
新歳時記より 5月の季語
夏(なつ):島の夏・夏の寺・夏の宮
開け広げ重たき扉夏の寺
立夏(りっか):夏に入る・夏来る
昨日脱ぐけふ一枚と夏の来て
五月(ごぐわつ)
刈草の川に流るる五月かな
初夏(しょか):初夏(はつなつ)
初夏の水溜り染む逆さ富士
5/2
卯月(うづき)
北国また舞ふ今宵卯月寒
卯浪(うなみ)
中田島ひっくりかえり卯浪かな
牡丹(ぼたん):ぼうたん・白牡丹・緋牡丹・牡丹園
珍しや父の暴投牡丹へと
更衣(ころもがへ)
更衣電車が窓の白くなり
5/3
袷(あはせ):素袷・初袷・古袷・絹袷・袷時
袷着て廊下を避けて畳部屋
白重(しろがさね)
幼子や飴舐め縋り白重
鴨川踊(かもがはをどり)
芸子連鴨川踊出番待つ
餘花(よくわ)
白々と庇へ餘花の雨の打つ
5/4
葉桜(はざくら)
ぽたぽたと葉桜育て粒の打つ
菖蒲葺く(しやうぶふく):菖蒲引く・菖蒲刈る・軒菖蒲・蓬葺く・棟葺く・かつみ葺く
菖蒲葺く余裕たっぷり廃墟かな
端午(たんご):重五・菖蒲の節句・菖蒲の日
ゲーム機や絵本手放し端午の日
5/5
菖蒲(しやうぶ)
女房の溢れて菖蒲湯浴みかな
武者人形(むしやにんぎやう):五月人形・兜人形・飾り兜・武具飾る・馬具飾る
武者人形納戸座敷と苦行なり
5/6
幟(のぼり):外幟・内幟・座敷幟・初幟・五月幟・紙幟・幟竿・幟杭
晴れがまし親父の気合幟建ち
吹流し(ふきながし)
蛸の如竿締め付けて吹流し
鯉幟(こひのぼり):五月鯉
格好のトンネル遊び鯉幟
5/7
矢車(やぐるま)
風あたる矢車の音闇の中
粽(ちまき):茅巻・笹粽・菰粽・葦粽・菅粽・飴粽・飾粽・粽結ふ
まんぱちや粽の中に湯気のあり
柏餅(かしはもち)
葉を採りて洗い渡して柏餅
菖蒲湯(しやうぶゆ):菖蒲風呂
妻と吾子二本浮かべて菖蒲湯
5/8
薬の日(くすりのひ):薬草摘・百草摘・薬狩・薬採
まんぱちの湯気の匂ひや薬の日
薬玉(くすりだま):長命縷(ちょうめいる)
薬玉やかをりに届け猫の鼻
新茶(しんちゃ)
奥座敷新茶一服昼寝あと
古茶(こちや)
煮えたぎる注ぐ土瓶や古茶の味
5/9
風爐(ふろ):風爐手前
風爐手前しびれ具合とかをり哉
上簇(じょうぞく):上簇團子・上簇(あがり)
幼子や上簇前の肌の色
繭(まゆ):繭掻く・新繭・白繭・黄繭・屑繭・玉繭・繭籠・繭買・繭売る・繭干す
繭運ぶリヤカーに乗る弟も
5/10
絲取(いととり):絲引・絲取女・絲引女・絲取鍋・繭煮る・絲取歌
湯気上がる手捌き早し絲取女
蠶蛾(さんが):蠶の蝶
不甲斐なき短冊千切り蠶蛾如
袋角(ふくろづの)
密を避け袋角行く東大寺
松蝉(まつぜみ):春蝉
松蝉や坂下りきり竹林
5/11
夏めく(なつめく)
開け広げ夏めく生地が広がりぬ
薄暑(はくしょ)
電子音薄暑の朝ドア閉む
セル
百貨店セル着て母が紙袋
ネル
緋色へとネルの腰巻箪笥へと
夏場所(なつばしょ):五月場所
夏場所や翠の富士の晴れる日々
5/12
