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チャーリー・パティーノの現在地 | Charlie Patino Current location

チャーリー・パティーノの"近未来"とはどこなのか。
結論から言うと、それがアーセナルのトップチームでレギュラーとして試合に出続けることならば、少なくとも今年ではない、おそらく来年でもない。
このテキストでは、彼の紹介と現在地を探ります。


-Introduction

Charlie Michael Patino チャーリー・パティーノ
2003年10月17日生まれ 19歳

ワトフォード出身のパティーノは地元ハートフォードシャーのクラブ、St.オールバンズシティFCでそのキャリアをスタートさせた。7歳でルートンタウンの下部組織に移籍して2015年11歳の時に「移籍金£10K」でアーセナルの下部組織に加わった。

加熱するプレミアリーグの移籍金高騰に対して当時アーセン・ベンゲルは「才能は育てるもので、買うものではない」と評したが、11歳のワンダーキッド争奪戦に対しても賛否があったと記憶している。
当時パティーノをスカウトしたブライアン・ステープルトンをして「長年のスカウト歴の中でもベストなタレント」と評され、チャーリー・パティーノの獲得レースはフットボール界で話題になった。
最終的に、スペインにルーツを持つ少年は、憧れのサンティ・カソルラの元所属クラブであるアーセナルアカデミーの門を叩くことを決めた。
各年代で新しい契約にサインした。14歳でU18の試合に出場し、その原石は急速に磨きがかかっていった。15歳で大きな選択を迫られるが、パティーノはスペインの国籍取得権を持ちながら、母国であるイングランドでのナショナルキャリアを進むことに決めた。
プロ契約に漕ぎ着ける2020年10月までのTEEN ERA(まだ19歳ですが)には、公私ともに、きっと数えきれない物語があったと推測する。

-ブラックプール移籍

2022年8月、ヘイルエンドを離れブラックプールに1年ローンで移籍することになる。ルートンからアーセナルに移籍して以来初めて、他クラブのユニフォームを着てプレーすることになった。ちなみにシーズン前、多くのコンペティションを戦うガナーズはパティーノを残して、U23とトップチームで並行して使うプランもあったようだが、結局ローン移籍を選択した。
近年ダニエル・バラード(現サンダーランド)やタイリース・ジョン-ジュールス(現イプスウィッチにローン中)のローン移籍でアーセナルとはコネクションのあるブラックプールだが、マイケル・アップルトンの元でより試合数を重ねてほしいという思いからこのクラブをチョイスしたのだろう。パティーノは当時の事を11月のTangerines TVに対してこう語っている。

チャーリー・パティーノ
"アルテタ監督曰く、ブラックプールは成長し続けるために最適な場所だということだった。チャンピオンシップのクラブのことはもちろん知っていたけどね。アーセナルのU23から来たけど、ここには年上の選手や経験豊富な選手もいる。力を発揮できる場所だと思ったし日々向上していると思う"

Q&A | Charlie PatinoTangerine's TV

ブラックプールは21/22シーズンを、のちにアストンヴィラへと向かうニール・クリッチリーが率いて16位、昇格初年度を無事残留で終えた。今シーズは最大のライバルクラブ、プレストンノースエンドOBのマイケル・アップルトン監督にスイッチして臨むシーズンとなった。パティーノ以外にも、マンシティのルイス・フィオリーニ、ウルヴズのテオ・コルベーヌ、リーズからイアン・ポヴェダ、リヴァプールのリース・ウィリアムズと多くのタレントを持った若手がローンで集まってスタートするシーズンでもあった。
恐らく今年もあくまで目標は残留だが、切磋琢磨できる若手たちとより高いレイヤーでの真剣勝負に向かい、さらにシニアプレーヤーも粒は揃っているとなると、ローン先として決して悪い環境ではない。
チーム内での人間関係などフットボール以外の部分でも問題はなさそうだった。住居はキャリーとコルベーヌとの3人暮らしで、オフの日はゴルフやFIFAをみんなでやるような、精神的安全が与えられる環境も整っていた。

