「弱みだって自分の個性」 アトリエe.f.t.卒業生インタビュー♯1 笹村直希
卒業生インタビュー記念すべき初回は、2015年度卒業の笹村直希(ささむら なおき)さん!
武蔵野美術大学デザイン情報学科を卒業後、同大学院で研究室のスタッフとして勤務する傍、福祉のボランティア活動にも従事。そして今年の春からは大学院のスタッフを退職し、映像制作会社で新社会人として働き始めました。
新たな道を歩み始めた笹村さんに、アトリエe.f.t.で学んだことや、過去の苦労した経験、現在の想いなどを語っていただきました!
【絵や音楽、サブカルチャーが大好きな幼少期〜高校時代。しかし・・・】
ー アトリエe.f.t.はどのようなきっかけで通うようになったのでしょうか?
笹村:美大受験のために通いだしたのですが、アトリエe.f.t.に入るまでには紆余曲折がありました。
僕の育った周囲の環境は勉強に関しては少し厳しくて、いい大学に進学するためにたくさん勉強をするよう昔から口酸っぱく言われてきました。もちろん僕のことを思って言ってくれていたのですが。
そういったこともあって中学・高校の時はずっと進学校に通っていました。周りの友達は「勉強しない人はクズだ」という考えの人が多く、僕にとって学校はとても窮屈な場所でした・・・。
ー 勉強以外に好きなことがあったのでしょうか?
笹村:たくさんありました。僕は昔から絵を描くことがとても大好きで、幼稚園の時に描いた絵がコンクールで入賞したり、小学校の時も遠足のパンフレットの表紙を描いてほしいと頼まれたりと、実際に評価されていたし、とても自分の絵に自信を持っていたんです。
高校の入学当初も軽音学部と美術部に入っていて、楽器を弾いたり、作品を作ったりしていました。あとサブカルチャーも大好きで、アイドルや映画にとても精通していました。
でも進学校の周りの生徒たちは全然僕の話に興味を持ってくれなくて、音楽や美術、サブカルチャーなどの話題はほぼなく、気づけば浮いた存在になっていました。
ー 周りと話が合わなかったんですね。
笹村:そのことだけではなく、僕は生まれつき耳が悪くて、今もずっと補聴器をつけて生活しているのですが、中・高生の思春期のころは補聴器をつけていることに恥ずかしさを感じていて。そのコンプレックスもあり、補聴器をつけていることは周囲に公表していませんでした。
話しかけられても聞こえていないときもあるので、無視したような形になってしまうこともしょっちゅうあって。
そうすると、こいつは話を聞いていないと誤解を生んでしまうことが増えていき、そのことも浮いた存在になった要因だと思います。
【自分の居場所がなくなり、引きこもりに】
ー 高校生活はそのような状態がずっと続いたんでしょうか?
笹村:そうですね・・・。僕はもともと芯がなくて、流されやすい性格なので、本当にやりたいことがあっても自分を抑えてしまいます。結果的に部活動も辞めてしまい、自分のことも話さなくなりました。「あぁ、僕は勉強のことしか考えちゃダメなのか」と。
それでも僕は、「自分の好きなことだけひたすら吸収するぞ!」と一時は切り替えることにしました。絵が好きだったこともあり、中学時代から美大に行きたいと考えていたので、アートの勉強をしたり、大好きな映画をたくさん見たりしていました。
でもやっぱり浮いた存在のまま学校に居続けることがどんどん苦しくなっていって、高校2年生の頃から不登校になりました。
ー それは辛い・・・。
笹村:そのまま月日が流れ、特に美大以外で進学したい大学もなく、センター試験を受けないまま形だけの浪人生活が始まりました。いわゆる引きこもりになり、家族以外の人たちとは一切話をしない生活が続きました。
周りの同級生たちからは名の知れた大学に入ったという声が聞こえだし、ただただ焦り、絶望感や喪失感に苛まれる毎日。
そんな時に母親から「あんた本当は美大に行きたいんでしょ?それならアトリエe.f.t.というところがあるみたいよ」と言われました。
ー え!!
笹村:僕もその時、本当にびっくりして、あれだけ勉強、勉強と口酸っぱく言っていた母親がまさか美大を勧めてくるなんて。当時の僕の状態がよっぽど見るに耐えない状態だったんでしょうね(笑)。
でもどこか親から認められたような気持ちにもなりました。
【自分のやりたいことを全力でやるからこそ、自分を肯定できる】
ー アトリエe.f.t.に入校した当初のイメージはどのような印象でしたか?
