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部下のやる気を削ぐリーダーの5つの行動

こんにちは、広瀬です。前回は日本企業の国際競争力を低下させる「昭和の謎ルール」と言うタイトルで、日本のビジネスルールに対して批判的に考察しました。私の批判に触発され、リーダーの方々が立ち上がり、日本を良い方向にリードしてくれることを願っています。

今回は、善意を持って物事を良い方向へと導こうとするリーダーが、知らず知らずのうちに部下のやる気を削ぐ行動について考察したいと思います。リーダーとして活躍している皆さんも、きっと身に覚えがあるでしょう。また、リーダーではない方も、このような行動に遭遇した経験があるかもしれません。今回の内容が、リーダーの方々に新たな気づきを与えるきっかけとなることを願っています。さらに、リーダーではない方にとっても、この考察がリーダーの心にある善意を理解し、建設的な対話を促す一助となれば幸いです。
人間関係において、意図と結果が噛み合わないことはしばしばあります。善意で行動するがゆえにありがた迷惑となる場合も多々あります。そのような状況を理解し、乗り越えるためのヒントを提供できるように、このNoteではリーダーが犯しがちな5つの行動について詳しく考察していきます。

このNoteを書くきっかけとなった記事は、Nihar Chhayaというアメリカの大企業の経営者を指導しているエグゼクティブ・コーチが寄稿した「5つの善意ある行動がチームに与える悪影響」です。しかし、内容は期待外れだったため、このNoteでは何も引用していません。ハーバード・ビジネス・レビューでも、タイトルが良くても内容が伴わない記事はあります。

それでも「5つの善意ある行動」というテーマから、過去に自分が犯してきたことやリーダーシップ論を勉強していた時のケーススタディが走馬灯のように蘇りました。これらの経験を通じて得た教訓を、これから日本をリードしてくれる皆さんに情報共有したいと思います。自分自身の過ちを振り返りつつ、他山の石として皆さんのリーダーシップ向上に役立ててもらえれば幸いです。


はじめに

多くのリーダーは善意で部下をサポートしようとしますが、その行動が逆に部下のやる気を削いだり、不信感を抱かせたりすることがあります。このNoteでは、リーダーが善意のつもりで行う5つの行動がいかにして逆効果となるかを具体的に分析し、それを避けるためのアプローチについて考察します。
リーダーシップは、チームや組織の成功において重要な要素です。しかし、善意の行動が誤解を生んだり、逆効果をもたらしたりすることがあります。このような状況を避けるためには、リーダー自身がどのような行動が部下にどのような影響を与えるかを理解し、慎重に行動することが求められます。
リーダーシップの改善を目指すあなたにとって、これらの考察が改善のガイドになれば幸いです。

やってはいけない5つの行動

これから紹介する5つの行動は、多くのリーダーが陥りがちなものです。これらの行動を理解し、適切なアプローチに変えることで、チームのモチベーションを高め、信頼関係を築くことができるでしょう。それでは、具体的な例とともに各行動について見ていきましょう。

1. 過剰な管理(マイクロマネジメント)

リーダーが部下の業務や意思決定に過度に介入し、自由な作業や成長の機会を奪うことで、以下のような弊害が生じます。

  • 自立性の欠如
    部下が問題を解決する能力を育てる機会を奪い、依存心を助長します。これにより、部下の成長が阻害され、自己効力感(目標を達成するために必要な能力を自分が持っていると認識する心理状態)が低下します。