-ポジションとプレースタイル

よくパティーノは何番の選手なのか?という問いがある。
たかだか10歳を超えたくらいの少年に移籍金を払うこと。移籍金の有無に限らずスター候補の青田刈りは近年増すばかりだが、パティーノの時は話題性がとにかく先行した。すぐにアディダスがロングコントラクトを提示して、今でも彼のシューズはアディダス社製。当時、大人たちが彼に求めたのは間違いなくナンバー10だろう。1人で相手DF陣をかわしてシュートを決めて…そんな前時代的でマンガに出てくる10番像を彼は求められていたに違いない。しかし、彼の憧れはリオネル・メッシではなくサンティ・カソルラであり、ミケル・アルテタだった。クラブのオフィシャル動画で、好きなポジションは?との問いに、他のどの質問よりも強くはっきりとした口調で答えたのが印象的だった。

チャーリー・パティーノ
"(フェイバリットポジション?)ナンバー8。前線でゴールを決めること、プレスバックして守備をすることも同じくらい好き。タックルを決めることもそうだし、とにかくアグレッシブにプレーしたい"

Q&A | Charlie PatinoTangerine's TV

事実ブラックプールでのポジションもIHやダブルピボットの1枚で起用されることが多い。そしてスプリントも数をこなしプレスバックもさぼらない。ネガティブトランジション時、中盤とDF陣との間に異常にスペースが広がっていることがあり、敵が前線にパスを一本通せばすぐボックス付近という状況、そんな中守備に戻る場面が多くみられる。

Art de Roché(The Athletic記者)
"意欲的であることは素晴らしいが、それが能力とリンクしないと意味がない。それが今回のローンの大きなポイントである。今シーズン27回のインターセプトは欧州におけるイングランドの10代選手の中で最多だった。すべてのチャレンジに勝つわけではないが、ボールを奪い合うことを厭わず、FAカップでのサウサンプトン戦では何度もそれをやってのけた。それは監督との信頼関係にもつながっていく"

The Athletic
”How Arsenal’s Charlie Patino is faring at Blackpool”
By Art de RochéJan 29, 2023

ミック・マッカーシー監督(ブラックプール)
”彼は若く、時にはうまくいかないこともあるが、相手陣内20ヤード付近でボールを失い、ピッチの反対側の18ヤードのボックスまでボールを奪い返しに戻ってきたんだ。私は『その動きができるなら、十分に私のチームでやっていける』と彼に言ったんだ。とにかく『色々チャレンジしたい』という意欲は素晴らしい。パティーノと一緒に仕事をするのがとても楽しいよ、彼きっといい選手になるだろうね"

The Athletic
”How Arsenal’s Charlie Patino is faring at Blackpool”
By Art de RochéJan 29, 2023

さらにローン元であるアーセナルU23のヘッドコーチケヴィン・ベッツィ曰く、今は中盤でのあらゆる可能性を探る時期と語る。

ケヴィン・ベッツィコーチ(アーセナルU23)
"複数のシステムで複数の役割をこなす必要がある。ボールを受けて攻撃を組み立て、オフェンシブポジションでプレーするときは、前方へのパスで創造性を発揮する必要があるし、攻撃に加わってボックスでのプレーが求められる。一方で守備では、プレスとスクリーンができなければならない。彼のゲームに対する理解度は高く、さまざまな役割で彼を起用することができると思う。トップチーム(あるいは他のチーム)でプレーする機会が訪れたとき、監督は彼に中盤2枚、あるいは中盤3枚より高度なポジションを要求する可能性もある。<中盤で守る選手>とか <中盤で攻撃を担う選手>といった固定概念は不要で、そのことでプレーの幅が狭くなる"

The Athletic
”How Arsenal’s Charlie Patino is faring at Blackpool”
By Art de RochéJan 29, 2023

-スタッツ(スタンダード)

チャーリー・パティーノスタッツ比較(FBref)

