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もーちのVR日記その3 プリコネのアリーナで何が起きたか

アリーナを突き詰めたら伝承に辿り着いた話

 VRCにはJoin戦争なる概念がある。VRCのイベントで、ゲストが開店時間になったらいっせいにJoinして早いものがちでインスタンス(店内)に入れるという方式だ。競争率が高く、入れないプレイヤーが続出する過密イベントだけがJoin戦争と呼ばれる。そうでなければ単にJoin方式のイベントなどと呼ばれるのだが両者は似て非なるものと考えてよい。

https://twitter.com/vrc_ss_lilith/status/1684132357094391809


 最近、Join戦争方式のイベントに初めて参加した。Join戦争はプリコネをやっていたときのアリーナ15時バトルと呼ばれる不毛な戦いとすこし似ていた。

筆者はプリコネをとっくにやめてしまったが、バトルアリーナはキャラのパーティ戦で戦うことで順位を上げていき、その日の15時時点の順位に応じて報酬がもらえる対人戦である。バトルアリーナは1パーティ、プリンセスアリーナは3パーティ連戦で勝敗を競う。
 順位を上げるのは、たとえば自分が20位で相手が10位なら勝つと自分が10位にあがり相手を20位に落とす、みたいなシステムでやっていく。あまりに無制限に殴れたら順位が変動し続けて埒が明かないので、アタック権は1日5回まで(ジュエルで回復可)という制限がある。

重要なのはインセンティブとなる報酬だ。

 1位なら300ジュエルなので、B(バトルアリーナ)P(プリンセスアリーナ)ともにその日の1位でフィニッシュしたら600ジュエルもらえる。これを2,3日続けると10連ガチャが引ける。これを大きいと見るか小さいと見るかは個々人によるが、アリーナは育成したキャラが全力で使える数少ないコンテンツのひとつという点がポイントだ(他はクランバトルしかなかった)。

バリプリで勝利するためには何をすればよいか

 まず個別戦(パーティ同士の戦い)に勝利できなければ何にもならない。ただしアリーナは攻め有利(絶対防衛できるパーティが存在しない)であり、「このパーティはこのパーティで倒せる」という知識を所持していれば問題ない。(たしかにキャラ不所持でパーティが抜きづらかったりメタに苦労したりすることもあるが、最終的には工夫でなんとでもなる)

 

防衛PTは何だろうが倒される。
よって「1位の防衛パーティが強すぎて最後まで抜けなかった」のパターンは上級者が集うバリ1桁では超レアケースといってよい。
 この結果何が起こるかと言うと、15時前に1位だったプレイヤーは15時では1位になることができない。殴られて順位が落ちるからだ。ただし「1位のプレイヤーを殴れるのは11位まで」(10位より離れると殴り先に表示されない)という仕様のため、だいたい10~11位前後で落ち着くことが多い(運が悪いと多段で30位くらいまで行く)

 そうすると1位のプレイヤーはどうすればいいのか? ひとつは5位くらいのプレイヤーを保険で殴っておくという手段がある(保険殴り)。

 1位→11位→5位という順位変動を狙うわけだ。ただし失敗すると
1位→1位→11位となって意味はない。(1位から5位を殴っても1位のまま)
え、じゃあこの場合5位になるのか11位になるのかは何によって決まるの?これは


送信精度である。
 このテクニックを軽く説明すると、バトル勝敗決定一歩手前の場面でポーズして、14:59:99に勝敗結果がサーバーへ送信されるようにポーズを解除する。15時の直前に勝敗結果を確定させた側が後出しで殴ったことになり最終順位上昇が見込める。逆に送信が15:00を過ぎれば、順位上昇は順位報酬確定後となり意味がない(見かけの順位はよくなるが報酬はもらえない)。

 15時バトルとは、この送信バトルのことだ。Join戦争もまた送信バトルのひとつかもしれない。

盤外のゲーム


パーティ編成で勝てるのは当然、送信バトルの精度が高くなって一人前、では本当に勝ち続けるためには何があればいいのか?

それは交渉能力だ。たとえばあなたは15時前の順位として3位くらいがいいな~と思っている。なので2時くらいに3位のAさんを殴って13位から3位に移動した。するとAさんがすぐにこちらを殴り返してきて13位になる。あなたは3位がいいと思っているので再びAさんを殴って3位に戻る。するとAさんが10秒くらいで殴り返してくる。あなたは嫌だなーと思いながら防衛編成を変えて3位に戻るが、まったく意味がない。忘れていないだろうが、「防衛は何でも倒せる」。Aさんはまた殴り返してくる。あなたはまた13位になる。流石に「なんやこいつ」と思ってAさんのプロフィールを確認すると「意味不明な殴りやめろボケ」とか書いてある。
 これが有名なアリーナガイジバトルだ。プロフィールを使って意思表示は基本だが、相手がプロフィールを見るとは限らないのでネーム自体を「殴ってくんな」に変えたりすることもある。同じクランメンバーからすれば「何やこいつ」と思われて意味不明だろう。

 あなたは同じ土俵に立ってもよいが、もっとよいアイデアを思いつく。3位を取ることをあきらめて4位で妥協しよう、とするのだ。しかしアリーナでは2位は指定席だし、3位は指定席だし、4位は指定席だし…10位は指定席である。Aさんの行動は「3位指定席を守ろう」という大きな戦略の中でのひとつの戦術に過ぎなかったのだ。

