人、諦めたよう
にふと消える。
ステラ「(男たちに気づき)…あの服装、隣のコルヴァス国のものか…」
ルーナ「(腰が抜け)あああ、死ぬかと思った… 生きてるって素晴らしい〜♪」
ステラ、イラッとして、ルーナの頭を軽く引っ叩く。
ルーナ「あいたっ‼︎」
ステラ「だから出歩くなと言っただろう! こんな明るい時間に、顔も隠さず
外をほっつき歩いていたら、どうぞ狙ってくれと言っているようなものだ」
ルーナ「うう… わかってたんだけどさあ」
ルーナ、ヘラっと笑って
ルーナ「そこはエリート騎士のステラちゃんが、幼馴染を助けてくれるかなっ
て」
ステラ、ため息をつく。
●城下町近くの野道・昼
白馬に相乗りするルーナとステラ。遠くに城下町と城が見える。
ステラ「森で何をしていた」
ルーナ「へへへ、ステラに言ったら、止められるってわかってたからね〜」
ルーナ、にまにましながら、胸元に隠していたものを取り出す。ルー
ナの片目と同じ、ラピスラズリ色の燐光を発している数本の美しい花。
ルーナ「よかったあ!潰れてなかった」
ステラ「(息を飲んで)瑠璃の雫…‼︎」
ルーナ「へっへっへ。すごいでしょ」
ステラ「まさか、本当に存在していたなんて。初めて見た。」
ルーナ「母様が隠していた医術書に、大昔に咲いていた場所の記述があって。
それがあの森の中だった」
ステラ「私は戦うことしか頭にないから、薬草のことは詳しく知らないが…
持ち主の夢が叶うとか、それは迷信だとか」
ルーナ「本当のところは、そこまでの力はないらしいんだけどね。確かに私の目
と同じ色をしてるし、少しは魔力あるのかも」
ステラ「大した力がないものなら、なぜ、こんな危ない目に遭ってまで取りに来
た」
ルーナ、ふと目を伏せて
ルーナ「…少なくとも、私の役立たずの目よりは、花の方がいくらかマシかもっ
て」
ステラ「やめろ、ルーナ」
ルーナを睨むステラ。ルーナ、俯いたままである。
ステラ「私も、あの街の誰も、お前を役立たずだなんて思っていない。お前は
立派な魔法使いだ」
ルーナ「(卑屈に笑い)魔法眼なのに、魔法が使えない魔法使い、の間違いでし
ょ?」
ステラ「(本気で怒り)ルーナ!」
ルーナ「…強くてカッコよくて、エリートで、完璧な誰かさんに私の気持ち
なんて分からないよ」
ステラ「ならば言い直そう、お前は立派な医者だよ、ルーナ。町中のみんなが頼
っているし、女王様もそうおっしゃっていた」
ルーナ、ふふっと薄く笑う。
ルーナ「ステラにはかなわないな」
ステラ「顔はヘラヘラしているが、街の医者の誰よりも、真面目に治療してい
る。私が一番よく知っている」
ルーナ「ステラがそう言ってくれるから、頑張れてるんだよ。人が元気になっ
てくれるのも嬉しいし、ただそれだけ」
ルーナ、瑠璃の雫を空にかざす。
ルーナ「ねえ。この花の色、女王様にぴったりだと思わない?」
ステラ「ああ、そうか。今夜は……」
ルーナ「そうだよ、女王様の誕生会」
●ヴェリタス小国・全景・昼
欧州の街並みを思わせる美しい城下町と、瀟洒な作りの白い城。
バグパイプのような楽器による、民族音楽が流れてくる。
●同・城下町の商店街・昼
人々で溢れる、賑やかな商店街。
楽隊が奏でる民族音楽が流れている。レストランや家の外のテーブルに食事
や酒が並び、華やかなお祭り騒ぎ。
街の人1「女王様、万歳!」
街の人2「ウェルス女王に万歳!」
馬で進むルーナとステラ。
ルーナ、患者らしき、杖をついた老婆を見つけると駆け寄り、腰の
小さなポーチから薬らしき包みを渡す。
笑顔で話すルーナと、喜ぶ老婆。
少し離れた場所で見ているステラ、その様子を見て微笑んでいる。
●ルーナの家・外観・昼
玄関や庭に花々が溢れている、こじんまりとした一軒家。
庭にステラの白馬が繋がれ、草を食んでいる。
●同・診察室・昼
窓際、草花が飾られた花瓶に並んで、瑠璃の雫が活けられている。
