「福島の美術館で何が起こっていたのか」
なぜこの本を読んだか
2019年に仕事で福島市に通っていました。時間が空いた時に、何回か福島県立美術館に行ったことがあって、その美術館の話だということで読んでみました。
福島県立美術館の印象
福島駅から飯坂温泉行きの電車に乗り、途中の小さな駅(ときどき無人でした)で降り、住宅街を抜けるといきなり開けたような場所があって、そこに美術館があります。向かって右側に図書館があって、その間をつなぐ建物にレストランがあります。
常設展と企画展と、何回かに分けて見に行っていました。
どちらかというと、常設展の方に惹かれました。細長い通路みたいなところの両側の壁に小さな絵がたくさんかけてあって、そこが静かで、じっくり絵を見ていたような覚えがあります。誰のどんな作品だったかは忘れましたが、福島ゆかりの絵だったような気がします。
あの静かな場所が
私が行ったときは、まったく震災の影響は感じられなかったのですが、この本では震災の翌年くらいに当時の様子が語られていて、建物や展示品の被害が結構あったことがわかりました。
もっとも驚いたのは、放射能についてたくさん語られていることでした。
私も当時は雨が気になるくらいの距離に住んでいましたが、そこまで放射能を気にしていなかったので、小さな駅から美術館までのあの静かな場所の中で放射能を意識していた、というのはちょっとびっくりしました。
どうやったら幸せになれるか
この本の後半の座談会で、放射能の影響をどう捉えるのか、という議論があります。その中で、専門家が言うよりも、実はもっと放射能の影響があるのではないか、と、美術館職員の方に問いかけられているシーンがあります。誘導尋問のような感じでしたが、そこで職員の方が、「どうやったら幸せになれるかということが一番の関心」という発言をされたのが強く印象に残っています。
記憶と記録
著者は冒頭、「経験の一つひとつを、記憶が鮮やかなうちに、記録しておく必要がある」と書いています。
著者の狙いは成功しているように思えます。