笹村:e.f.t.で初めて吉田田さん(アトリエe.f.t.代表)に会い、今までのことを話してみると、「引きこもりになった理由もわかるし、君は何も悪くない。自分を貫いていいから。」と言ってくれたんです。
全部僕のことを肯定してくれて、本当に救われた気分でした。そこから本気で美大を目指すようになりました。
実際に入校してみると、今までとは全く違う環境でとても驚きました。例えばe.f.t.では1年に1度、生徒たちが作品を作って展示をする「e.f.t.展」というものを開催するんですが、その年のテーマが偏った愛と書いて“偏愛”でした。
何の作品を作ろうかと考えた時に、僕はあるアイドルが好きだったので、そのアイドルが載っている雑誌や写真集を使い、全部スキャンして何百個の顔のみを切り抜いて、コラージュ(写真や紙などの異なった素材を組み合わせ、作品を作る絵画技法)を作ろうと考えました。まさに偏愛です。
ー それは壮大な作品ですね!
笹村:でも、これまで引きもっていたこともあって人間不信というか、さらけ出すことが怖かったんです。こんな作品を作っていたらまた周りから浮いた存在になるかもしれない。気持ち悪いと思われるかもしれない。
でも実際は誰からも気持ち悪いなど否定的なことは一切言われませんでした。アトリエe.f.t.にはそういう空気があるんです。先生も背中を押してくれました。
嬉しかったですね。その頃から補聴器をつけていることも公表するようになりました。
ー 以前と180°違う環境ですね!
笹村:みんなやっぱり自分の表現したいことを全力でやってるんですね。だからみんな否定しないし、その人の表現やその人自身のことを肯定してくれるのだと思います。
笹村さんの作品「アイドル」(肖像権保護のため、ぼかし処理をしています。)
ー 印象に残っている授業はありますか?
笹村:自分が得意なこと、好きなことをテーマに、1コマ授業をする「LITEさん」というワークショップが面白かったです。
普通の授業だと先生が生徒に教えるということが一般的ですが、このワークショップは生徒(授業をする当人)から他の生徒や先生へ授業をします。自分が好きなことを発信できたり、どうすれば伝わるだろうかと考えられることが楽しかったし、学びになりました。
それだけではなく、一番驚いたのは先生達がその授業を客観的に評価するというスタンスではなく、先生達も生徒の得意なことから何かを学ぼうとしていて、とてもフェアなんです。その点がとても印象的でしたし、自ら発信していきたいと思えるようになったきっかけの一つの授業です。
【弱みこそ、自分の最大の魅力】
ー アトリエe.f.t.での一番の学びはなんでしょうか?
笹村:弱みは強みになるということです。これまで環境のこと、耳が聞こえにくいことで自分の殻に閉じこもったり、自ら発することをやめてしまっていました。
僕は本当に不器用だし、めちゃくちゃ自信ないし、それを隠してカッコつけてしまったりしていたけど、吉田田さんや他の先生たち、e.f.t.に通っている友達たちや授業を通して、弱みはダサいことではなくてかっこいいこと。
それが個性だし強みなんだと学びました。今まで思っていたことが全て逆転してしまったんです。
ー 「弱みは強みになる」いい言葉ですね。
笹村:今では弱みを見せるからこそ、人となりや可愛らしさが見えるし、個人の魅力になっていくんだと思っていてます。弱い部分も自分の魅力だと肯定できれば、頑張って生きていくことができるし、自己表現もできる。自分が認められるからこそ道を切り開いていけるのだと思っています。
ー 最後に、笹村さんの今後の将来の展望をお聞かせください。
笹村:この春から映像制作会社に就職するのですが(取材時は2月)、それとは別に色々な障害を持った子供達が集まる学童クラブに、時間があるときはボランティアとして通っていまして、就職後も頻度は減ると思いますが通い続けようと思っています。
僕もずっと耳が聞こえにくいことで苦労したり悩んだりしていたので、僕と同じように困ってる人の助けになりたいと思ったことがきっかけです。
通い始めてわかったことは、子供達はみんなハンディがあるぶん、自分の強みを自然に理解しているのか、卓越した能力を持っているんです。遊び方にしても自ら面白い遊び方を考えたり、非常にクリエイティブな子供達が集まっています。
これから映像の仕事を始めるわけですが、映像に限らず、グラフィックデザインやCGなどすべてのクリエイティブは一つに繋がっていると思っているので、今後は色々な分野に挑戦したいです。そして最終的には福祉とクリエイティブを繋いで、困っている人や悩んでいる人に手を差し伸べられるような人になりたいし、学童クラブに通っているようなクリエイティブな子供達と一緒に面白いことをしていきたいなと思っています。
インタンビュー・テキスト:新拓也(ピクセルグラム/ブランディングデザイナー)
撮影:岩本真由子(フォトグラファー)