その隣、ルーナによく似た顔立ちの母親と、医者らしい白衣をきた父親の写
真。
写真たてに祈りを捧げるルーナと、ステラ。足元で、セントバーナード
に似た犬(ポームム)がしっぽを降っている。
ルーナ「父さん、母さん。今日もまた、ステラに叱られました…」
ステラ、ふふっと苦笑い。
ルーナ「…今日のこと、ごめん」
ステラ「急にどうした?街を抜け出すなんていつものことだろう」
ルーナ「そっちのことじゃなくて…」
ステラ「…(ルーナに向き合って)」
ステラ、少し考える顔つきで
ステラ「ルーナは私をエリートとからかうが…実はそうでもない。代々騎士にな
る我が家では、私はひ弱な役立たずだ。女に生まれてしまったから、兄達に
勝てたことがない。」
ルーナ「ステラが?役立たず?ウソ」
ステラ「役立たずなりに、私の剣で何かを守りたいと思って、ルーナの護衛を
ひき受けた。たまたま、女の騎士が私だけだったから役目が回ってきたんだ」
ステラ、翳りのない笑顔で
ステラ「守りたいものがあるというのは良いものだよ、ルーナ。私は一度だっ
て、この役目を後悔したことはない。私は強くないが、幸運な戦士になれた」
ルーナ「……守りたいもの」
ステラ「今夜は誕生会だ。また夜に迎えにくる。ポームム、ルーナを頼んだよ」
ポームム、ばうっ!と返事。
ルーナ「ステラ! あの…ごめん…」
ステラ「そう言う時は、ありがとうといえばいいと思う。謝られるより嬉しい」
ルーナ「…ありがとう」
ステラ、笑ってドアを閉める。途端、笑顔が消えるルーナ。
壁にかかるに映った、自分の瞳を見る。
ルーナ「私が守りたかったものは、家族と、父さんの医術だったのに…
たった、それだけだったのに」
ルーナ、鏡を伏せてしまう。
ルーナ「なんで、こんな弱虫の私に、こんな目がついているの…」
寄り添ってくるポームムを撫でて、話しかけるルーナ。
ルーナ「ねえポームム。私が一年の中で嫌いな日は、二つあるの。父さんと母
さんの命日と、もう一つは、今日のことよ。女王様が嫌いなわけじゃないん
だけどあの目を見ていると…胸がザワザワするのよ。何故か分からない」
ポームム、ピクリと顔を上げ、唸り声。出窓に激しく吠え立てる。
ルーナ「…何?」
怯えた顔のルーナ、出窓の外を見る。
誰もいない窓の外の光景。
●同・外観・昼
ポームムの吠え続けている音。
ルーナの声「ポームム?! どうしたの?」
道を挟んだ斜向かいの壁際、冒頭の黒装束の男の一人が覗き込んでいる
が、舌打ちをして立ち去る。
●ステラの家・庭・夕
激しい炎の曲線が数本、つんざくような音とともに、空を飛んでいく。
爆発音と共に燃え上がる、大きな木々。
炎の向こう、タキシードを身につけたひとりの男が立っている。
片目は、ルーナと同じ魔法眼。
アストラの声「お見事です」
男の背後、騎士のマントを身につけたアストラが立っている。
ステラと同じ髪色。
魔法眼の男「当然だ。今夜は女王陛下に魔法をお見せするのだからな。一年に一
度の大切な機会だ」
アストラ「もちろん我々もよく理解しております。しかし、見事な爆風のせいで御髪が乱れておりますゆえ,屋敷の中で整えられては」
男、屋敷のほうに向かう。
堅牢な門と高い城壁の、いかつい外観。
男、門から出て歩いてくる二人の騎士(タウルス、レグルス)と
すれ違う。男に会釈する騎士たち、アストラと同じマント姿。
アストラ「(立ち止まって) 父上、兄上」
レグルス「こりゃまた、派手に暴れたなあ。このままだと、うちの庭に一本も木が残らねえぞ」
レグルスの横、苦虫を噛み潰したような顔のタウルス。
タウルス「ステラはどこにいる」
レグルス「朝から見ないな…どうせあの子のお守りだろう?」
アストラ「嘆かわしいことだ。我が一族出身のものが、あのような『なり損ない』の護衛とは」
タウルス「(冷たく)アストラ」