芭蕉巻葉(ばせうまきば):玉巻く芭蕉
大廻り玉巻く芭蕉避けて庫裏
玉巻く葛(たままくくず)
歩道へと玉巻く葛が田から伸ぶ
苗売(なへうり)
苗売屋終えて建つ海の売店
瓜苗(うりなへ)
瓜苗や大きく虹をつくるジョロ
胡瓜苗(きうりなへ)
自慢顔言われて籠へ胡瓜苗
5/13
茄子苗(なすなへ)
茄子苗や棘棘避けて掴み植う
茄子植う(なすうう)
根切蟲憎らしもなく踏みつけて
練供養(ねりくやう):来迎會・迎接會
練供養光る頭の通りゆく
5/14
葵祭(あふひまつり):青い鬘・諸鬘・賀茂祭
ニュース告ぐ葵祭が晴挙行
祭(まつり):陰祭・夜宮・宵宮・宵祭・神輿・樽神輿・山車・地車・祭禮・渡御・御旅所・神輿舁・舟渡御・祭舟・祭前・祭あと・祭笛・祭太鼓・祭獅子・祭囃・祭提灯・祭笠・祭客・祭見・祭髪・祭衣・祭宿・祭町
提灯を揚げて晴れ呼ぶ祭かな
安居(あんご):一夏・夏籠・夏行・前安居・中安居・後安居・結夏・結制・夏断・夏勤・夏入・雨安居
雨安居回廊巡る素足かな
5/15
夏花(げばな):夏花摘
棲家へと一夜限りと夏花摘
夏書(げがき):夏経
煩悩をどこぞ置き忘れ夏書かな
西祭(にしまつり)
墨の滲み扇は風に西祭
若楓(わかかえで)
築山へ若楓が影橋渡り
新樹(しんじゅ)
先は月標識覆ふ新樹かな
5/16
新緑(しんりょく):緑
新緑へ染めてYシャツ潜りゆく
若葉(わかば):谷若葉・里若葉・若葉風・若葉雨
プラタナス若葉が風に戦跡
柿若葉(かきわかば)
柿若葉作る日影の柔らかき
樫若葉(かしわかば)
タイムアップナイターに消ゆ樫若葉
5/17
椎若葉(しひわかば)
基地の山もくもく出り椎若葉
樟若葉(くすわかば)
指に着くやさしくにをひ樟若葉
常盤木落葉(ときわぎおちば)
庭の色常盤木落葉敷きし朝
樫落葉(かしおちば)
かさかさと朝から忙し樫落葉
5/18
椎落葉(しひおちば)
読み解きし句碑を囲みて椎落葉
樟落葉(くすおちば)
はらはらとおうどを埋めて樟落葉
松落葉(まつおちば):散松葉
松落葉乙女の如し煙まく
杉落葉(すぎおちば)
着火みて竈の番や杉落葉
夏蕨(なつわらび)
背の高き見向きもされぬ夏蕨
5/19
筍(たけのこ):たかうな・たかんな・笋・竹の子
笋や下から脱いで艶めかし
篠の子(すずのこ):笹の子
石垣の篠の子採らぬ堅さかな
筍飯(たけのこめし)
節々の続く姿筍飯
蕗(ふき):蕗の葉
くろぐろと蕗の皮剥く太い指
5/20
藜(あかぎ):藜の杖
登り口藜の杖の品選び
蠶豆(そらまめ):蠶豆引
蠶豆や期待裏切る太き莢
豌豆(ゑんどう)
豌豆や午后の縁側筋をとる
豆飯(まめめし)
鎌の蓋蒸気の届く豆飯(ごはん)
5/21
濱豌豆(はまゑんどう)
ウォーキング濱豌豆が中田島
芍薬(しやくやく)
自慢顔芍薬を植う午后の父
都草(みやこぐさ)
墓の吾子孫をあやすか都草
踊子草(をどりこさう)
並べ石玄関まで踊り子草
5/22
文字摺草(もじずりさう)