  • 信頼感の低下
    部下が常に監視されていると感じることで、リーダーへの信頼が損なわれ、職場の雰囲気が悪化します。

  • イノベーションの阻害
    自律性を奪うことで、部下の創造力や革新力が抑制され、新しいアイデアや方法を試す意欲が低下します。

2. 常に肯定的なフィードバックだけを与える

「人は褒めて育てる」という考え方を誤解しているリーダーが陥りやすい行動であり、良い点だけを強調し、改善点を無視することで、以下のような弊害が生じます。

  • リアリティの欠如
    常に肯定的なフィードバックを受けることで、部下は自分のパフォーマンスに対する現実的な評価ができなくなり、成長の機会を逃します。

  • 信頼感の低下
    部下はリーダーが真実を伝えていないと感じ、信頼関係が損なわれます。長期的には、フィードバック自体が軽視される可能性があります。

  • 問題の未解決
    ネガティブなフィードバックを避けることで、問題が放置され、改善の機会が失われ、パフォーマンスの向上が妨げられます。

3. 過度な期待やプレッシャーをかける

部下に対して不合理な目標や責任を課すことで、以下のような弊害が生じます。

  • 健康への影響
    過度なプレッシャーはストレスを引き起こし、精神的および肉体的な健康に悪影響を及ぼす可能性があります。結果として、病欠が増えることがあります。

  • チームダイナミクスの崩壊
    部下同士が過度に競争するようになり、協力的なチームワークが失われ、職場の雰囲気が悪化します。

  • バーンアウトのリスク
    過剰なプレッシャーにより、部下が燃え尽き症候群(バーンアウト)に陥り、長期的なパフォーマンス低下や離職のリスクが高まります。

4. 部下の意見を聞かない

リーダーが部下の視点やアイデアを無視し、意思決定や問題解決を自らのものだけで行おうとすることで、以下の弊害が生じます。

  • イノベーションの阻害
    部下の意見やアイデアを無視することで、新しい視点や創造的な解決策が見逃され、チーム全体の革新能力が低下します。

  • モチベーションの低下
    自分の意見が尊重されないと感じることで、部下のやる気が低下し、積極的に仕事に取り組む意欲が失われます。

  • コミュニケーションの断絶
    部下の意見を聞かないことで、リーダーと部下との間のコミュニケーションが断絶し、信頼関係が損なわれます。

5. 透明性の欠如

情報や意思決定の過程が部下に対して不透明であり、情報が適切に共有されないと、以下の弊害が生じます。

  • 不安と不信感
    重要な情報が共有されないと、部下は不安を感じ、リーダーに対する不信感が高まります。これにより、職場の一体感が損なわれます。

  • 意思決定の質の低下
    情報が不足しているため、部下が自分の役割を十分に理解できず、適切な意思決定を行うことが難しくなります。

  • 責任感の欠如
    透明性がないと、部下が自分の仕事に対して責任を感じにくくなり、結果としてパフォーマンスが低下します。

ケーススタディー

リーダーシップの実践において、理論と現実の間にはしばしばギャップが生じます。そこで、私の実体験を元にした具体的なケーススタディーをいくつか紹介します。これらのケースは、リーダーが善意で行った行動がどのようにして逆効果となり、部下のやる気を削ぐ結果となったかを具体的に示しています。これらの実例を通じて、リーダーシップの課題とその改善方法について、より深く理解していただけることを願っています。

1.過度な管理とプレッシャー

面倒見がよく熱い人ほど陥りやすい罠。

背景
広瀬さんは、プログラミングスキルと管理能力の両方で社内外から高い評価を受けているプロジェクトマネージャーです。広瀬さんは、新しい大規模システム開発プロジェクトのマネージャーに任命されました。このプロジェクトには、スキルの高い若手エンジニアのA君と、プログラミングが苦手なB君がチームメンバーとして参加しています。

プロジェクト開始
プロジェクトが始まると、広瀬さんは毎日各メンバーの進捗を確認し、技術的なレビューとアドバイスを欠かしませんでした。特にA君には高い期待を寄せ、彼の能力を最大限に引き出そうと、他のメンバー以上に声をかけました。一方で、B君はロジカル思考が苦手で進捗に問題があったため、広瀬さんは他のメンバーにB君をフォローするように指示しました。しかし、フォローするメンバーの進捗が遅れることを恐れた広瀬さんは、最終的に自分がB君を直接フォローすることに決めました。

プロジェクト中盤
プロジェクトが中盤に差し掛かった頃、広瀬さんはチームの雰囲気に異変を感じ始めました。A君とB君の態度が明らかに変わり、他のメンバーも同様の状態でした。不安を感じた広瀬さんは、1 on 1ミーティングを実施し、各メンバーの意見を直接聞くことにしました。