アストラ、グッと黙り込む。
レグルス「ルーナは、女王陛下のお気に入りだからなあ。理由はさっぱり
分からんが」
タウルス「陛下の思惑など、所詮、一介の戦士たる我々には分かりようがない。
ただご意志に従うのみだ」
馬の蹄の音。ステラが乗った白馬が庭に駆け込んでくる
ステラ「父上、兄上。遅くなって申し訳ございません」
タウルス「遅い。すぐ着替えてこい」
ステラ「はっ」
手綱をひるがえし行こうとするステラ、アストラの冷たい目線に気づく。アストラ「何もできない小娘と、出来損ないの女の護衛か。実に馬鹿馬鹿しい」ステラ「…私が出来損ないで未熟者なことは、認めましょう。アストラ兄上。
しかし、ルーナまで侮辱するとは如何なものか。それは女王陛下を侮辱するの
と同じこと。聞き逃すわけにはまいりません」
アストラ「歯向かうつもりか」
ステラ「ただ、兄上の間違いを指摘したまでです。それにルーナは、私には勿体
無いほど、穢れない心を持つ素晴らしい人です」
アストラ「はっ!痴れ言をいうな」
タウルス「もうやめろ!! 祝いの日だぞ」
ステラ「それよりも父上、報告があります。今朝、国境線に近い森に入ったルー
ナを襲ったものがおりました。黒い服装、隣国コルヴァスの兵士かと」
タウルス「不法侵入か… よりにもよって、この日に」
レグルス「コルヴァス…先月、女王陛下と不可侵条約を結んだばかりのはずだ」タウルス「ステラ、早く着替えてくるんだ。我らが誕生会を欠席するわけにはい
かん…. (目配せして) レグルス!」
レグルス「わかってますって。俺ら以外の騎士全員、城周辺の警護に回ると」
馬を引いていくステラの背中を、睨みつけているアストラ。
●ヴェリタス城・外観・夜
たいまつの灯りに照らされている城。
賑やかな宮廷音楽が流れている。
●同・城内・謁見の間・夜
贅沢な料理や酒が並んだ、壮麗なパーティ会場で談笑する、正装の人々。
玉座に純白のローブをまとったウェルス女王。穏やかな笑顔で鎮座る。瞳
は両眼ともに魔法眼。
ウェルス、何かを手で包み込むような仕草をする。
虹色を帯びた、ガラス玉のようなものが出来上がる。
士官の声「次のもの、前へ」
貴族のようなドレスを纏った若い女性が進み出てくる(片目が魔法眼)。
ウェルス、ガラス玉のようなものにフッと息をかける。
大きく膨らみ、ドレスの女性が包み込まれる。
士官の声「存分に披露されよ」
女性、巨大な球体の中で大量の水を発生させ、操り始める。
美しい光景に、人々の歓声がうわっと湧き上がる。
士官の声「次のもの…」
アストラと一緒にいた火を操る男、球体の中で激しい炎を連射させる。
激しい爆音が上がる光景に、観衆の畏怖の声。
タウルス、レグルスと壁際にいるステラ、心配げな表情で違う方向を見て
いる。
視線の先、普段着のままのルーナ。ステラを見てホッとした顔を見せうな
づく。
●同・謁見の間のバルコニー・夜
不貞腐れた表情のアストラ。
炎が上がる球体を眺めつつだらしなく酒を飲んでいる。ブツブツ独り言。アストラ「親父はいつもそうだ。結局、一番信頼しているのはレグルスで、
可愛がっているのはステラ……出来損ないの、女。女のくせに……!」
酔いが回り、杖代わりにしていた剣を取り落とすアストラ。
アストラ「おっと……」
しゃがみ込んだ途端、頭を激しく殴られて倒れるアストラ。
背後にいる、全身真っ黒な扮装をした隣国コルヴァスの兵士。階下に向か
って何か手でサインを送る。
階下の庭の茂み、大量の黒い兵士。音もなく散り散りに消える。
●同・城内・謁見の間・夜
炎を操る男、女王に一礼をして引き下がる。士官、進み出て
士官「次のもの、前へ……」
誰も出てこず、しんとしずまり返る広間。
士官、咳払い。手にした名簿を見て
士官「次のもの… ルーナ。金と青の瞳に祝福されしものよ。前へ出て、ウェルス
女王に謁見を」
