新歳時記より 3月の季語
三月(さんぐわつ)
庭掃除釦外そか三月
如月(きさらぎ)
如月のショーケースや和菓子色
此花踊(このはなをどり)
捲る暦此花踊始まりぬ
二日灸(ふつかきう):ふつかやいと
連れあいて煙る寺へと二日灸
雛市(ひないち):雛店
迷わずに孫にこれをと雛の市
桃の節句(もものせつく):上巳・上巳(じやうみ)・桃の日
毛氈へ桃の節句の光かな
雛(ひな):ひひな・雛遊・雛飾る・初雛・古雛・内裏雛・土雛・紙雛・雛壇・雛箱・雛の宴・雛の客・雛の宿・雛流し・雛納め
華やかな雛を待たずに吾子のゆく
白酒(しろざけ):桃の酒
育ちたり白酒を注ぐ孫娘
菱餅(ひしもち)
菱餅に美味し幻想かたくなに
曲水(きょくすゐ):曲水の宴・流觴・盃流し・巴字盞
万葉の森曲水の水をはり
鶏合(とりあはせ):闘鶏
籠の揺れ眼ランラン鶏合
闘牛(とうぎう)
闘牛へモウと一声川辺道
春の雪(はるのゆき):淡雪・春雪(しゆんせつ)
黒電話東京はまだ春の雪
初雷(はつらい):蟲出
初雷や蚊帳は納戸の奥の奥
春雷(しゅんらい):春の雷
逃げ込んで待て度来ぬ人春の雷
啓蟄(けいちつ):地蟲穴を出づ・地蟲出づ・蟻穴を出づ・地蟲
啓蟄や丸くなり絵葉書の角
蛇穴を出づ(へびあなをいづ)
おりて許可蛇穴を出づ造成地
東風(こち):強東風・朝東風・夕東風
東風吹けば太宰府むかふ密の道
春めく(はるめく)
春めくや待つ人もなく喫茶店
伊勢参(いせまゐり):おかげまゐり・脱参
自治会の役目果たして伊勢参
春の山(はるのやま)
追わずとも誘われ獣春の山
山笑ふ(やまわらふ)
発破音ダンプが通り山笑ふ
水温む(みずぬるむ):温む水
水温む蛙の卵揺らめきて
春の水(はるのみず):水の春・春水
水草や底まで透す春の水
蜷(にな):蜷の道・みな
二本線誰を辿るか蜷の道
田螺(たにし):田螺鳴く・田螺取
つぼ取や長靴履こか履かまいか
田螺和(たなしあえ):田螺汁
白黒と鴉と競ひ田螺和
蜆(しじみ):蜆採・蜆搔・蜆舟・蜆売・蜆汁
朝靄や声が届くか蜆売
烏貝(からすがひ)
一個だけ底まで澄みて烏貝
大試験(だいしけん)
配られて早鐘を打つ大試験
蒪生ふ(ぬなはおふ)
二俣を眺めて句碑の蒪生ふ
水草生ふ(みずくさおふ):みくさ生ふ・萍生ふ
小川にも水草生ひて隠れ場所
春田(はるた)
SLの警笛遠く春田かな
春の川(はるのかわ):春江
春の川光の粒を鏤めて
諸子(もろこ):はつもろこ
狢川餌をつけれて釣る諸子
柳鮠(やなぎはえ)
光る粒うきが動きや柳鮠
子持鯊(こもちはぜ)
佃煮や味格別と子持鯊
若鮎(わかあゆ):小鮎・鮎の子
水光る若鮎遡上堰の道
鮎汲(あゆくみ)
鮎汲や跳ねる響きに指しびれ
上り簗(のぼりやな)
上り簗下してあげぬ鮎が群
春日祭(かすがまつり)
温き風春日祭が神輿ゆく
御水取(おみずとり):水取
輻射熱受けて今年も御水取
御松明(おたいまつ)
梢越火の粉が見えて御松明
西行忌(さいぎょうき)
奥山の雪の残りの西行忌
涅槃(ねはん):涅槃會・涅槃図・寝釈迦・涅槃の日・常楽會
