#アドベントリレー小説 22日目
22日目 作:えっふぃ
『緋色のヒーロー』#22
「……って設定、どう?」
「いくらなんでも複雑すぎないか?」
「頑張れば理解できると思うんだよね。」
「いやいや、世界を救おうとした結果ループ構造に陥ったと思い込んでいる主人公が、実はループしていなくて、しかも物語の外側から干渉されていた……ってメタ構造はさすがに追いきれないだろ。おまけに固有名詞が多すぎる。」
「理解できてるじゃん。」
「それは我々が『緋色のヒーロープロジェクト』を作る側だからであってだな……ユーザーが山下ひろしの視点から全てを理解するのは不可能じゃないか?」
「どうして?」
「考えてみろ。物語世界の中に存在する登場人物が、物語世界の外側を知覚することってあるか?」
「劇とかゲームとかだったら、第四の壁に干渉することはあるんじゃない?」
「それは登場人物が本来物語世界の外側にいる観客を知覚できないはず、という共通認識を利用した表現技法だ。この共通認識を崩すのは難しいと思うぞ。」
「うーん……じゃあメタ構造を知っている登場人物を用意する?本来知り得ない情報を知っているキャラクターを登場させて、彼には物語の外側の世界と物語の中の世界を橋渡ししてもらう。二人ぐらい入れる?一人は特殊な研究員みたいな黒幕にして、でもう一人は……どんな人がいいかな?主人公の恋人とか?物語世界の外側に行った恋人を主人公が世界の裏まで追いかけに行ったら面白そうだよね。」
「それで主人公が構造を理解できるかは分からないな。試してみてもいいけど。ところで、仮に理解したとして、気づいたところでどうするんだ?」
「この真相を理解したら、恋人も世界も救えるってことにすればいいんじゃない?詳細は詰めてないけど。その辺りはアルファテストの様子を見ながら作ればいいかな、って。上手くいかなかったら設定変えればいいし。」
「はあ……ただでさえ見せかけのループの時点で設定が多いのに、どうやってこれを収束させるんだ?デウス・エクス・マキナでも使うのか?」
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どうやら、まだ気づけていないようだな。
タイチの声が全身に響く。
俺は、主人公なのか?
俺が見ているこの世界は、なんだ?
タイチとちひろは何を知っている?
考えつづけろ、戦いつづけろ。
たとえ世界が狂ったとしても。
#22 終
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