1 on 1ミーティング
A君とのミーティングで、広瀬さんは驚くべき事実を知りました。A君は「広瀬さんのマイクロマネジメントのお陰で自分の思い通りに仕事ができず、やる気が無くなりました」と告白しました。広瀬さんの過度な管理が、A君の自主性と創造性を奪い、結果として彼のモチベーションを低下させていたのです。次にB君とのミーティングで、広瀬さんはさらに深刻な問題に直面しました。B君は「広瀬さんの直接のフォローに相当のプレッシャーを感じ、心が壊れてしまいました」と訴えました。広瀬さんの過度な期待とプレッシャーが、B君の精神的な健康を蝕んでいたのです。

プロジェクトの結末
他のメンバーも同様の状態で、広瀬さんの孤軍奮闘が裏目に出てしまったことが明らかになりました。広瀬さんの意図は善意に基づいていましたが、結果的にチームの士気を低下させ、パフォーマンスを著しく悪化させてしまいました。プロジェクトは遅延し、品質も悪く、最終的には大失敗に終わりました。

教訓
このケーススタディーから学べることは、リーダーの過度な管理や期待が、部下の自主性や精神的健康に悪影響を与える可能性があるということです。リーダーは部下に信頼と自由を与え、彼らの成長と自立を促すべきです。

2.常に肯定的なフィードバックと透明性の欠如

「人は褒めて育てる」を勘違いしている人、自分の無知を知られたくない人が陥りやすい罠。

背景
広瀬さんは、社内外で高い評価を受けるITコンサルタントです。彼は現在、クライアントの経営を支援するためのIT戦略を策定するプロジェクトに参加しています。このプロジェクトの全体責任者は経営コンサルタントのAさんであり、プロジェクトチームは広瀬さんを含む4人で構成されています。

プロジェクト開始
プロジェクトが始まり、Aさんと広瀬さんはクライアントとの打ち合わせに出席しました。打ち合わせの帰り道で、Aさんは広瀬さんの要件分析インタビューの受け答えを褒めちぎります。しかし、広瀬さんはAさんのお世辞であることを感じ取り、クライアントから「それはAさんに説明済みなので…」とネガティブな反応があったことが気にかかるとAさんに伝えました。Aさんは「今はまだ気にすることはない」と回答を濁します。

広瀬さんの不安
広瀬さんはAさんに頼っても仕方がないと感じ、直接クライアントに質問を投げて良いかAさんに相談しましたが、Aさんはいい顔をしませんでした。Aさんが広瀬さんに何かを隠しているように見え、広瀬さんのAさんに対する不信感が募ります。

プロジェクト進行
プロジェクトが進む中、IT戦略の要件分析において、Aさんから「今はまだ気にすることはない」と言われた部分が残作業となりました。Aさんからの説明がなく、広瀬さんはAさんと情報交換がうまくいかないため、恥を承知でクライアントにもう一度説明を依頼しました。その結果、全てがクリアになりました。

広瀬さんの行動と結果
広瀬さんは、Aさんがなかなか説明してくれない理由も薄々理解しましたが、彼の行動はAさんのプライドに傷をつける結果となりました。その後、Aさんと広瀬さんの人間関係にも少しヒビが入りました。しかし、IT戦略の策定と要件分析は無事に終わり、クライアントに迷惑をかけることなく、このプロジェクトは成功裏に終了しました。

教訓
このケーススタディーから学べることは、リーダーが常に肯定的なフィードバックを与えたり、情報を隠したりすることで、チーム内の信頼関係やプロジェクトの進行に悪影響を与える可能性があるということです。リーダーは透明性を持ち、部下の意見やフィードバックを尊重し、適切なタイミングで正確な情報を提供することが重要です。広瀬さんの経験は、リーダーシップの改善に向けた重要な教訓となります。

3.部下の意見を聞かない

「俺じゃなきゃダメだ!!」「俺がリーダーだ!!」と残念な勘違いをしている人が陥りやすい罠。

背景
広瀬さんは、社内外で高い評価を受けるITコンサルタントです。彼は現在、クライアントの業務プロセスを改善するプロジェクトに参加しています。このプロジェクトの全体責任者は経営コンサルタントのAさんであり、プロジェクトチームは広瀬さんを含む4人で構成されています。Aさんはこれまで数多くのプロジェクトを成功に導いてきた実績がありますが、彼のリーダーシップスタイルには問題がありました。

