ハードディスクとSSD(380号)
2024現在、ハードディスクを利用する場面はかなり減ってきています。
理由は明解で、SSD(ソリッドステートドライブ)と呼ばれる装置がハードディスクの代替品として一般にウケたからです。
今回は、ハードディスクとSSDについてお話します。
ハードディスク
ハードディスクドライブ(HDD)はデータを保管する機器としては相当に古参の機器で、1960年代から存在していたそうです。
「ディスク」の名の通り、装置内部には記録用の円盤(プラッタ)が1~4枚くらい入っています。内部は密封されていて、交換はできません。
このプラッタは直経5~8cmくらいで表面には記録用の磁性体が塗られています。
これを高速(5千~1.5万回転/分)で回転させ、磁気ヘッドで読み書きを行います。
直経8cmのプラッタで、分速1万回転ともなると、最外周は1秒で40m以上、時速だと150km程度となります。猛烈なスピードですよね。
この速度ですから、ビデオテープやカセットテープのように磁気ヘッドとプラッタを接触させるわけにはいきません。ものすごい熱が出てしまいます。
ですので、ハードディスクでは磁気ヘッドはプラッタからほんの少し(数ミクロン以下)浮いた状態でデータの読み書きをしています。
この微妙な間隙を維持できなくなると、ハードディスクは正しくデータを読み書きできなくなります。つまりハードディスクの故障です。
コンピュータの部品というのはそうそう壊れません。
確かに電子部品というのは熱で劣化しますが、定格で使っていれば、10年以上使ってもそうそう壊れません。
そんな中で故障が起きる部品と言えば、筆頭にくるのがハードディスクです。
なぜか?
ハードディスクには物理的に動く部品がたくさんあるからです。
プラッタを回すのはもちろんモータですし、ヘッドを動かす(内周から外周への移動)もモータで行います。
もちろん、信頼性が十分に高い部品を使うわけですが、それでもモータですから磨耗は避けられません。
同じ理由でDVDドライブや冷却ファンも壊れやすい部品と言えます。
ソリッドステートドライブ
SSDはソリッドステートドライブ(固体素子ドライブ)の略です。
固体素子というのは要は半導体です。
SSDに使われる半導体はフラッシュメモリ(フラッシュ)と呼ばれるメモリです。
フラッシュメモリというのは、USBメモリやスマホなどの記憶装置にも使われているもので、半導体メモリの中ではやや書き込みが遅くてローコストという特徴があります。
こちらは1990年代の登場(普及は2005年を過ぎてから)ですから、ハードディスクに比べればずっと新参です。
SSDの最大のメリットは半導体ならではの高速性です。
SSDに使われているフラッシュメモリは書き込みは遅いのですが、それでもハードディスクよりはかなり速く動いてくれます。
ハードディスクもSSDも大量の情報を保管することを目的とした装置ですから、読み書きするデータ量は膨大ですので、速度はとても重要です。
当初はSSDの大きな需要がハードディスクの置き換えでしたので、ハードディスクと同じSATAというインターフェース(接続形態)で、コンピュータ側から見ると、ハードディスクにしか見えない(大きさや形もそっくり)にしてありました。
最近はNVMeというさらに高速動作が可能なインタフェースを使ったSSD(M.2 SSD)が主役になりつつあります。
また当初は個人用のパソコン用需要が中心だったSSDですが、その高速性や耐故障性を買われて、データセンター(サーバなどを大量に保有して使用権をレンタルするサービス)などでの採用も増えているようです。
(余談)フラッシュメモリのこと
(この章全体が余談です)
フラッシュメモリというのは、元々E2PROM(イーツーピーロム)と呼ばれていた半導体メモリをローコストに作れるようにした再発明品です。
それまでのE2PROMは性能は高いものの市場は小さく価格も高止まりとなっていました。
そんな中で、東芝の技術者(枡岡さん)が書き込みは多少遅くなるものの、大巾に回路を省略して超ローコストに作れるE2PROMを開発されました。
ところが、当時はフラッシュメモリのメリットがなかなか理解されず、販売にはかなり苦労されたようです。
さて、フラッシュの元となったE2PROMなのですが、これ、ものすごくわかりにくい略称です。
E2PROM= Electrical Erasable Programable Read Only Memory
直訳:電気的に消去可能な書き込み可能な読み込み専用メモリ
なんか、矛盾した怪しげなメモリですよね。(笑)
ですが、こうなったのには経緯があるのです。
最初は、ROM(ロム)でした。
ROM=Read Only Memory
→読み取りだけできる(書き込めない)メモリ
次に書き込みできるように改良されます。
PROM=Programable ROM
→プログラム(書き込み)できるROM
さらに、消去もできるように改良されます。
EPROM=Eraseable P-ROM
→消去できるPROM
※ただし、紫外線照射が必要なためイレーサという専用器具が必要。
さらにさらに、イレーサ不要に改良されます。
E2PROM=Electrical Eraseable P-ROM
→電気的に消去できるPROM
このように段階を踏んで改良されていったために、妙な略語となっているのでした。
ハードディスクとSSDどっちがいい?