放棄地へ絡みつくか文字摺草
羊蹄の花(ぎしぎしのはな)
ぎっしりと羊蹄の花堤色
擬寶珠(ぎぼうし):花擬寶珠・ぎぼし
たわむれにぎぼしの首の跳ねる距離
げんのしょうこ
軒先のげんのしょうこにほひ増し
5/23
車前草の花(おほばこのはな)
扱げ扱げど車前草の花絶えぬ庭
罌粟の花(けしのはな):芥子の花・白罌粟・罌粟畑
ドラフトの流れる窓辺罌粟の花
雛罌粟(ひなげし):虞美人草
廃屋の虞美人草が咲き乱れ
罌粟坊主(けしぼうず)
風吹けど僅かに揺れて罌粟坊主
5/24
鐡線花(てつせんか)
来る人の数を数えて鐡線花
忍冬の花(すいかづらのはな)
道覆ふ藪のかをりか忍冬
韮の花(にらのはな)
よみがえる更地を占めて韮の花
野蒜の花(のびるのはな)
堤にも野蒜の花の場所のあり
5/25
棕櫚の花(しゅろのはな)
見上げれど逆光の中棕櫚の花
桐の花(きりのはな)
花桐や駆けランドセル
朴の花(ほほのはな):厚朴の花
大鉢に盛りて一杯朴の花
泰山木の花(たいざんぼくのはな)
ぼつぼつと泰山木の花が雨
大山蓮華(おほやまれんげ):天女花
明日開花大山蓮華蕾の音
繡毬花(たまりばな)
ぺちゃくちゃと子供の歩き繡毬花
アカシヤの花
冷たくてアカシヤの花雨の打つ
金雀枝(えにしだ)
金雀枝の箒は長き造り風
5/26
薔薇(ばら)
鋏の音いかつい親父薔薇の園
茨の花(いばらのはな):野茨の花・茨の花・花茨
土手の上茨の花のトンネル
卯の花(うのはな):花卯木・山うつぎ・卯の花垣
今盛り卯の花垣の廃墟かな
卯の花腐し(うのはなくだし)
抗へど卯の花腐し犬散歩
5/27
袋掛(ふくろかけ)
膨らまし話すことなく袋掛
海酸漿(うみほほづき)
頬左右海酸漿の姉の顔
蝦蛄(しやこ)
ぶりぶりと仄かに海が蝦蛄の鮨
穴子(あなご)
信州蕎麦この地で食らうふ穴子天
5/28
鱚(きす):鱚釣
休ませず餌は動かせ鱚の釣
鯖(さば)
豊漁やしめ鯖友へおすそわけ
飛魚(とびうを)
真っ黒焦げ飛魚が鬢何処にぞ
山女(やまめ)
山気分山女串刺しグリル焼き
5/29
綿蒔(わたまき):綿蒔く
カステラより柔らかき畝綿を蒔く
菜種刈(なたねがり):菜種刈る・菜種干す・菜種打つ・菜種殻・菜殻火・菜種
ゆさゆさと溢さぬように菜種刈
麥(むぎ):大麥・小麥・麥の穂・穂麥
心地よき麦の穂撫でて帰り道
黒穂(くろほ):黒ん坊・麥の黒んぼ
帰り道黒穂を武器に見つけ出し
麥笛(むぎぶえ)
びゃーべーと麥笛鳴らせ三年生
麥の秋(むぎのあき)
清々し鳥は掠めて麥の秋
5/30
麥刈(むぎかり)
麥刈や競ふ相手は母とだけ
麦扱(むぎこき):麥扱機
日照り庭うをんうをんと麥扱機
麥打(むぎうち):麥埃
麥打唄同じ所を繰り返し
麥藁(むぎわら)
麥藁をあまに納めて昼湯かな
5/31
麥藁籠(むぎわらかご)
捻じり立つ麥藁籠を編む夕べ
麥飯(むぎめし)
麥飯を一粒づつ跳ねのけて
穀象(こくざう)
明るさに穀象もぐる桝の中