「伝えることを諦めちゃいけない」 アトリエe.f.t.卒業生インタビュー♯2 長畑璃佳
卒業生インタビュー第二回は、2004年度卒業の長畑璃佳(ながはた りか)さん!
長畑さんは大阪芸術大学 美術学科卒業後、単身ニュージーランドに渡り、画家としてオーストラリアやイギリスなどニュージーランド以外の国でも、展示や展覧会を諸外国で開催されています。
そんなグローバルにご活躍されている長畑さんに、異国で活動するようになったきっかけや、e.f.t.で学んだことなどについて語っていただきました!
【大学卒業後の2日後にニュージーランドへ】
ー 現在どんな活動を行なっているのでしょうか?
長畑:いまはニュージーランドを拠点に絵の制作と各国で展示を行なっています。
ー ニュージーランド!それは羨ましい。ニュージーランドにはいつから住まれているのでしょうか?
長畑:約13年前からです。大学の卒業式の2日後には日本を出ました。
ー 2日後ですか!?
長畑:はい(笑)。もともと家族や友達と海外旅行に行くことが多く、海外で絵を見る機会も多かったんです。イギリスに行った時にそこで見た美術に衝撃を受けて、私もイギリスで自分の作品を展示したいなと思うようになりました。
でも私は英語がからっきし駄目だったので、まずは英語の勉強をしないといけないなと。
そんな時にニュージーランドにずっと住んでいた叔父が、「英語を学ぶんだったらニュージーランドにおいでよ!自然豊かで環境的にもとっても良いと思うよ!」と言ってくれました。
ー それは渡りに船でしたね!ニュージーランドの住み心地はいかがですか?
長畑:ニュージーランドはとても田舎ですが、晴れた夜の日はいつでも天の川が見れるぐらい空気が綺麗です。お店の数もあまりないのでショッピングが好きなような人は向いていないかもしれませんが、私はのんびりした環境が好きなので、住み心地はとても良いですね!
ー 今では世界各地で展示や展覧会を行なっていますが、転機になった出来事を教えてください。
長畑:現地の語学学校で英語を学びつつ、カフェなどで地道に展示活動を行なっていました。
活動を始めた1年後くらいに、ニュージーランドで一番大きなアートショーのオーガナイザーの方が、たまたま私が展示していたカフェにいらっしゃって、私の絵を見て声をかけてくださったんです。そこから連絡を取り合うようになり、その方がオーストラリア、イギリスで展示ができるきっかけを作ってくださいました。
もともとイギリスで絵の展示をしたいなと思っていましたが、このことがきっかけで英語さえできれば世界中どこでも活動できるなと思うようになり、今でもニュージーランドに住みながら、作家活動を続けています。
ニュージーランドの長畑さん宅から徒歩10分圏内の海岸
【学校には行かなかったけど、絵だけは描き続けた】
ー 昔から絵を描くことは好きだったんですか?
長畑:はい!もともと私が2歳の時に、兄が絵画教室に通っていたこともあり、私も同じ教室に通い始めたことが、絵を描き始めた一番古い記憶です。
高校生の時も美術部に所属していて、学校にはほとんど行ってませんでしたが、美術部だけはちゃんと行ってました(笑)。
ー 美術部だけ?
長畑:そうなんです。通っていた学校が中・高一貫の女子校だったんですが校則がとても厳しくて、私が言いたいことややりたいことを、何でもかんでも抑え込もうとするんです。
「私の行動の何が駄目なんですか?」って先生に聞いても、納得いく理由が返ってこないことが多くて。
そこに明確な理由があれば私も納得できるんですが、なければ先生の言うことを聞く必要なんかないと当時思っていたので、そういうことを繰り返していくうちに、中学3年の終わり頃から徐々に学校に行かなくなっていきました。
ー そのような状況から、なぜ大学を目指すようになったんでしょうか?
長畑:学校に行かなくなってからは、友達と遊んでばかりの毎日を過ごしていたんですが、高校2年生くらいの時に、一通り遊びきったなという感覚になりました。
その時はじめて自分の進路と向き合ったんです。ずっと絵は好きだし、それなら美大に行きたいなと思うようになって、3年生のはじめ頃から真面目に学校に行くようになりました。
大変でしたが、頑張って何とか卒業できました(笑)。
ニュージーランドにある長畑さんのアトリエ
【一度、絵を描くことが嫌いになった】
ー ではアトリエe.f.t.をどこで知ったんでしょうか?
