「都立松沢病院の挑戦」
ただの自慢話ではない
冒頭、今の病院の様子を紹介していて、病院トップの自慢話の本かと思っていたら、すぐに裏切られました。
140年の歴史
1879年(明治12年)の東京府癲狂院発足から、現在に至るまでの歴史を振り返っています。明治維新、第二次世界大戦、国民優生法、ロボトミー等、日本の精神医療の歴史を知ることができます。公費負担と私費負担で、入院患者の死亡率が違うというのは、想像ができない世界でした。
二度目の勤務
著者は、若い頃にこの病院に勤めていて、その後、民間病院に移り、今度は院長として戻り、昔診た患者と当時と同じ病棟で再開した、というエピソードがあります。その時の思いがこの本のあちこちに出てきているように思います。
事務職員とのやりとり
民間病院を経たことで、松沢病院に対する見方が厳しくなっているのだと思いますが、こんな事を書いていいのか、という話がたくさん出てきます。
「あそこの道路は財務局の管轄ですから、掃除をする義務はありません」、「都立病院の支出はすべて固定費です」という事務職員とのやりとりが紹介されています。
なるほど、理屈ですね。
BCPについてのやりとりもおもしろいです。
著者はこの本が出版されるときにはまだ院長なんですが、そんなことを気にする人でないのもよくわかります。
病院の改革
この本に書かれている病院改革の内容をいくつか挙げます。
・会議の削減
・院長とのランチ(毎日)による研修医のフォロー
・患者、民間病院、診療所へのヒアリングと患者受け入れ状況の精査によるマーケティング
・初心患者の予約制導入、外来日以外の外来診療禁止で、患者の待ち時間を減らしたり、病棟業務の円滑化を図る
・24時間隔離と拘束の削減。隔離・拘束患者は、回診時、必ず院長と看護部長が診察する
・インシデント報告の奨励によるリスクマネジメントの強化
・家族を病棟内に入れたり、研修・見学の積極的な受け入れで、外部の目を意識させる
・民間病院の依頼を断らない
他病院との比較
著者は、業務改善を考える際に、他病院との比較を行っています。
病院収益、100床あたり職員数、職員一人当たり収益などで、松沢病院がおかれている状況を確認し、病床当たりの稼ぎが悪い、(負担金で)松沢病院は金がかかる、職員はよく働きよく稼ぐ、だから、職員の負担を減らさなければならない、と総括しています。
この視点はおもしろいな、と思いました。
この後は?
著者は、かなりストレートな物言いをしています。たぶん、職員側にもいろいろ言いたいことはありそうです。
著者が去ったあとの松沢病院はどうなるのでしょうか。
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