まずスタンダードスタッツを確認する。比較選手はまず同世代で2選手。ブラックバーンローヴァーズ所属のよりディフェンシブなタイラー・モートン(リヴァプール)と攻撃的なブレイズのジェームズ・マカティ(マンシティ)。特別枠で2選手。当時ルートンでローニーとしてPOTSの活躍をしたKDH(レスター)、そしてアーセナルのグラニト・ジャカを加えた。
プレータイムについては、34節消化時点で28試合に出場している。全試合の約8割のプレー機会が与えられているが、この時点で今回のローン移籍での経験は評価できる。またゴール+アシストは5と物足りなく感じるかもしれないが、チームのリーグ総得点33に対しての数字。しかもそのうちの二つはウエストランカッシャーダービーでファンの心を掴んだ劇的なものならば、尚更高評価。ゴール前での期待値関連スタッツは平均を下回るが、ポジションと役割、チームの現状を考えれば個人評価には繋がらない。Prg.CやPrg.Pといった前線へのキャリー、チャレンジはモートンよりもそれぞれ数値が高い。後述するインターセプトから前線へ運ぶ能力、意識は高く、実際の試合でもそのような場面を多く見ることができる。もちろんチーム戦術の違いやチーム状況に大きく左右されるが、自分の個性は示すことができている。

-スタッツ(守備)

FBref.com Charlie Patino Scouting Report
チャーリー・パティーノスタッツ比較(FBref)

今シーズン目立つのが守備スタッツだ。これに関しては前述のタイラー・モートンよりも数値が高く、特にインターセプト回数は1試合平均3.21でモートンよりも1.45回多い。よりオフェンシブなマカティと比べると当然のように数値はさらに高くなり、参考数値として掲載している20/21シーズンのKDH(当時21歳)よりも多い。この時のKDHはいわゆるBOX to BOXの8番タイプでピッチ長の狭いケニルワースロードでインターセプトからキャリーという動きが多く見られただけに、この数値を超えたことには今後の成長のポイントがあるかもしれない。

-グラニト・ジャカとの比較

さらに、17/18シーズンのグラニト・ジャカとの比較はどうだろう。(FBrefで拾えるデータで1番古いものを採用)アーセナルに加わった2年目、当時24歳。年齢は今のパティーノと5歳違い、リーグ、コンペティション、戦術etc... 比較対象としてはあまりにも差がありすぎるのかもしれないが、比べて見ると守備スタッツ(の雰囲気)は割と近い。去年現地のローンウォッチアカウントやふらんこさんとのディスカッションの中でも、みんなパティーノの近未来を「ネクスト・ジャカ」と評していたのにも納得がいく。また先日、アーセナルのアカデミーウォッチの超大御所Jeorge Bird氏とやり取りする機会の中で、彼の適正ポジションと来期以降の所属について質問した。内容はほぼ同様の回答だった。

ジョージ・バード氏
”彼は中盤での深い位置でうまくプレーして適している。またサイドにもう一人同じポジションのプレーヤーがいる方がより効果的だ。プレミアリーグの下位クラブなどで、もう1度ローンに出すのが良いと思う”

DM from Jeorge Bird

-現状と今後

今回の記事の主旨はチャーリー・パティーノの現在地を知ることだ。彼の現状は大きく2つ。一つはタフなチャンピオンシップというリーグでコンスタントに出場できているフィジカルと戦術理解が身についてきているということ。さらには守備面で成長していることもスタッツから良く分かった。今後の課題は攻撃面で、SCAやGCAといったBOX付近でのプレーのクオリティを上げたいところ。これは来シーズン以降、少し上のレイヤーで戦えるクラブでのローンを経験して、磨いていけばいいと感じる。

-Epilogue

ところで、アーセナルに復帰したときの背番号は何番がいいだろう。
この冬の移籍期間で獲得したレアンドロ・トロサールは言うまでもなくトップオブトップの選手。今後もサイドからチャンスメークを繰り返しチームの力になることは間違いない。しかし28歳という年齢は中長期計画には入らないだろう。いつの日か、やはり彼には背負ってほしい番号がある。
Charlie Patino is Our No 19 こんなチャントがエミレーツに響いたら、それがネクストチャプターのはじまりの合図。きっと彼には19番が良く似合う。

<参考資料>


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