 Aさんのやられたらやり返す行動、これはしっぺ返し戦略というもっとも基本的で合理的、かつ人間にも生得的に備わっている行動パターンとされている。しかしもっと別のテクニックもある。いわゆる「履歴埋め」と呼ばれるものだ。

https://xn--o9j0bk1rwe8bvh.com/95403

アリーナは原則的に上の順位しか殴れないのだが、1~3位は10位くらいまでを殴れる。殴っても両者の順位変動はない。それを利用して同じ相手を何回も殴る、相手を殴り続けて相手の履歴をひたすら埋め尽くす一種の示威行動が履歴埋めと呼ばれるものである。
 この「履歴埋め」、たちが悪いことに虚仮おどしではない。さきほど軽く説明したようにアリーナで殴れるのは1日5回まで、それ以降は回復にジュエルがかかる。またクールタイムと言って一定の期間内に何回もバトルするのはこれまた微量のジュエルを払う必要がある。「履歴埋め」している側はアリーナ順位報酬でまさに目的とするジュエルを払っていることになり、これは「俺は報酬なんて関係なしに、いつでもお前に粘着することができる人間だ」という意思表示であり、埋め尽くされた履歴の外面よりよほどシグナリングになる。

 一般に履歴埋めをしてくるプレイヤーはガイジなので関わりたくないとされている。そう思われると順位低下要因である「時間外で殴られる頻度」が減ることになり、精神的ストレスや貼り付きの負担が減る。狂人理論が有効に作用している証拠だ。

1517年にマキャベリは、場合によっては「狂人のようにふるまうことがきわめて賢い」やりかたであると論じている(『政略論』)。ただしジェフリー・キンボールは著書『ニクソンのベトナム戦争』 (Nixon's Vietnam War) において、ニクソンが狂人理論という戦略にたどり着いたのはマキャベリとは無関係であって、それまでの実務経験とアイゼンハワーによる朝鮮戦争の対応を観察した結果だと述べている[5][6]。
1962年に『考えられないことを考える』(Thinking About the Unthinkable) を出版したハーマン・カーンは、おそらく敵を下すには「少しぐらい狂っているようにみえる」ほうが有効ではないかという議論を行っている[7]。

このアリーナには証明がある

 筆者はこのアリーナバトルに毎日参加する中で、これは無限回繰り返し囚人のジレンマゲームであり、フォーク定理によればその均衡解は協調なので、たとえ談合しなくとも自然発生的な協調の雰囲気が醸成されていくのではないかと睨んでいた。

 ここで談合とは、中国勢がやっていると信じられていたアリーナで誰を狙うか外部で連携をとって話し合い、順位を不当に上げてその報酬すら順位操作によって山分けするというニュアンスの行為であり、ゲームのルール上明確に禁止と認識している。かつてチートも厭わない中国勢が結託してやっていると噂されていたが、筆者が観測したことは一度もなく、中国勢の熱意は日本勢と比べ物にならないくらい低かったので、まぁある種の外国人恐怖が作り出した流言のようなものと考えている。

 ここで論じたいのは、そのような不正な談合がなくても、闘争させるアリーナの中で協調のルールが自然成立してしまうことだ。
 たとえばBさんが8位指定席にありながら3位指定席のAさんを予約することが何日もなかったとしたら、AさんはBさんを殴りづらくなるだろう。なぜならAさんがBさんをターゲットに定めて一度でも履歴を付けてしまうと、それは『宣戦布告』のメッセージをBさんに送ってしまうことになるからだ。「なぜか殴られてもおかしくない位置にありながら一定期間ターゲットにされなかった」という観測される平穏を壊してしまうことはAさんにとって得になりにくい。
 ずっと相手から殴られていないのに相手の報酬に響くようなエグい殴りをするのは「遠慮はいりませんよ」と相手へのメッセージを発することになるが、いや遠慮はなるべくして欲しいのだ。騎士くんはアリーナに入れば周りに7人の敵がいるのだから、これ以上戦線拡大することは望ましくない。
 こうして「殴らないし殴られない」暗黙の共同戦線が張られてゆく。

 そうするとアリーナでぽっとでの新顔はめちゃくちゃ不利だ。「しがらみ」がないのでAさんやBさんやCさんやDさんからも狙われる、誰だって毎日顔を合わせる他の指定席よりは新参をターゲットにしたい。
 だによって新参がアリーナで良い順位を取り続けることはめちゃくちゃ難しくなる。それは効果的な防衛の仕方を知らないからでなく(効果的な防衛などそもそも無いのだ)、基本は初心者狙いという談合的な雰囲気が醸成されることによってである。
 しかし「みんなあいつを狙おう」と誰かが指さしたわけでない。これがルール違反という意味での談合とは違うところだ。暗黙のルールが形成されて、ゲーム理論に合致している限りは首謀者など想定する必要がない。

 世間のイメージとはちがって、アリーナは闘いの世界ではなくむしろ闘わない世界だ。自然界、あるいは自然状態という闘わない戦場。筆者もまた戦わないことによってより多くの長期的リターンを得た。

フォーク定理

有限回の囚人のジレンマでは非協力解が均衡解となる。しかし同じゲームでも無限回の繰り返しゲームになると協調解がナッシュ均衡として成立することが比較的早い段階で知られていたが、これは公式に発表されてこなかった。数学の諸分野では、「証明をつけようと思えばつけられると誰もが思っているが、実際には誰一人としてその証明をつけたことがない定理」のことを一般に folklore (民間伝承) と呼ぶので、この定理はフォーク (folk) 定理と呼ばれるようになった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AF%E5%AE%9A%E7%90%86

というわけでバトルアリーナとフォーク定理には密接な関係があるという話。プリコネのバリーナのことを3割程度も話せなかったし、プリーナに至ってはほぼまったく話せなかったので、いつかまたこの続きを書きたい。

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