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改めて感じる市川雛菜の『しあわせ』 −Team.Solのレビューから−

これはシャニマス怪文書です

【前置き】

シャニマスのソロ楽曲集、COLORFUL FE@THERS -Stella- を聞き、シンガーソングライター樋口円香に心を狂わされ怪文書デビューした私は、案の定Team.Solでもやはり心狂わされてーーというよりこの酩酊感にすっかり冒されてしまい、発売からしばらく経った今でも、在宅勤務中にヘビロテしている。

確信があった。このアルバムにドハマリすることに。順次発表されたSolメンバーの視聴版で千夜アリアを聞き、Damascus Cocktailを聞き、あおぞらサイダーを聞いてしまえば、誰でもそうなるのだ。恐るべき名盤であることが心で理解できてしまう。また、ソロ曲は性質上キャラクターの内面にもフォーカスされる。私は、いわゆる『箱推し』という感覚が実はあまりピンと来ず、一人のキャラクターについて観察というか、考察というかーーなんというか、シャニPと過ごすアイドルの一瞬一瞬の感情に思いを馳せたいタイプの厄介オタクなのだ。きっと後方彼氏面オタクだ。
前回のStellaと同様に、ソロ楽曲を通じて彼女らを理解しようとしていく中で、自分がアイドルに向ける感情が、解釈の中で分離していくことをまざまざと感じる。そして、分離していくことを認識することで逆説的に自分の精神内の多重のオタク性を認識することになるのだ。今回で言えば、黛冬優子の『SOS』がその最たる例だった。この曲を聞き、彼女らの実在を感じようとしたときに、『プレイヤー』としての私、『シャニP』としてのめり込む私、『シャニマス時空のオタク』に成り下がる私と分離していく。自分が283プロダクションの人物とどう向き合っているのかを自覚する。これは怪文書であり、厄介オタクの自己認識の備忘録であり、自称音楽好きの楽曲レビューである。

【曲ごとの感想】

1.千夜アリア

作詞:真崎エリカ 
作曲・編曲:藤井健太郎 (HANO)、谷ナオキ (HANO)
歌:白瀬咲耶

シンフォニックなオープニングに「連れて行くよ」の独白。ギターと、激しいドラムで開始10秒で存分に白瀬咲耶のカッコよさをわからせようとしてくる。アンティーカのイケメン担当の面目躍如という曲調、テンポ、歌声。サビでのシンセサイザーがシンフォニック・ロック感を醸し出し、サビでの盛り上がりを終わらせまいとと嘶くエモギター。高校生の時によく聞いていた『Janne Da Arc』からエロさを抜いたような印象だなと、ふと思った。
スモークの中、明滅する青と白のビーム。疾走感のある咲耶のダンスの幻覚が見える。躍動するポニーテール、弾ける汗。曲が終わる瞬間の静寂に、ポーズを決めてカチッと静止する咲耶。暗くなるステージにサイリウムを振り回してしまう夢女子気分になる。なんというか、V系音楽の系譜がこんなところに受け継がれているのだなと感じた。明言されないままの白瀬咲耶の父親だが、若い頃にロックが好きだったみたいな描写があったら僕は尊くて死ぬ。

2.Damascus Cocktail

作詞:古屋 真 作曲・編曲:陶山 隼
歌:有栖川夏葉

『千夜アリア』もどことなくラテン感が滲んでいたが、この曲はがっつりラテンとサンバのテイストだ。
古のアイマスおじさんは、かつてXBOXのDLCでサンバ衣装を購入したものだが、夏葉は自信満々にサンバ衣装を着こなして踊ってくれそうだ。休むことなく鳴り続けるパーカッション。途中の間奏でのフュージョン感の中で酩酊しそうな僕の正気を確かめてくる。キング・クリムゾンの「トーキング・ドラム」のように、ドラムの存在に気づいたら、もうやられている。
オタクの皆さんは知っていると思うが、ダマスカスとは、現在では製法が失われてしまった高硬度の錬成金属で、独特の美しい斑模様を帯びる。その美しさに惹かれて現在でもかつての製法を可能な限り再現し、似た文様を持つ金属が作られ、主にダマスカス包丁として販売されている。

『美しいだけじゃ脆いのよ』 『鋼より強くジュエルのように』

美しく力強いダマスカスを有栖川夏葉になぞらえるのは天才の所業だと感じる
飽きのこないアップテンポに乗った一歩一歩が力強いメロディと、夏葉の歌声。このアルバムの中で、気づいたら頭の中で響いてる曲がこの曲である。

3.Darling you!