おずおずと進み出てくるルーナ。完全な普段着のその服装に、あちらこち
らでくすくすと笑い声が上がる。
ステラのすぐ横で「ルーナだよ」「あの何にも出来ないって子?」など
ひそひそ話をする人々。ステラ、黙って耐える顔。
ルーナ、瑠璃の雫を数本あしらった、豪華な花束を持っている。
ルーナ「じょ、女王陛下におかれましては、ごごご、ご機嫌麗しく……」
膝をついて、深く首を垂れるルーナ。
ウェルス「一年ぶりかのう、私の可愛いルーナ。今日はせめて、堅苦しい挨拶は
抜きにしよう」
ウェルス自ら立ち上がり、ルーナのそばに歩いていく。
その様子にざわつく人々。
ウェルス「お辞儀はよして、顔をあげなさい。その瞳をよくお見せ」
ルーナ、そっと顔を上げ、花束を渡す。
ウェルスの瞳と全く同じ色をした、瑠璃の雫が輝いている。
ウェルス「…瑠璃の雫。あの伝説の花か」
ルーナ「何の力もない私の代わりに、せめてほんの少しだけでも、女王様の願いを叶えてくれるよう、祈りを込めております」
ウェルス「小さかったルーナが、素晴らしい贈り物を。時の流れは早い」
花束を抱きしめるウェルス、ルーナ、少し笑顔を見せる。
ウェルス「ところで、タウルス将軍から聞いているぞ。その娘が、お前のそばに
ついているそうだが」
ルーナ「は、はい! ステラと言います」
ウェルス「ではステラ、私の前へ」
ステラ、緊張の面持ちで女王に跪く。
ウェルス「良い目をしている。さすがはタウルスの娘」
ステラ「…! 恐悦至極に存じます」
ウェルス「このものは、ルーナによく仕えてくれているように見えるな」
ルーナ「お、お言葉ですが、女王陛下、ステラは私の使用人ではないのです」
ステラ「ルーナ!陛下になんてことを」
ウェルス「(笑い)構わぬ、続けなさい」
ルーナ「もっと、もっと大切な存在だと思っております。ドジで弱い私を、いつ
も助けてくれる強くて気高い人です」
ステラ「…!」
ウェルス「…左様か」
ルーナ「本当のことを言うと、今日も、ここにくる勇気が出なかったんです。ス
テラがここまで引っ張ってきてくれたから、何とか頑張れました。瑠璃の雫
も、ステラがいないと取ってこれなかった。ステラがいつも隣に立っていてく
れるから、私は…」
ステラ「ルーナ…」
タウルス、微笑んでいる。
ウェルス、ルーナの目を見る。
一瞬怯えるが、必死で見返すルーナ。
ウェルス「ルーナよ、そのような存在は、世間一般では『友』と呼ばれておる」ルーナ「そ、そうです、まさにそれです!イヤだな私ったら、最初からそういえ
ばいいのに、馬鹿みたい…」
ウェルス、堪えきれずに笑い出す。
ウェルス「相変わらず、そなたは愉快な子だ。なるほど、友とは良いものだな。
共に飛ぶためなら弱虫毛虫な子供も、蝶に変わるか」
ウェルス、花束から瑠璃の雫を一輪抜き出し、ルーナの髪に飾ってやる
ウェルス「これは、蝶となったそなたへの、私からのはなむけだ。蝶には花が似
合おうな」
ルーナ「…!」
ウェルス「さて、ルーナよ。私の中で、友の定義とは、支え合い助け合って生き
る関係だ。ステラにそうできておるか?」
ルーナ「…いえ、私はいつも助けられてばかりで…」
ウェルス「それは、少しばかりずるいな」
ルーナ「…はい」
ウェルス「十年前のことだが、いまだに私は、あの時のことが忘れられない。
父母を失ったそなたが、この城に匿われた時のことだ」
ルーナ・ステラ「……」
ウェルス「優秀な民を喪った私も辛かったが、そばで見ていながら、家族を助け
られなかった子の心境は、私はいまだに計り知れない。だが、ルーナよ。生ま
れながらに力を持ちながら、自分は無力だと逃げ続けるそなたの気持ちも、私
には全くわからんのだ」
ステラ、女王に再び首を垂れる。
俯いているルーナ。
ウェルス「魔法は、人々を守るためだけに行使されるべきだ。その力を受けた私