ハードディスクとSSDはそれぞれ、メリットとデメリットがあります。
以下、いくつかの視点で見ていきます。
最初は速度。
これはもうSSD(フラッシュメモリ)の圧勝です。
もともと、フラッシュメモリの最大のメリットが速度でしたから、ある意味当然の話です。
当初は、それほど猛烈な性能差が見らなかったのは、SSDがハードディスクの置き換え需要が中心だったためです。
ハードディスク用に規定されたSATAというインタフェースを採用せざるを得ないSSDにとっては、足かせをつけられた状態での勝負とならざるを得ませんでした。
SSDの改善が進むにつれて、SATAの性能限界を明らかに越え、より高速で動作可能なNVMeというインタフェースに移っていったのです。(SSD以前はNVMeの注目度は低かった)
ハードディスクはプラッタを回転させるため、物理的な制約から逃れることができません。
例えプラッタを1万回転/分で回転させても、一周には6ミリ秒かかります。
最悪のケースでは、毎回のように6ミリ秒の待ち時間が発生してしまいます。
(実際のハードディスクではいろんな技法を使って、高速化を図っています)
現在では、速度を求めるのであれば、NVMe(M.2)インタフェースのSSD(フラッシュメモリ)を選ぶことになります。
次、耐故障率。
これもSSDの勝ちといっていいでしょう。
可動部品の多いハードディスクは元々故障率の高い機器です。
それに対して、SSDは故障するような部品がほぼありません。
単純に故障率ということであれば、SSDの圧勝です。
が、SSDにもデメリットがあります。
それは書き換え可能回数という制約があることです。
ハードディスクには、書き換え回数などという制約はありません。
書き込みを何回しても磁性体が劣化はしないからです。
ところが、フラッシュメモリには書き込み回数の上限があります。
これは半導体メモリの物理的な性質に関わる話ですので、そう簡単に解消できる課題ではありません。
ですので、耐故障性という点ではSSDの圧勝ですが、耐用期間ということになると、むしろSSDの方が短かいケースもあるようです。
特にWindowsの場合はページファイル(というWindowsが内部で使うファイルがあり、頻繁に書き換えが行われています)をSSDに置くと耐用年数を縮める、という意見もあるようです。
3つ目。価格
今度はハードディスクの勝ちです。
特に大容量になればなるほどハードディスクの安さが目立ちます。
ハードディスクというのは、内部にプラッタという円盤が入っています。
容量の大きな製品はプラッタ枚数が多くなります。
プラッタ1枚から2枚に増やせば容量は2倍ですが、コストはそこまで上がりません。(共用部品も多いため)
一方で、SSDの原価の大半がフラッシュメモリのチップ価格です。
つまり、チップを2倍にして容量が2倍になれば、コストもほぼ2倍になります。
大容量になればなるほど、ハードディスクのコストメリットが出てくるわけです。
まとめ
ハードディスクとSSDという2種類の装置があります。
最近のノートパソコンは余程大きな容量を求めない限りSSD一択でしょう。
一方、デスクトップ型(本体とモニタ、キーボードなどが別)ではSSDとハードディスクの両方を搭載している場合もあるようです。
それぞれ特徴がありますが、以前ほどの価格差がない現状ですので、通常はSSDをチョイスすれば問題はないかと思います。
既存のHDDベースのパソコンをSSDに交換(換装)することも可能です。
ただ、多くの場合メーカ保証はなくなりますので、新しい機器でやることは止めておきましょう。
古い機器で保証なんてとっくに切れてる、ということなら、ダメモトで換装してみると楽しいかもしれません。
今回は、ハードディスクとSSDについてのお話でした。
次回もお楽しみに。
(この記事は2024年11月に執筆しました)