感嘆や境内かかげて涅槃かな
涅槃西風(ねはんにし)
甘酒のかをり誘われ涅槃西風
雪の果(ゆきのはて):名残の雪・雪の別れ・忘れ雪
窓越しに別れ告げゆく雪の果
鳥帰る(とりかへる):鳥雲に入る・鳥曇・帰る鳥・小鳥引く
スカイツリー陣形V字鳥帰る
引鶴(ひきづる):帰る鶴・鶴帰る・残る鶴
引鶴や山上に消え北の窓
引鴨(ひきがも):鴨帰る・帰る鴨・行く鴨・残る鴨
潜る場所けふも変わらず残る鴨
帰る雁(かへるかり):帰雁・雁帰る・行く雁・雁の別れ・春の雁
雨あがり月の中行く帰る雁
雁風呂(がんぶろ):雁供養
雁風呂や北の山にも月の照り
治聾酒(がろうしゅ)
治聾酒や直会直後声の良さ
彼岸(ひがん)
神主の家々巡り彼岸かな
彼岸詣(ひがんまゐり):彼岸会・彼岸団子
祖父を追ひ彼岸詣が蕎麦の味
彼岸桜(ひがんざくら):枝垂桜・絲桜
校庭に彼岸桜の残りけり
開帳(かいちやう):出開帳
山の上三々五々に御開帳
大石忌(おおいしき)
提灯のかけずに灯り大石忌
貝寄風(かひよせ):貝寄
貝寄風や波打ち際の泡はじく
暖か(あたたか):ぬくし
ぬくし昼イーゼル立てて握り飯
目貼剥ぐ(めばりはぐ)
ご苦労の一言もなく目貼剥ぐ
北窓開く(きたまどひらく)
誘う声北窓開く昼下り
爐塞(ろふさぎ):爐の名残・春の爐
煤積もる鯛の横木や爐の名残
炬燵塞ぐ(こたつふさぐ)
天気図や炬燵塞ぐは未だ寒き
春炬燵(はるごたつ)
スマホ見る足の置き場所春炬燵
捨頭巾(すてづきん)
お気に入り柄はこれから捨頭巾
雉(きじ):雉子・きぎす・雉笛
帽子へと舞い降りてきて雉の羽根
駒鳥(こまどり):こま・知更鳥
駒鳥が声の横切り棚田かな
鷽(うそ)
鷽啼きて調整池の光りだし
雲雀(ひばり):雲雀笛・揚雲雀・落雲雀・夕雲雀・雲雀野・雲雀籠
鳴く雲雀PA(パーキングエリア)気忙しく
燕(つばめ):乙鳥・つばくろ・つばくら・つばくらめ・燕来る
つばくろや彩り傘のすれすれに
春雨(はるさめ):春霖・春の雨
春雨や濡れどいとわぬ儀仗兵
春泥(しゆんでい):春の泥・春の土
水溜り避けて柔らか春の泥
ものの芽(もののめ)
ものの芽の伸びて野原のひとつ色
草の芽(くさのめ):名草の芽、菊、朝顔、萩、桔梗、菖蒲、芍薬、百合等
百合の芽か土押しのける勇ましさ
牡丹の芽(ぼたんのめ)
牡丹の芽今年も咲くと愛でし父
芍薬の芽(しゃくやくのめ):目芍薬
ぐんぐんと芍薬の芽の膨らみぬ
菖蒲の芽(しやうぶのめ)
枯草を引き連れひとつ菖蒲の芽
蘆の角(あしのつの):蘆の芽・角ぐむ蘆
にょきにょきと陣形見せて蘆の角
角組む萩(つのぐむはぎ)
踏み入れぬ角組む萩の河原かな
菰の芽(こものめ):芽張るかつみ
にょきにょきと芽張るかつみがやわきとは
耕(たがやし):耕人・耕馬・耕牛(かうぎう)
耕牛や長閑に聞こゆ日曜日
田打(たうち):田を鋤く
父田打子ら並びて土手の上
畑打(はたうち)
畑打や鍬に貼りつく土黒し
種物(たねもの):種物屋・種売・花種・物種
うんちくを並べ売ろうか種物屋
苗床(なへどこ):種床