長畑:美術部の顧問の先生に、「美大に行くなら画塾に通った方がいいよ」と言われ、はじめてそういう場所があることを知りました。そんな時に学校の前でe.f.t.の先生がチラシを配っていて、そのチラシを見て興味本位で行ってみようと思ったことが最初のきっかけですね。
ー 実際にアトリエe.f.t.に入ってどんな感想を持ちましたか?
長畑:実はe.f.t.に入る前に別の教室にも少しだけ通っていたんですが、その教室がとても厳しくて。例えば朝と昼の描く絵の内容や枚数があらかじめ決められていて、そのメニューをひたすらこなし、描き終わった後は生徒全員の前で描いた絵に点数をつけられました。
絵に点数をつけられることも嫌でしたが、全然褒めてくれなかったのが辛かったですね(笑)。
そうするとどうなるかというと、絵を描くことが苦痛でしかなくなってくるんです。そういったこともあって辞めてしまいました。
厳しい教え方の教室が合っている人はいいと思うんですが、私には合わなくて・・・。
ー 好きだったものが嫌いになるのは辛いですね・・・。
長畑:でもe.f.t.は否定せずに褒めてくれます。もちろん注意すべきところはアドバイスしてくれますが、基本的には自分の好きなように描かせてくれて、それぞれの個性を活かしながら、この子はこう、あの子はこうといったように丁寧に教えてくれます。
そうやって絵の技術を伸ばしてくれたので、一度失ってた絵を描くことが好きな気持ちがe.f.t.に入ってからは復活して、前よりさらに好きになりました!
長畑さんの作品「Shisen」
【苦手でも一生懸命伝える姿勢が大切】
ー アトリエe.f.t.の学びで、今に活きていることはありますか?
長畑:全てにおいて、アトリエe.f.t.で学んだことが私の今の生活を支えてくれてると言っても過言ではないと思います。
今でも落ち込むことや絵がうまく描けない時期は、通っていた当時のことを思い出して奮起したり、細かいところで言うと、受験の時に使う6角形の鉛筆を、先生が5角形(合格形)に削ってくれたことがあって、大事な時は未だにその鉛筆を使ったりしています(笑)。
ー 願掛けですね(笑)。
長畑:一番活きていることで言うと、私は人と接したり、会話をしたりするのが下手くそで、全般的にコミュニケーション能力に欠けているんですが、そのことで落ち込むことがとても多くて・・・。
ー どんなところがコミュニケーション能力に欠けていると思うのでしょうか?
長畑:私は整理して話すのが苦手で、相手に言いたいことが伝わらないことが多く、かと言って聞き上手でもないので、全体の8割くらいの方と話が弾みません(笑)。
特にその人のことが嫌いだから話したくないというわけではなく、自分の言いたいことが伝えられないという意味でコミュニケーションが苦手だと思っています。
ー なるほど。
長畑:特にe.f.t.に入るまではそれが顕著で、誤解されることも多かったんですが、「どうせ伝わらないし、どうとでも思ってくれ」と半ば諦めていました。
学生の時に進路を決める際も、絵を描くことが好きだから美大を目指したということも、もちろんあるんですが、コミュニケーションが取れない以上どこにも就職できないので、私には絵の道しか残されていないと思っていたほどです。
ー そこまで悩まれていたんですね・・・。
長畑:けどe.f.t.に入ってから先生に、「別にコミュニケーションが下手でもいい、下手でも一生懸命伝えることが大事だよ」と言ってもらえました。
私は絵を通して意思表示していきたいと改めて思えたし、外国では日本よりさらに、意思を伝えることが大事なので、こうやって今もニュージーランドで作家活動ができているのは、この学びのおかげだと思っています。
ー 最後に今後の長畑さんの将来の展望を聞かせてください。
長畑:そうですね・・・これから特別やりたいことって正直ないんですよね(笑)。
でもそれはネガティブな意味ではなくて、今やりたいことを目一杯やれているから。
自分の好きなこと、描きたいものが描けて、それをたくさんの人に見てもらえて、いろんな意見が聞ける。それが何より楽しいし、絵描きを仕事にできていることが本当に幸せです。
このままマイペースに自分の描きたいものを描いて、いろいろな場所で展示できればいいなと思っています。
インタビュー・テキスト:新 拓也(ピクセルグラム/ブランディングデザイナー)
写真提供:長畑璃佳