作詞:鈴木静那 作曲・編曲:南 直博
歌:桑山千雪

アルストロメリアのアルストロメリア感は千雪一人で出していたのかと思うほどのアルストロメリア感。ファンシーでメルヘンチックな曲調に「大好き」をギュッと圧縮して空気砲のように打ち込んでくる。
「そんなに隙を見せてると男性に勘違いされちゃうぞ、千雪」ってラジオに投稿してくるおむすび恐竜みたいな厄介オタクになれること間違いなしである。いや、おむすび恐竜を覗き込むとき、おむすび恐竜は我々を覗き込んでいるのだ。
IKEAとかFrancfrancを巡りながら、あの演出された小さな空間ごとに、桑山千雪が衣装を変えていろいろな表情を見せるMV妄想がはかどって仕方がない。

「二人のマイホーム。どんな暮らしを二人で彩るのかなとワクワクするよ。まずはベッドルームのインテリアから見に行こうね、千雪」
                ラジオネーム:おむすび恐竜(30代:男性)

4.あおぞらサイダー

作詞:秋浦智裕 作曲:小久保祐希、YUU for YOU 
編曲:YUU for YOU
歌:市川雛菜

あおぞらサイダー。
何があおぞらサイダーだ、この酩酊感はもはや夕闇ストロングゼロとすら言える。
Stellaの『ハナマルバッジ』でもそうだったが、この曲も1時間近く聞き続けて感情を書き殴っているが、完全に支離滅裂なのでだいぶ推敲して順序を入れ替えて整えた。それでもまだだいぶ支離滅裂だが、ストロングゼロを飲んだら誰だってそうなるだろう。肝心なのはあおぞらサイダーからは逃げられないということだ。

ふわっふわで甘ったるいはちみつみたいな琥珀色の景色に雛菜がいる。
噂のダミーヘッドなんちゃらとかいういかがわしいマイクで収録してるのでは?と思うくらい雛菜ボイスが脳に語りかけてくる。

開幕の「ぱっぱっどぅわっぱ〜 ぱっぱっどぅわっぱ♡」で10割持っていかれるのが必然なのだが、ぐっとこらえて地縛霊となって聞いてみると、この曲、ベースの力強さが終始えげつない。この曲は決して歌詞カード通りのふわふわポップソングではないと気づく。
もったりとした喉越しの力強いベースと、壊れているかのようにずっと同じ音しか鳴らさないピアノが理性を侵食していき、こそばゆいギターに惑わされてぼくはじゅわじゅわ口遊むだけの低級呪霊にされてしまう。
唐突に始まる口笛パートは離別を感じさせるエモさのアクセントになっている。
実際、ゲームサイズVerだとこのままエンディングに突入して、口笛からの「じゅっじゅわ〜♡じゅっじゅっじゅわ〜♡」で唐突に終わってそのまま成仏となる。本当はそっちのほうがシメ方としては好きだ。実際Solの配信が始まるまではYoutube版を一日2時間位毎日聞いていた。

口笛もそうなのだが、よくよく聞くとこの曲、ちょい役で登場する楽器の種類がちょっと多すぎる。ハイハット、ウィンドチャイム、ピアノ、手拍子、トランペット、ビブラホン(?)、風が吹くような音。
まるで楽器を使い捨てにするかのように、雛菜は「しあわせ」を選別し、あちこちに散りばめる。その結果、細微まで完全な芸術作品かのような印象をとして完全に成立している。底知れぬ「市川雛菜」という人間の価値観が隠されている。

5.SOS

作詞:下地悠 作曲・編曲:睦月周平
歌:黛冬優子

「あ〜ふゆちゃんの恋のSOSを察知して駆けつけてぇ〜」ってニチャニチャしてるシャニマス時空の名もなきオタクになってる。

コスメが香るかのようなテクノポップ。ラメが溶け込んだようにキラキラした楽曲から黛冬優子のインスタ写真の幻覚さえおぼろげに写り込んでくる。
「ふゆ」というキャラクターがシャニマス時空でどうやって売り出されているのかが透けて見えるような解釈一致感。「ふゆ」のファンはそれを求め、またシャニPは天才詐欺師、冬優子の隣で、彼女のコスメの残り香に共犯という記憶を刻み付けられる。
シャニPと黛冬優子には『相棒』という言葉がよく似合うなと思った。