ふわふわへそろり苗床並ぶ穴
花種蒔く(はなたねまく)
小石取花種を蒔く窓の下
鶏頭蒔く(けいとう)まく
此処は密鶏頭を蒔く場所探し
夕顔蒔く(ゆふがほ)まく
種仕入れ夕顔蒔けば日が暮れて
糸瓜蒔く(へちま)まく
孔点々長々し床糸瓜蒔く
胡瓜蒔く(きうり)まく
もめごとや上か横かと胡瓜蒔く
南瓜蒔く(かぼちゃ)まく
大幅に位置を定めて南瓜蒔く
茄子蒔く(なす)まく
この味を嫁に教えず茄子を蒔く
牛蒡蒔く(ごぼう)まく
深耕や曲がらぬ願い牛蒡蒔く
麻蒔く(あさ)まく
午前から麻蒔く指の監視され
芋植う(いもいうう)
灰を撒き芋植う手が早き事
種芋(たねいも):芋の芽
種芋よ大きくなれよ土かをる
菊根分(きくねわけ):菊植う・菊分つ
展覧会目指し金賞菊根分
菊の苗(きくのなえ)
パレットや水たっぷりと菊の苗
萩根分(はぎねわけ)
生い茂り覆ふトンネル萩根分
菖蒲根分(しやうぶねわけ)
絶えて消ゆ菖蒲根分怠りぬ
苗札(なえふだ)
見る人なく苗札を刺す意味ありや
木の芽(このめ):芽立ち・木の芽時・木の芽風・木の芽吹く
突然の忙しと動き木の芽時
芽柳(めやなぎ):芽ばり柳・柳の芽
芽柳やぽっくり響き朝稽古
接骨木の芽(にはとこのめ)
二つだけ接骨木の芽の美味きこと
楓の芽(かえでのめ)
紅が我先と出で楓の芽
桑の芽(くわのめ)
桑の芽や風を通して無双窓
薔薇の芽(ばらのめ):茨の芽
薔薇の芽や色を隠して膨らみぬ
蔦の芽(つたのめ)
漆喰塀やわき蔦の芽開き初む
楤の芽(たらのめ):多羅の芽
楤の芽とおそるおそるがキャンプ飯
山椒の芽(さんせうのめ):さんしょのめ
冷奴山椒の芽の伸びて庭
田楽(でんがく):木の芽田楽
田楽へ青竹に刺す蒟蒻屋
木の芽和(きのめあへ)
陶磁器に装いてみたり木の芽和
靑饅(あおぬた)
酢味噌の香靑饅を盛る夕餉かな
枸杞(くこ):枸杞摘む
枸杞を摘む遠き口笛犬の息
五加木(うこぎ):五加木摘む・五加木飯
揃いたり囲む卓袱台五加木飯
菜飯(なめし)
ぶらり旅海辺の席の菜飯哉
目刺(めざし)
ありつきて涙の滲みて目刺かな
白子干(しらすぼし)
海辺へと夫思い出し白子干
干鱈(ひだら):棒鱈・ほしだら
木槌の音干鱈が皮しょっぱくて
鰆(さはら)
潮に乗り警笛遠き鰆船
鯡(にしん):鰊雲・鰊・鰊群来(にしんくき)
大漁の唄今聞けず鰊宿
鱒(ます)
古ピアノメロディーは鱒駅の中
鮊子(いかなご):かますご
鮊子や甘き佃煮照り返す
飯蛸(いひだこ)
飯蛸や砕けぬ皮が噛めば噛め
椿(つばき):山椿・藪椿・白椿・乙女椿・八重椿・つらつら椿・落椿
丘の上人待ち顔の椿かな
莖立(くくたち)
葱坊主のけて葉物の莖立てり
独活(うど):芽独活・山独活
高く伸ぶキャンプはグルメ摘む芽独活
松葉独活(まつばうど):アスパラガス
生い茂るアスパラガスが畑のくろ(隅)
慈姑(くわゐ):壬生慈姑・慈姑掘る
黒い土ずらりと並び慈姑かな
胡葱(あさつき):絲葱・千本分葱
胡葱や洗ふ水道カルキけり
野蒜(のびる)
赤味噌と白き野蒜の青い茎
韮(にら)