は、愛すべき民を守るために戦ってきた。逃げるということは、その愛を捨て
ることに等しい」
ウェルス、玉座に戻っていく
ウェルス「もし瑠璃の雫が、言い伝え通りの力を持つなら…私からも、ひとつ願
おう。ルーナの勇気が花開くようにと」
突如、城中に轟音が響き渡る
ウェルス・ルーナ・ステラ「!!!」
兵士の声「て、敵襲!城の南の方角だ!」
●ヴェリタス王国・遠景・夜
街の外の森から、市内へ向け砲弾の嵐。爆炎と共に悲鳴が聞こえる。
●ヴェリタス城内・謁見の間・夜
窓から見える光景に、声をあげる人々。逃げようとしたり、ぶつかった
り、大混乱になる室内。
ウェルス「南の森の国境…! コルヴァス王、愚か者めが。たった一ヶ月で和平
を破りおって」
ウェルス、手のひらに集中する。小さな虹色のガラス玉のようなものが、
一気に拡大。巨大化し城の外まで広がっていく。
⚫︎ヴェリタス王国・遠景・夜
ウェルスが生み出した透明のドームのようなもの、王国全体を包みこみ、
砲弾を跳ね返し始める。
●ヴェリタス城内・謁見の間・夜
砲弾が届かなくなった様子を見て、歓声を上げる人々
貴族1「さすがは陛下」
貴族2「陛下がいれば我が国は安泰だ」
タウルス、レグルス、ステラ、無言で剣を抜き、ウェルスとルーナを取り
囲む。
ステラ「ルーナ、動くな。殺気がある」
レグルス「アストラは何やってんだ」
タウルス「あの馬鹿息子が…」
ウェルス「(気配を察して)!…。タウルス、レグルス。これは命令だ」
タウルス「⁈…はっ…」
ウェルス「私と、ルーナだけを残して、ここにいる民を皆、外に逃せ」
ルーナ・ステラ•レグルス「…!」
タウルス「なっ…何を仰る!」
ウェルス「(目の色が変わり,殺気だって) .…聞こえなかったか、命令だ」
タウルス,ぞっとして一歩下がる。
ステラ「父上、せめて、私がおります」
タウルス「…! (断腸の思いで)レグルス!言う通りにするんだ」
レグルス「くそ…っ、なんだってんだよ…(護衛の兵士たちに)全員、退避!退
避‼︎ 陛下のご命令だ!」
一瞬の間をついて、頭上のシャンデリアから飛び降りた黒衣のコルヴァス
兵、女王に襲い掛かる。真下で受け止めるステラ。激しい刀の金属音と、
衝突の音。悲鳴と共に逃げ出す客や兵士たち。
大勢のコルヴァス兵、バルコニーや窓から一気に雪崩れ込んでくる。タウ
ルスとレグルス、防御しながら退避を続ける
火を使う魔法眼の男、独り振り返って
魔法眼の男「僕だって…」
と、構え魔法を繰り出そうとする…が、瞬間レグルスに殴られ吹っ飛ぶ。レグルス「馬鹿野郎!こんなところで火を使ってみろ。城が焼け落ちるぞ!」
泣き出す男を引き摺って退却するレグルス。女王の方を見る。
女王が作ったガラスのドームの中で、なすすべもなく見ているルーナ。
ステラ、黒い兵たちと激しい剣戟。完全に多勢に無勢の状態。
レグルス「ステラ、死ぬなよ!」
ぐっと耐え、退却するレグルス。
●ヴェリタス城・外観・夜
城から逃げ出していく人々。
空を覆う、ガラスのようなのドームに激しい砲撃が当たる。
●同・城内・謁見の間・夜
ウェルスが作る防御魔法のドームの中、身構えているルーナ、ステラ。
360度、完全にコルヴァス兵に囲まれ、睨み合っている。こう着状態。ウェルス「…コルヴァス王。光り物が大好きな、カラスの二つ名にふさわしい所
業だのう。魔法眼目当てとて、雑魚はいらぬ、狙いは私とルーナのみか」
ルーナ「わ、私も?なんで……」
ウェルス「……」
ウェルス、横目でステラを見る。
完全に息が上がっていて、力尽きる寸前のよう。
ルーナ「ステラ…!いいよ!もういいよ‼︎ 私が人質になればいいんでしょう」
ステラ「ダメだ! 絶対にダメだ‼︎」
剣を構え直すステラ。歯を食いしばって立ち上がる。
ステラ「ルーナを差し出す? そうした後、私が平気な顔で、生きていけるとで
も思っているのか」