6.過純性ブリーチ

作詞:古屋 真 作曲・編曲:大西克巳
歌:西城樹里

『過純性』とかいう存在しない単語が、西城樹里に合わさることで、えげつない厚みを生み出していて、なんというか、たまげる。

突如、シャニPの中に溢れ出す
存在しない記憶ーー

中学校の頃、俺と同級生だった西城樹里とは部活の帰りにポカリを飲みながら一緒に帰ることが多かった。仲良くなったきっかけは、彼女が俺と同じ『ダイイング・ブリード』というロックバンドを好きだったからだ。
J−POPとロックが融合した、まあ今にして思えば当時にはよくある、ありふれたバンドだったけど、なんというか、懸命に歌って、言葉にできない思いをギターで発散するかのような曲調は、スポーツで汗を流すのと同じような爽やかさがあった。シンプルな歌詞だが、とにかく前向きで、中学生が感じるような些細な悩みや迷いをふっ飛ばしてくれる心地よさがあって、きっと俺と西城の拠り所だったんだろうなと思っている。
ある日、突然西城は学校に来なくなった。部活で何かあったらしいということは聞いていたが、携帯電話でメールを送っても返信はなかった。
それから数日、下校時に下駄箱を開けたら、ダイイング・ブリードのアルバムが入っていた、付箋付きで。付箋の字は西城の字だった。
付箋の内容は人に言いふらすような内容ではないのでここには記さないが、差し障りのない範囲で掻い摘むと、「直接CDを返せなくて悪い。最高のアルバムだった。この曲を聞いたときの気持ちは一生忘れねぇ」というようなことが書いてあった。
そういえば、これは西城が持っていないと言ったから、俺が半ば強引に彼女に貸したアルバムだった。行きどころのない想いを、拙いながら青空に叫ぶような曲。
あれから西城とは一度も会っていないが、タワレコで彼女のCDが売っているのを見つけた。まさかアイドルになっていたとはな。
買った西城のアルバムをカバンにしまい、どんな曲を歌っているのかと帰路に考える。
青空まで届くような真っ直ぐなロックだといいなと、俺は思う。

7.HAREBARE!!

作詞:渡邊亜希子 作曲・編曲:大西克巳
歌:八宮めぐる

八宮めぐるが自己肯定感の塊を届けてくれる、チアガール姿で。
限界オタクの僕が見た幻影は、自分が高校球児で打席に立っているときにめぐるが応援歌を歌ってくれているビジョン(ちなみに僕は4番でピッチャーだ)。確実に部員全員がめぐるにガチ恋している。そりゃ、あんなことされたら誰だって勘違いする(詳細はここではとても言えない)。

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楽曲としての感想が正直あまり出てこなかったが、スポーツやってるやつみたいな爽やかさを感じる点は樹里の『過純性ブリーチ』に似るが、あちらはわだかまりを抱えた若者の青春ロックで、こちらは部活の健全な青春って感じがする。真剣に何かを頑張ってる人に対する応援歌を、めぐるが歌ってくれたら嬉しいだろうなぁ。

8.statice

作詞:秋浦智裕 作曲:家原正樹、Jam9 
編曲:家原正樹
歌:浅倉 透

staticeという単語は辞書を引いても載っていなかったが、ググってみたらラベンダーのことだった。曲調も歌詞もタイトルも全部財布忘れてそうな軽い作りだったが、歌声も含めて全部浅倉透だった。
浅倉透はコミュを見れば見るほど何を考えているのか、どういう感受性を有しているのか本当にわからなくなるが、浅倉透は圧倒的な顔の良さですべてに説得力を持たせている。いや、持たせてしまっている。GRAD編ではそのあたりに言及されていて、『がんばる』ということがよくわからないままにもがく浅倉透の姿が見られる。
GRAD編のシナリオがこの曲調や歌詞にすごく一致する。ボーカル優勢な編曲に乗っかる若い感受性の歌詞。「頑張る」って何かな、と考えた末に絞り出した言葉をシャニPと一緒に歌詞にしてたら嬉しいなと思う。

『17歳って、こんなもんなんだよな。答えなんて、誰にもわからないよ。俺も今だってわからないよ。だからこそ、透が日記に書いてくれたこの歌詞、歌ってほしいと思う』

シャニPの独白がポポポ音と一緒に聞こえてくるような後聴感。いいね、グー。

【総評】

神アルバムだった。それに尽きる。
『千夜アリア』でカッコよさ、『Damasucus Cocktail』でカッコよさから力強さに移行し、『Darling you!』で可愛らしさに軌道修正をした上で『あおぞらサイダー』で感情をクソデカにされた上にぐちゃぐちゃにされ、『SOS』で自分の厄介オタクさを実感し私はダウンする。

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実際には19分26秒なのだが、体感では2秒なので仕事中にヘビロテとなる。多分そのうちGAFAでも勤務中にシャニマス曲を流すことが推奨されるだろう。

そのうちLunaも書きます。多分。

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