プロジェクト開始
プロジェクトが始まるとすぐに、広瀬さんはAさんが自分の意見を全く聞かないことに気づきました。Aさんは全ての意思決定を自分一人で行い、他のメンバーからの意見やアイデアを無視しています。広瀬さんは、クライアントのニーズに合わせた新たな業務プロセスを提案しようとしましたが、Aさんは「まだ考えが浅い!」と一蹴します。

広瀬さんの提案
その後広瀬さんは、クライアントの要望をさらに深掘りした斬新な業務プロセスを提案しようとします。彼はその業務プロセスがクライアントの業務効率を大幅に向上させると確信していますが、Aさんは「そう言う提案は俺がやる、お前は俺の言う通りに手足を動かせば良い!!」と取り合いませんでした。広瀬さんは、クライアントとの打ち合わせで得た情報を基に提案を考えたため、非常に失望しました。

チームの不満
チーム内の他のメンバーも同様に、Aさんの一方的な意思決定に不満を抱いていました。B君は、「Aさんの指示通りに進めても、プロジェクトが成功するか不安だ」と広瀬さんに打ち明けました。Cさんも、「私たちの意見が全く反映されないので、モチベーションが下がっている」と感じていました。

プロジェクトの進行
プロジェクトが進むにつれ、Aさんの一方的な意思決定によって問題が次々と発生しました。広瀬さんの代わりにAさんが提案した新しい業務プロセスも検討時期が大幅に遅れ、クライアントの要望に応えることができませんでした。その結果、クライアントからの信頼を失い、プロジェクトは遅延し、追加のコストが発生しました。

広瀬さんの行動と結果
広瀬さんは、プロジェクトが危機に瀕していることを認識し、チーム全員を集めて意見交換の場を設けました。広瀬さんは、Aさんに対してチーム全員の意見を尊重し、透明性を持った意思決定を行うように提案しました。しかし、Aさんはこれに反発し、「俺がリーダーだ。俺の指示に従え!」と態度を変えません。また、クライアントからの信頼失墜、プロジェクト遅延によるコスト増に関しては、何も責任を感じていないようでした。

教訓
このケーススタディーから学べることは、リーダーが部下の意見を無視することで、チームのモチベーションが低下し、プロジェクトの成功が危うくなるということです。リーダーは、部下の意見やアイデアを尊重し、全員が参加できる意思決定プロセスを確立することが重要です。また、リーダーの選出にはその人の人格も十分考慮に入れたほうが良いでしょう。

まとめ

今回は私の経験を元にしたケーススタディーをデフォルメしてご紹介しました。ストーリーテリングというにはまだまだ未熟かもしれませんが、このようにストーリーとして記述すると、箇条書きの内容が人間味を帯び、比較的記憶に残りやすくなります。この手法はデジタル・マーケティングのペルソナ作成と共通点があり、人々の共感を引き出す点で似ています。また、Effectuationの「Crazy Quilt」の原則に基づき、これから新しいことを始める際にも、やってはいけない5つの行動ストーリーテリングの方法が役立つのではないでしょうか。人々が共感できる物語を通じて、リーダーシップの改善やチームの成功に繋がるヒントを得ていただければ幸いです。


次回予告

リーダーシップには、時と場合やプロジェクトの目的に応じて使い分けるべき「型」があることをご存知でしょうか?リーダーシップは長年にわたり研究され、その概念は時代と共に変化・進化してきました。次回は、さまざまなリーダーシップの「型」について詳しく探っていきます。それぞれのリーダーシップの「型」がどのような状況で最も効果的かを具体的に解説し、皆さんが自身のリーダーシップを最適に発揮できるよう情報共有します。あなたのリーダーシップがさらに磨かれることを期待して、次回もお楽しみに。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
すこしでも、あなたの参考になれば幸いです。

広瀬 潔.

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広瀬 潔(HBR Advisory Council Member)
いつも読んでいただき、ありがとうございます。この記事が少しでもお役に立てたら嬉しいです。ご支援は、より良い記事作成のために活用させていただきます。