ルーナ「(泣き出し)ステラ…」
ステラ「私の命は、もうすでに、お前と共にあるんだ、ルーナ!」
涙を拭うルーナ、その拍子に、頭に飾っていた瑠璃の雫の花弁が、手のひ
らにつく。ハッと思い出して花を手で包み込む。
ルーナ「お、お願い…どうか聞いてほしいの。守りたいものがあるの、私にも」
瑠璃の雫に、涙が落ちる。一瞬の間。
ルーナの魔法眼と、もう片方の金のひとみ、呼応し光を放ち始める。
ルーナ、手のひらを見ると、チリチリと燐光のようなものが上がってい
る。灰になり散る花。
ルーナ「……思い、出した…」
ルーナ、手のひらをコルヴァス兵の方に向ける。
光の矢のようなもの、ウェルスのドームをいとも簡単に通過。
一部の兵士に照射され、一瞬で灰と化す。
まるで原子爆弾を受けたような光景。
コルヴァル兵たち「‼︎」
ステラ「なっ…⁈」
ウェルス「蝶が、サナギから出たか。美しい眺めだ」
ウェルス、よろめくステラの腕をとる。
ルーナの背後に周り肩に手をそっと添える。
三人、球体ごと地面から浮き上がり、兵達を見下ろす形となる。
ウェルス「私の可愛い蝶よ、存分に舞うが良いぞ」
青白い光に包まれたルーナ。満月の中に浮かんでいるよう。
ルーナ、両手を兵士たちに向ける。
手のひらの燐光が膨れ上がり、激しい光の雨のように降り注いでいく。
逃げ惑うが、なすすべもなく、悲鳴もなく灰になっていく兵士たち。
思わず目を背けるステラ。
無表情のまま、一人残さず兵士を殺していくルーナ。
●(回想)ルーナの家・室内・
床に倒れているルーナの両親。
子犬ポームムが、鳴いてほおを舐めているが、ピクリとも動かない。
両親の遺体のわき、無表情で佇んでいる、寝巻き姿のルーナ(子供時代、
6歳)。手のひらからの光の矢で、その向こうにいた人物が一瞬で灰とな
る。その隣にいた強盗の男、悲鳴をあげて
強盗「ば…化け物!」
ルーナ「…!」
ルーナの光の矢、強盗を貫く。
花びらのように灰が舞う室内。ルーナ、壁の鏡に映る自分の目を見て
ルーナ「化け物…」
無表情のルーナ、一筋の涙を流す。
(回想終わり)
●ヴェリタス城・城内・謁見の間・夜
ルーナ(15)の頬に、一筋の涙。
コルヴァス兵士たち、一人残らず灰となり、誰もいなくなった室内。
ウェルス、魔法を解いて、ステラとルーナと共に床に降りてくる。
ステラ、信じられないものを見るような目で、ルーナを見ている。
ルーナ「…お願い、見ないで…そんな目で私を見ないで…」
ルーナ、その場で震えてうずくまる。
ルーナ「私は、化け物じゃない…」
ステラ、ハッと我に返って、ルーナの前にひざまずく。
ステラ「そんなこと、思うはずがない。ただ驚きすぎて…」
ルーナ「あの時だってそうなの。私は父さんと母さんを守りたかっただけ。ステ
ラだって、守りたかっただけ。大事な人がいなくなるのは、もう耐えられない
だけなの」
ステラ、燐光を放つルーナの両手を、躊躇なくとって包みこむ。
ルーナ「…怖くないの?」
ステラ「なぜだ。私を守ってくれた、尊い友人の手なのに」
ルーナ「(泣いて)ステラ…」
ステラ、ルーナの手を握り締め
ステラ「ルーナは、こんな魔法を使わないと、人を助けられないのだろう
か。私はそうは思わない。医術でたくさんの人たちを救ってきたではないか」
ステラ、ルーナの手を引いて立ち上がらせる。
ステラ「私がもっと強くなれば、どんな敵にも負けなければ、ルーナは魔法を使
わないでよくなる。ただそれだけの話だ」
ステラ、ウェルスに対しひざまづき
ステラ「ルーナが戦わない分、私が役目をおいます。今はまだ未熟ではあります
が、もっと強くなって、ルーナを守ることを誓います。だから…」
ウェルス「(遮って)なんの話だ?」
ルーナ・ステラ「….?」
ウェルス「何が起こったのか知っているのは、私と、そなたたちだけであろう。周りを見てみよ。カラスの手下どもは皆灰になってしもうた」