韮買えばレバーゾーンを捜しけり
蒜(にんにく):葫・忍辱
蒜の匂い溢れて餃子詰
接木(つぎき):接穂・砧木
老木やたわわ夢見て接木かな
取木(とりき)
ぐるぐると遥か高くに取木かな
挿木(さしき):挿穂
鹿沼土水たっぷりと挿木かな
苗木植う(なえぎうう)
この年の想いでもなく苗木植う
桑植う(くわうう)
桑植う子の枝秋は子に喰わせ
流氷(りうひょう)
流氷や果てまで白きオホーツク
木流し(きながし)
木流しや泡立てやわき音落ちて
厩出し(うまやだし)
朝日中土の光りの厩出し
垣繕ふ(かきつくろふ)
父の髪ぼさぼさの垣を繕ふ
屋根替(やねがへ):葺替
葺替やまず朝食で始まりぬ
大掃除(おほさうぢ)
外して戸裏まで見ぬけ大掃除
卒業(そつげふ):卒業式・卒業生
祝卒業赤い判子が通信簿
蓮如忌(れんにょき)
蓮如忌や竹の撓りて風の道
春の野(はるのの):春郊
春郊や来る人のあり他人なり
霞(かすみ):朝霞・昼霞・夕霞・遠霞・薄霞・棚霞・鐘霞む・草霞む
横並び電柱支え棚霞
陽炎(かげろふ):絲遊
陽炎や置いていきたしランドセル
踏靑(たふせい):靑きを踏む・あをきふむ
はあはあとたるまぬ鎖青木踏む
野遊(のあそび)
野遊やちょこちょこ歩き鎖解き
摘草(つみくさ):草摘む
摘草や雲の払われ我先と
嫁菜摘む(よめなつむ)
端っこへ挨拶もなく嫁菜摘み
蓬(よもぎ):蓬摘・艾草・餅草・蓬摘む
摘む指の色と匂いの蓬かな
母子草(ははこぐさ):はうこぐさ
小麦粉をまぶして如き母子草
土筆(つくし):つくづくし・つくし摘む
築山へ石橋を吾子つくし摘む
蕨(わらび):早蕨・蕨狩・干蕨
消え去りぬ家建ち並び蕨摘み
薇(ぜんまい)
薇や坂の途中の競い合い
芹(せり):芹摘
水温し追ひて小魚芹摘ぬ
三葉芹(みつばぜり):みつば
茶碗蒸し母の慌ててみつば摘む
防風(ばうふう):防風採・防風掘る
防風や洗ひ洗へど砂のあり
小水葱摘む(こなぎつむ):細水葱(ささなぎ)
虚子編新歳時記
「小水葱摘む(こなぎつむ):細水葱(ささなぎ)羮などにし供御などにも奉ったもので今は無い」とあり例句もなくお手上げ状態。今回はパスにするか
菫(すみれ):菫草・花菫・菫野
アスファルト裂け目掻き分け菫咲く
蒲公英(たんぽぽ):鼓草
蒲公英のグリーンベルト北の道
紫雲英(げんげ):五形花(げげばな)・げんげん・蓮花草
牛の啼く紫雲英田圃の吾子の呼ぶ
苜蓿(うまごやし):クローバ
唄い立つグラバー邸の苜蓿
蘩寠(はこべ):はこべら
蘩寠持つからの鳥籠羽根黄色
薺の花(なづなのはな):三味線草・ぺんぺん草
遊ぶ吾子ぺんぺん草をくるくると
酸葉(すいば):酸模(すいば)・すかんぽ・あかぎしぎし
すかんぽや手刀で切る帰り道
虎杖(いたどり)
戯れに食わせ虎杖目鼻寄せ
茅花(つばな)
水辺へと茅花流しが誘う園
春蘭(しゅんらん)
春蘭や下駄箱の上かをり待つ
黄水仙(きずゐせん)
こちら向き風に抗ふ黄水仙
磯開(いそびらき)
老骨と見せかけ走り磯開
其角忌(きかくき)
其角忌や薄汚れたり聯五枚