ウェルス、にやりと笑って
ウェルス「秘密も一緒に、灰になった、ということだ」
呆気に取られているステラとルーナ、「あっ」と理解し
ルーナ「へ、陛下。何て言ったらいいか」
ウェルス「二人とも、強くなれ。誰にも負けず、誰も失わないで済むぐらい」
ステラ「!…仰せのままに」
ウェルス「来年も、大きな花束を期待しているぞ、ルーナ。そなたの家の庭に
は、見事なバラが咲いているそうではないか」
ルーナ、泣き笑い。
●ヴェリタス国・遠景・夜明け
ガラスのドームに包まれた城と街。
砲撃はなく、森は静まり返っている。
夜明けの太陽が登り、鳥のさえずりも聞こえ始める。
(暗転)
●森の中・昼
馬の蹄の音と、素早く後方に流れていく木々。
犬のバウっという声(ポームム)もする。
白馬に相乗りし、駆けているステラとルーナ。
ステラは少し髪が伸び、ルーナも大人びた服装。薄く化粧をしている。
ルーナ「ポームム!こっちよ!!」
白馬のあとを追いかけて走るポームム。嬉しそうにバウワウと返事。
⚫︎ステラの家・執務室・昼
書類などを見て仕事をしているタウルスとレグルス。
タウルス、ソワソワして
タウルス「…ステラはどこに行った」
レグルス「今日は非番だから、ルーナと遊びに行っているはずだ。親バカもいい
加減にしてくださいよ」
タウルス「!!!(ショックで)そ、そうか…」
レグルス「親父がそんなだから、アストラがヤキモチを焼いて喧嘩になるんだ」タウルス「(イラッとして)あいつの話はするな。聞きたくもない」
レグルス「昨日、アストラから手紙が来ていた。北の砦の警備についてから、毎
日過酷な中で、立派な騎士目指し頑張っております、だとさ」
タウルス「荒くれ者の兵士しかいない、辺境の土地だ。修行が終われば、少しは
マシになって帰ってくるだろう」
レグルス、ふと大きな窓の方を見る。
ガラスの向こうに広がる、白いヴェリタス城と、抜けるような青空。
タウルス「…どうした」
レグルス「誕生会の夜のことだけど…結局、何だったんだろうなあ。女王陛下も
何も仰らない。ステラとルーナも『気絶していて覚えてない』の一点張り。残
ったのは大量の灰だけ。探偵小説になりそうな出来事だぜ」
タウルス「なるほどな。題名はどうする?『瑠璃の雫』とでもするか」
レグルス「堅物の親父殿にしては、ノリがいい。今日はどうしたんだよ」
タウルス「さあな、この青空のせいかもしれん。…さて、この仕事が終わった
ら、ワインでもどうだ。息子殿よ」
レグルス「いいねえ」
●ヴェリタス城・謁見室・バルコニー
小高い場所にあるバルコニーから、城下町を見下ろしているウェリス。
差し出した指先には、蝶が止まっている。
一陣の風が吹き、空に舞い上がる蝶。
●森の外側・昼
木々の向こう側、花畑が広がる場所。
遠景に広がるヴェリタス城と城下町
ボール遊びをするルーナとポームム。草を食む馬を撫でているステラ。笑顔のルーナとポームムを見て、同じく笑っている。
ステラ、足元にさく、瑠璃の雫と同じ色をした花を見て摘んでみる。
ステラ「(苦笑いで)違うか…」
ルーナ「どうしたの?」
ステラ「いや、なんでもないんだ」
ステラ、花を馬にやる。美味しそうに食べてしまう馬。
ステラ「ところで、ルーナ。あの夜、瑠璃の雫に何を願ったんだ?」
ルーナ「えっ?えっと、確か…『ステラとずっと友達でいたい』だったかな?」ステラ「(目を丸くして)…」
ルーナ「必死だったし、もう細かいことは忘れちゃったけど…。でも、どうして
そんなこと聞くの?」
ステラ「いや…」
ポームムに飛びつかれ笑うルーナ。
ステラ「案外、伝説は嘘じゃないのかもしれないな…」
二人の頭上を、先ほどの蝶が飛んでいく。
●森の中・昼
深い木々の根元、隠れたようにひっそりと咲いている瑠璃の雫。
先ほどの蝶、その花弁にとまる。
(了)